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予定のない休日はノンストップで読みたい小説と共に

「徹夜必至」「電車乗り過ごし注意」「ページを捲る手が止まらない」「一気に読んじゃいました」

どれもこれも本屋でよく目にする文句だ。あまり目にしすぎると「ほんとかよ」と思ってしまうかもしれない。「んなわけないだろ、徹夜はさすがに無理だよ」「気をつけて電車に乗らなきゃだめだよ」と思うかもしれない。あるいは「いやいや、そう言っときゃ買うと思って、まったくもう」とか。

たしかに冒頭の売り文句は使い古されてきた感がある。出版社の皆々様にはぜひもっとクリエイティブな文言を生み出してほしい。定型文はもうやめだ。「タピオカの行列もあっという間」とか「有給使ってでも読みたい」とか「玄関開けたら2分で読書」とか、私が冷めたコーヒーを啜りながら適当に考えたのじゃなくもっとイカしたコピーを一つ頼みたい。

とはいえ、ものすごい速さでページを捲り、電車に乗っても終点で肩叩かれるまで降りるのを忘れてそのまま本を開いたまま歩いて隙あらば読み、帰宅したら着替えも適当に寝食忘れて一気読み、したくなるような本も実際にはないこともない。ということで5冊シリーズ第2弾だ。ぜひ何も予定が入っていない休日の早朝、あるいは休日の前夜、飲み物食べ物も用意してトイレ以外は移動しないぜ、スマホの電源切っちゃうぜ、くらいの準備をして読み始めたい小説たちを集めた。

◆宮部みゆき『理由』(新潮文庫、2004年)

なにはともあれまずは宮部みゆきの『理由』だ。一気に読みたい小説について考えると外すことのできないのがこの作品。「とにかく読んでみてほしい」と、ここでもまたありきたりなことを言いそうになるが、だがしかし本当にその通りなのだ。ノンフィクションのような臨場感のある筆致。マンションの一室で殺された被害者一家が実は「一家」ではなかったこと。冒頭からとにかくグイグイ引き込まれていくのだ。専門的な内容も含まれているため、人によっては途中もしかしたら「はやく、はやく真相を!!」となってしまうかもしれないが、ぜひそこは粘ってほしい。読み終えたとき、お化けよりも妖怪よりも結局、「人間」こそが最も不可解で恐ろしい生き物なのではないかと感じるだろう。そして何より作者、宮部みゆきの小説家としての恐ろしさを感じるはずだ。

◆宮部みゆき『火車』(新潮文庫、1998年)

次は『火車』だ。「かしゃ」と読む。これもまた、どうすることもできない運命に翻弄される人間の話だ。この作品の連載及び単行本の出版は1992年のため今と時代は違ってくるが、それ故に細かな合間の解説が活きてくる。当時の状況や登場人物が陥る闇の仕組みについて説明してくれることで、どれだけ時代が変わってもこの物語世界にしっかりと没入することができる。読み終わった後、この物語がもつエネルギーに圧倒されいい意味で呆然としているはずだ。最後まで止まることなく登場人物たちに寄り添い続けたい一冊だ。

◆相場英雄『震える牛』(小学館文庫、2013年)

震える。震えるんですよ、牛が。ってタイトルそのままなんだけど、そのタイトルがまあ肝なんですよ。経済記者でもあった作者なので、とにかく臨場感がたっぷり。ストーリーも巧みだし、読んでいるうちに謎にどんどん引っ張られて深く深く沈んでいく感覚に襲われるんだけど、それすらも心地良いくらいよく出来たミステリーだと思う。とはいえ、実際にあったら怖い、いや私が知らないだけであるのかもしれない、ひええ、とも思わせる緊張感のある物語。ちなみに、これを読んですぐに夫に勧め、その後しばらく我々の会話は「震えてる?」「ぼちぼち」「どのくらい震えた?」「震えてきた震えてきた」「牛がー!」「うーしー!!」みたいな意味不明且つ熱狂的なものだった。3行無駄に使った。

◆吉田修一『怒り 上・下』(中公文庫、2016年)

いやこれは、本当に実際に読んでいて電車を降りるのがもったいない!このまま読みながらどこまでも行ってしまいたい!とにかく遮られたくない!と思った小説だ。まあ電車は間一髪のところで降りることに成功したのだが、これも殺人事件を発端としたミステリー、というか私にとっては人間ドラマ。しかもかなり上質な。どうして作者である吉田修一は人間というものをここまで深く濃く描くことができるのか不思議で仕方ない。これって創作物だよね?ノンフィクションじゃないよね?というくらい真に迫る描写はぜひ実際に読んでみてほしい。誰かを信じることの難しさと尊さに心が激しく揺さぶられるはずだ。

◆横山秀夫『64 上・下』(文春文庫、2015年)

またしても上下巻の分冊ものだ。そして横山秀夫もまた、元は新聞記者だ。だから、というのもあるが、描写がいい意味で緻密でリアリティがすごい。刑事物やミステリー作品にたまにある、飛び道具的なキャラクターとか「うーん、本当に言うのかなそんなこと」みたいなシーンもなく、だからこそこの物語の熱さにやられてしまう。実際には起きていないんだけど、まるで起きていたかのような時代の時代との重ね方と、どうなんだどうなんだと最後まで考えさせながらのあのラスト!長いので一日で読み切るにはちょっと頑張らなければいけないけれど、できれば余韻に浸る時間もとっておきたい。そんなとにかくすごい小説だ。

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長い。長くなった。途中から「あちゃーこれは3冊にすればよかった」と思った瞬間もあった。でも、これでもまだ7冊くらいから厳選したのだ。なのでまた今度、といってもいつになるかわからないけど、今度は全部合わせても誰も死なないノンストップ小説とか考えてみてもいいかもしれない。さて、どれにしよう。



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