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この暑い夏に読みたい本の話をしよう

寒い夜だから明日を待ちわびて。寒い夜の過ごし方を教えてくれたのは小室哲哉だけれど、それなら暑い夜には何をしようか。なんて、あちーなー、と思う度に「寒い夜だから…」という歌声が頭の中に流れるのはこの狂ったような暑さのせいなのか。暑さが一周してついに寒さについてしか考えられなくなってしまったのか。まあそんなことはどうでもよくて、とにかく毎日暑いのだ。そんな時こそ涼しい部屋で優雅に読書なんてどうだろう。ということで暑い日々に読みたい本を5冊集めた。

◆高野秀行『世にも奇妙なマラソン大会』(集英社文庫、2011年)

暑い日にはキムチ鍋だぜ、くらいに暑さを感じたい人におすすめ。サハラ砂漠でフルマラソンをするという、日本人からしたら「え、どういうこと、それ正気?」と真顔で聞き返したくなるようなイベントに挑む著者。しかもこれがフルマラソン初挑戦という。とりあえずこの本が出版されているということは無事生還したということなので、暑いを通り越してもはや熱い地域の話だけどクーラーガンガンの部屋でレモネードでも飲みながら読もう。ただし、めちゃくちゃ過酷な話のはずなのに最高に面白いのは高野マジックなので、決してマネしてはいけない。

◆高野秀行『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫、2003年)

若い頃、貧乏だったり汚かったり適当だったりしてもある程度平気だったのは、若さのおかげだったのだと今になって気付く。この作品にあるのは私たちがかつて経験した青春、若さ故の過ち、今だからこそ笑える壮絶エピソード、などなど。なんて、そんなカジュアルなものではない。常人だったらあっという間に根を上げてしまいそうなミラクルワールド「野々村荘」での日々。魑魅魍魎百鬼夜行とはこのことか。言い過ぎか。最後はなんだかステキな話で終わるあたりと表紙のデザインのせいか、気持ちの良い読後感と爽快感が夏にピッタリなエッセイ。

◆原田宗典『十七歳だった!』(集英社文庫、1996年)

思春期というのはある意味、病のようなものだ。少なくとも私はそう思う。母校の教師が「女子高生は地球上で最強の生き物」と言っていたが、男子高校生だって似たようなものだ。自分のことで頭がいっぱいで、走り出したら止まらなくて、時間だけはあるもんだから余計なことでも全力投球。しかも文体が最高ときた。憂いをぶっ飛ばしてカラッと笑いたいなら。ただし、読後しばらくこの文章の個性が乗り移ってしまっても責任は負わない。うりうり。

◆西村淳『面白南極料理人』(新潮文庫、2004年)

涼しさを感じるには怪談、という考え方もあるが、思い切って「気持ちだけ」ではなく「ガチで」寒い場所が舞台の本なんてどうだろう。とてつもなく今っぽい言い方をすると、おじさんだらけのテラスハウスin南極、ってところなのだけれど、決して色恋をしにきているわけではない。彼らの役目は、きちんとした仕事で調査でサポートだ。でもやっぱりそれだけっていうわけにもいかないから、娯楽だったり季節のイベントだったりをするんだけど、それがとても楽しそうなのだ。めくるめく南極ライフを送ることはたぶん一生ないけど、一度はのぞいてほしいものだ。映画も最高だしね。

◆森絵都『カラフル』(文春文庫、2007年)

やっぱり定番を1冊はいれておこうかと思い、『ぼくらの七日間戦争』と迷ってこっちにした。大人になると休みはあればあるほどいいのかもしれないけれど、子供の夏休みはいろんなことを考えてしまうくらいに長い。毎日虫を捕ったりプールに行ったり叫びながら走り出したりして気がつけば終わってるのならいいけれど、うっかりすると黒い感情が出てきたり、冷たい風が心の中をごうごう吹いたりするかもしれない。そんなときに、この本を読んでほしいと思う。物語は現実を変えてくれないことは十分わかっている。それでも、自分の気持ちが軽くなったり、肩に乗っかったものがほんの少し小さくなっているような気分になる、そんなこともあるかもしれない。物語には力がある、とそう思わせてくれる1冊だ。もちろん、大人にも読んでほしい。

本当は鈴木清剛の『消滅飛行機雲』や森村桂の『天国にいちばん近い島』もいいなと思ったが、あまり出回っていないようなので見送ることにした。「手に入りにくいけど面白い本たち」とかでまとめようかと思う、いつか。そして今日もまた、暑い日がつづく。


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