⑥ホットケーキに想いを馳せる。
ホットケーキが好きだ。
小さい頃は、日曜日の朝に母に頼み込み、ホットケーキを朝ごはんにしてもらったことも多い。
その後大学生まで、ホットケーキ熱はそこまで燃え滾っていなかったのだが、社会人になった今、最高のホットケーキに出会ってしまった。
京都にある、ホットケーキが有名な老舗喫茶店。
初めては友人とふたり、カフェを探していてようやく見つけて入ることができたところで、ホットケーキ目当てに行ったわけではなかった。
歩き回り疲れたこともあって、お店の入り口にも写真が貼り出されていたホットケーキを頼むことにした。
10分、15分ほどで出てきたホットケーキを見て、「美しい」と思ったのは言うまでもない。
生地の厚み・色、バターの配置、香り、全てが100点だった。
小さい頃、家で作りたかったあのホットケーキミックスのパッケージの表紙そのままのようなホットケーキだった。
いや、それよりも美しかったかも。
ひと通り眺め、愛で、写真に納め、ついにフォークとナイフでいただく。
柔らかい、だけど弾力のある生地は、噛む瞬間に含んでいた暖かな空気を口の中に吐き出し、滲み滲みと隠しこんでいたバターを、これでもかと舌の上に撒き散らし始めた。
私の体に「幸せ」が染み渡った。
一口目をしばらく噛み締めたあと、続いては皿横に置かれていたメープルシロップ。
小さな銀のミルクポットにひたひたに入れられたシロップを、生地の上に流しかけると、蜜色のドレスが生地の上に広がった。
艶やかに焼き上げられた生地の上を滑るように流れるメープルシロップを逃さないよう、フォークとナイフを駆使しながら、一口大に切った生地をするりと口の中に運んだ。
少し歯の痛くなるようなシロップの甘さが、口の中を駆け巡る。
そこをふわふわのホットケーキが撫で回していく。
口が、口の中が遊園地だ。
少し時間がたったホットケーキは、シロップをその体に存分に吸収し、口の中で放出するのを待ちわびているかのように見えた。
最初から、最後まで、美味しい。
私が探していたホットケーキはここにあったんだ、と感動した。
それからというもの、何かにつけてあのホットケーキを食べに、その喫茶店に足を運んだ。
人気店ゆえ、早めに行かなければかなり待たなくてはいけなくなるので、開店時間を目指して行くこともあった。
京都人の特権だった。
今は京都を離れてしまい、そんな特権も失ってしまった。
でも今日、ふと思い出したのだ。あのホットケーキが食べたいと。
私にとっては幸せの塊だった。
元気の源だった。
そういう食べ物に出会えたことが、とてつもなく嬉しい。
思い出すだけで幸せな気持ちにさせてくれるなんて、あのホットケーキは私の女神なのかもしれないな。