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なでと君むなしき空に消えにけん

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小さな教会のある山間の町、渡呉。 そこに住む女子高生の杏子は、父親を亡くしながらも、母と二人、強く生きていた。 そんな中、渡呉の町に『知死期の導』と名乗る一人の男と小さな神様がや…
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#長編小説

なでと君むなしき空に消えにけん 3-2 美夜子

なでと君むなしき空に消えにけん 3-2 美夜子

お母さんが死んだのは、私が十歳の頃だった。
自殺だった。
この町では、特別珍しいものではなかった。
渡呉(わたらご)の土着の病みたいなもんだ、なんていう人も少なくなかった。
颯のお父さんも、杏子ちゃんのお父さんも、蒔田の娘さんも、みんな、自殺だった。
そこをふまえれば、『ササメサマの禍イ話(まがいばなし)』も、渡呉祭の生巫女流し(イキミコナガシ)も、渡呉の町が生んだ、らしすぎる文化といえるだろう。

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なでと君むなしき空に消えにけん 3-3 美夜子

私は中学二年生になっていた。
度重なる演技で、私の心はぼろぼろだった。さらに、自ら抱いた疑念のせいで、何の罪もないヘレナさんの優しさをうまく受け入れることができず、私の心から、再び平穏が失われつつあった。
私は周りから変わってしまったねと、思われるようになった。
お母さんのことがあるから、みんな口にこそ出さないものの、彼らから向けられる視線は、明らかに変わってしまった私への戸惑いを感じさせるものだ

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