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並びが変われば情景が変わる

結局、人は見た目なのか

コミュニケーションにおける「視覚」「聴覚」「言語」の要素を、印象形成の割合で示したのが「メラビアンの法則」。これによると「視覚」「聴覚」が非言語コミュニケーション、「言語」が言語コミュニケーションですから、93%が非言語で印象づけられていることになります。つまり、表情・態度や格好など「見た目」で相手を判断する傾向が強い。

 視覚情報(ビジュアル)55%
 聴覚情報(ボーカル)38%
 言語情報(バーバル)7%

これらを考えてみるシリーズとして、
第1弾は「色」をテーマに、視覚情報に関するお話をしました。

原稿よりも、伝え方

第2弾は「言葉」がテーマ。言語情報(文字・バーバル)に関するお話です。

ラジオの場合は「聴覚情報」と「言語情報」で構成されるメディアですから、2要素で再計算すると「聴覚情報が84%、言語情報が16%」であり、「何を言うかよりも、どのように伝えるか」が大切ということが言えます。すなわち、原稿にこだわるよりも、声のトーン・速さ・大きさ・間合いなど「喋り方」を準備しなさいということ。「聴覚情報」の効果がとても大きい。

しかし、勢い任せに言えば良いものでもない。伝わったとしても、伝わったモノの中身がズレていれば本末転倒。しっかり自信の持てる味があってこそ、人を呼び込む言葉にも太さが出る。僕は「言葉」の力には魅力を感じていますし、もっと上手に、もっと丁寧に、もっともっと日常のなかで「言葉」を意識することをお勧めしたい。(僕は視覚や言語を作るのが本業なので。。。)

そこで、第二の影響力を持つ「聴覚情報」の前に、第三番目の「言語情報」のお話を取り上げていきます。

文字は並び方だけで性格が変わる

同じ文字でも並び方次第で、笑わせたり、泣かせたり、心を揺さぶります。言葉の配置や配合具合で物語は変化し、創造の世界は場面も時間も瞬間的に変えていきます。不思議ですよね。

辞書も小説も、「紙に文字が並んでいる」ということでは同じなのに、頭の中に湧き出てくるものが一人ひとりで全く違う。だからある意味、本というのは一人ひとりにとって異なるものを提供しくれるオートクチュールな存在と言えますよね。誰もが同じ文字を見ているけれど、誰も同じ想像世界は見ていない。

動画の場合は情報の解像度が高いので、見る人で感じ方が近似してくる。例えば、本のなかの一文で「働く男が歩いてくる」とすると、読む人の感覚によって、オフィスワーカーにも見えるし、工事現場のワーカーにも見える。映像の場合は「これです!」という答えが見えちゃう。

寄り添う感知力

そして、僕が広告キャッチコピーの世界がほんとうに面白いと思うのは、たくさんの想いや考えが詰まったメッセージをギュギューーーッツ!!と、たった数文字に閉じ込めている世界。言葉に含まれているものが超濃厚。1文字2文字のパズルの世界。

超有名なキャッチコピーで、僕も大好きなこちら
「そうだ 京都、行こう。」
約30年続くJR東海のキャンペーンとして生まれたキャッチコピー。

このキャッチコピーからは、ある時に「京都に行きたい」と思い立つ情景、そして衝動的に行きたくなる自分の中で湧き上がる気持ちが言葉の並びから感じられます。

これが「よし、京都に行こう!」では全く違う。「よし」といった計画的な意思表示ではなく「そうだ」と衝動的に行きたくなる気持ちが大事だし、「そ」と「よ」では、文字面(もじずら)から受ける印象も違う。もっと細かく言えば、「そうだ 京都へ行こう。」でもだめ。“へ”を入れると計画的なニュアンスが出てしまう。

言葉が嘘をついていないことが重要。心の奥から湧き上がる情景が浮かぶ、この「共感」を徹底することがコピーライターの技。良い言葉を生むには、演者のようにその世界に憑依できるかどうか、人に寄り添う感知力が大事であると思います。

デール・カーネギーの名著「人を動かす」においても、「批判も非難もせず、苦情も言わない」「率直で、誠実な評価を与える」「強い欲求を起こさせる」この3要素が「人を動かす3原則」であると解いています。まさに、「寄り添い」です。

その言葉は誰のための言葉なのか

「One more thing...」

もうひとつ、惹きつける言葉のパワーとしてAppleのスティーブ・ジョブズによるプレゼンテーションも特徴的。さらりとカジュアルな展開なのでテクニックを感じさせないのですが、緻密に実行され、聴衆を引き込む研究が成し得るものだと言えます。

 第1、情熱的なビジョンを掲げる
 第2、柱となるキーメッセージを3つほど出す
 第3、理由をわかりやすいメタファーで解読
 第4、デモや実例で納得させる

以上の4段構成でほとんど行われており、これがビジネスプレゼンテーションで教科書的に言われている「PREP(プレップ)」の構成になっていることがわかります。(9つ構成であると紹介している文献もありますが、ここでは大分類として4つ。)

 P=要点、結論(Point)
 R=理由、背景、根拠、効果(Reason & Reality)
 E=具体的な事例、仮説(Example)
 P=結論の再確認(Point)

Appleのイノベーティブなプロダクトやキャンペーンも、紐解いてみると手法は教科書通り。一流は基礎を疎かにしないという訳です。「作りたい世界観」「ありたい姿」を最初に掲げる。

たとえばAppleなら
 ↓ 私たちはもっと自由で創造に満ちた世界に変えたいと考えています。
 ↓ クールなデザインや美しい映像はあらゆる場所から創造されることを望んでいます。
 ↓ そのためには、素晴らしいスペックのコンピュータが必要です。
 ↓ そして、私たちはここに、世界を変えるプロダクトを用意しました。
と、なる。
「価値・意味」から話がスタートしています。

これがApple以外となると
 ↓ こんなに素晴らしいスペックのコンピュータができました
 ↓ だから動画もデザインもサクサク動かせます。
 ↓ クールなデザインや美しい動画を作りたい方々におすすめです。
 ↓ このプロダクトから私たちは世界を変えていきます。
このように、「機能」から説明が始まってます。

単に主語が逆になるだけで、メッセージの受け取り方が変わってくる。

逃げないコピーライターになる

難しい単語に逃げず、やさしい言葉の組み合わせで世界を広げてワクワクを高める。自分が「あ、これ素敵だな」と感じる言葉、広告キャッチコピーや小説の一文を分解して紐解きながら、自分の言葉遣いの技として意識してみてはいかがでしょう。

※内容に一部誤りがあり訂正いたしました。(2024.4.12)


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