願わくば

殺したいほど私を憎むあなたと
殺されたいほどあなたを愛する私
あなたの憎しみの矛先が
責任転嫁の矛先が
罪悪感の矛先が
私に向いてくれてよかった

ありきたりな言い方だけど
手をのばせば簡単に触れることの出来る距離にいるあなたは
けれど私には遠すぎて
どうもがいたって指一本触れることはできなかった
でもそれでよかった
それで満足でした
私はあなたの物語のヒロインでも
ライバルでも親友でも級友でもなくてよかった
ただあなたの視界の隅の隅に
私の姿が少しでも入っていればよかったんです
でもそれも願わないと知った時
私はあなたを恨みました
そうして一層愛しました
あなたに認識されていないのならば
いっそ私を殺してほしい
願わくば、あなたのその手で

あの子の死は、私の人生に訪れた最も不幸で最も幸運な出来事でした
思いもよらぬ好機が私の元に突然に転がり込んできたのですから
あなたは私を憎みました
そうしてようやく私を見ました
あなたの物語に、ようやく私は登場しました
あなたの最愛の人の親友として
あの子の死を止められなかった親友として
どうして止めてあげなかったの
どうして何も聞いてあげなかったの
どうして気づいてあげられなかったの
あなたの憎悪のこもった視線は
私の心の最も深い部分を震わせて、愛撫して
でもあなたは気づきませんか?
気づいてますよね?
その言葉はそっくりそのままあなたに帰って来るってことを
でもいいんです
私はそんなことで幻滅したりはしません
むしろあなたがむき出しにするその弱さや卑劣さが
私には震えるほどに愛おしく感じられるから
それに私だって卑劣です
最低です
クズの極みです
あの子の親友とされた私は
いえ、親友である私は
あの子の死を歓迎したからです
望んだわけではありません
でも訪れた彼女の死を、私は目いっぱい祝福しました
最低と思われるかもしれませんが私は一向にかまいません
あの子の死が、わたしにあなたとのつながりをもたらしてくれましたから

あの子の死を受け入れられないあなたへ
自分勝手で幼稚で卑劣なあなたへ
私を殺したいほど憎悪するあなたへ
願わくば、私はあなたのその手にかけられて

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