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花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

◆花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社、2018年)

会う人会う人に、その人に合いそうな本をすすめまくるという、鬼のような修行をやってのけた人の話だ。「出会い系サイトで」「70人と」「実際会って」「その人に合いそうな本を」「すすめまくった」のだという。月影先生だったら「おそろしい子!」と言うのだろうか。いや言わないか。タイトルをたくさんの「」で細切れにしてみたが、これらそれぞれにかなりのパンチがある。

なによりもまずは出会い系サイトだ。これは以前からあるし上手に活用している人はいるのかもしれないけれど、初めての人にはかなり勇気が要る。だってどんな人がいるかわからないし悪い噂も聞く。こわいのは当然だ。そして70人。学校でいったらたぶん2クラス以上3クラス未満くらい。それってかなり多種多様な人がいるはずだ。自分に合う人、そうでない人、合う合わない以前に自分の理解の範囲を超えてくる人。私だったら10人くらいで挫けるに違いない。

そして、その全員に実際に会ってみる。なんということでしょう。たった30分(延長戦の場合もあり)でカフェなどのオープンな場所とはいえ、これはなかなかの戦いだ。もちろん気の合う人とか常識的な人であれば楽しい時間を過ごせるだろう。仮に楽しい、とまではいかなくても「まあ、こんな感じか」ってくらいの時間にはなると思う。しかし、本書のなかにも出てくるが、明らかに失礼な人ともとれる言動をする人や、後にヤバい行動に出る人などにも遭遇する。70人もいるのだから仕方ない。もし私だったら「時間返せ」「帰りたい」「せめて奢ってくれないか」とか大人げないことを猛烈に思ったりオーラを出してみたりするかもしれない。我ながら最低な奴だ。だからこそ著者の辛抱強さはなかなかのものだ。いい人もあればそうじゃない人もいる、くらいの感じで挑むのがいいのだろうか。見習いたい。

さて、会うだけならただ行けばいいのだけれど、そこでその人に合いそうな本をすすめないといけない。私だったら無理そうなときは無理、とか諦めてしまいそうだが、それもやってのけるところがこの著者のすごいところ。これはかなりの知識がないとできない、本当に。私は好きな本でも時間が経つと内容やタイトルがあやふやになりがちなのにどうなっているんだろう。脳がすごいのか、脳が。素直にうらやましい。これはもう、はじめから「アウトプットするもの」としてどっぷり本に浸かっていないとできない気がする。

やや、もう、タイトルを口にするのは簡単だけど、よくよく考えたらとんでもないことだ。中の書き味が飄々とした感じだから楽しくすいすい読めてしまうんだけど、著者のエネルギーとXという謎の出会い系サイト(これが一番気になる!)が生み出した奇跡のような一年の話。何十年もかけて創りあげた人間性が一年でガラッと変わる。これは奇跡と呼んでもいいんじゃないだろうか。

知らないところに飛び込んでみたり、初めてのことにチャレンジしたりするのはやっぱりこわい。でも、続けてみるといろんな驚きがある、いいことも悪いことも肥やしになると思わせてくれる。読み終わった後に「よっしゃ」と少し顔が上向きになる一冊。

++++

そういえば。

当初、一ヶ月でどのくらい書いたか、どのくらい読んだかの目安としてナンバリングをしていたが、逆に数字にとらわれるようになってきてしまったのでやめることにする。気ままに行こう、そう決めた。


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