【シルクロード】国境の崖を越えろ!(6)結果オーライの旅行続行
前回のあらすじ:
濁流へ落ちたリュック、奇跡の帰還! ただし現金とパスポートを除く。
波村さんのリュックは、ずぶ濡れながらも奇跡的に還ってきた。
とはいえ、
「パスポートがなければ、国境をこえられません……」
ビザの取り消しにより、国外退去しなければいけない期日も、過ぎてしまった。
絶望しか、ない。
さて、まるっと消失した道の先へゆくには、さてどうしたらよいだろう……わたし達4人以外にも、何人かの日本人男女もあつまり、パキスタン人らが中古の自転車を脇へとめ、途方にくれている。
そうする間にも太陽は高くのぼり、じりじりとわたし達を焦がしはじめる。
渇きかけた水溜りが、虹色に光っていたのが印象的。油ではなく、金属成分が濃厚な土壌だから、という解説を聞いた。
そんな中で、親切なパキスタン人が巨大なスイカを割って、その場の皆へふるまってくれたりもする。
沙漠のスイカは、甘くて美味しい。
突如。
「道をつくったぞ!」
工事現場の監督が叫んだ。
本来の工事の前に、作業員たちはせっせと、ショベルカーを駆使して細い道を即席に作ってくれたのだ。
え、ちょっと待って。
これって、待ってさえいれば、いずれにせよ通れたってこと?
夜明け前から始めた、あの危険きわまりない崖登り、いったい何だったの?
「ああ……命懸けの準備体操をしてたんだね、うちらって」
こりゃもう、笑うしかないよね。
即席の細道は、あまり安定している気はしないけれど、崖上や崖下より数万倍も安全だ。
パキスタン側へ抜けたい皆は、どやどやと動き出し、渡りはじめる。
わたし達のパーティ4人は、ここで波村さんとお別れすることになった。
「パスポートを紛失した以上は、北京へ戻って再発行の手続きをしないといけません」
まさかの結末だった。
ほんのわずかな期間だったとはいえ、仲間としての絆が芽生えていたし、寂しくなる。
けど……。
や、ちょっと待って。
「ねえ波村さん、これって……ビザの一件もろとも闇に葬られ……」
そこはかとない疑問を吐くと、それを全力で肯定するかのように、となりで沖さんが笑う。
あの後、いきなり急速に電子化が進んだ今の中国なら、パスポートの情報も、もしかして残るものかもしれない。
や、わかんないけど。
でも、IT化の波がよしよせる前の、呑気な時代だった当時、再発行さえすれば、ビザごと消滅するのだ。
……そんなザルな時代だったのか。
当座の費用として、わたし、沖さん、小野田の三人で、中国の人民元と日本円をそれぞれ出した。
貸したつもりではなく、助けるために出したつもりだったけど、後日、波村さんは律儀に口座へ振り込んでくれた。
とりあえず、これだけあれば、工事作業員さんに電話をたのんで、タクシーを呼んでもらい、空港へ急いで、そこから北京へのフライトが可能だ。
カード類とかも、なんとかなると思う。
そうやって4人で別れを惜しんでいる間に……。
他の人たちはみな、とっくに渡り終えて、影も形もなくなっていた。
◯
残った3人で、消失した道の向こう側へ渡ると、
「見事に、誰もいなくなったね」
沖さんが皮肉っぽくつぶやいた通り、人の影などもうどこにも残っていなかった。
どうも、工事車両がそこで待機してくれてたらしくて、全員、それに乗せてってもらったらしい。(後日、いきさつを聞いた)
「えええ……待ってくれててもよかったんよ?」
わたしが嘆くと、
「まあ、歩いてくしかないか」
沖さんが苦笑し、
「あーあ」
小野田さんが残念がる。
崖登りもつらかったけど、青い空のしたにまっすぐ拡がる平坦な道をひたすら歩くのも、かなりつらい予感。
次の宿が保証されているタシュクルガンという町までは、100キロほど。
100キロ!?
頼り甲斐のある沖さんはよいとしても、女性一名、荷物過多の痩せた男性一名。
これ、大丈夫なんか……?
(ロードムービーの、ワンシーンみたいな景色だなあ)
ま、人生は楽しいな……こういう当てのなさ、好き。
とにもかくにも、3人そろって歩き出した。
旅は青空。
次回、いよいよ最終回としてまとめにはいります。
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