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技法を深める〜銅版画から離れて見る景色〜

◎技法を深めるって何をすることなのか。

 絵を描いていると、「表現が浅い」という言葉を耳にします。
 そういう時に色々な言い回しはあっても、技法の側面に共通して問われている、ある事に気が付きました。
 結論から言うと、

「あなたはその技法の、どこを何に利用している?」


◎深さの守破離

 広さに続き、深さ(縦軸)の守破離。
 これが詰めの足りなさを埋めるものです。
(守破離?な方は、広さの守破離を読んでください。)

 何から離れるのか
 それは教科書的なものです。
 目指すのは自分です
 技法の捉え方が変化するだけなので、先人への敬意は失いません。むしろ増します。


◎銅版画の守破離

 私は、エッチングという腐食銅版画の技法を学び、四半世紀の間、それを実践してきました。

 しかしその間、腐食を止めるための溶剤、"ハードグランド"というものを銅の板に塗って、それを腐食を止める為に使う以外には考えませんでした。

 それは何故か。“最初にそう習ったから”です。

私の初期の銅版画

守:それを疑わずに制作を続けた日々。それは悪いことではありません。得たことも多い。金属板にどう凹凸を作るかについて幾度となく様々な条件で試すことが出来ました。自分が気に入った線が得られるまで何度も。
 その蓄積が、自分が一発で引く「線の力」になっています。

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破:ある時に、ガラスにハードグランドを塗っている先輩作家を2人知りました。特に私とは作風が異なる、抽象的な作品を発表する作家のその風合いにとても惹かれました。
 ハードグランドは防食剤なので、それを絵の具として使用する人がいるとは考えてもみなかったので驚いて質問すると、快く答えてくれました。
 そしてこんな内容を私に言いました。

「技法なんていくらでも教えてあげるよ。でもほとんどの人が、話を聞いただけで分かったと思って満足しちゃうんだよね。だから実際に1点でも自分の手で制作してみる人は数十人に1人もいないよ。更にそれを続ける人なんて・・・ほぼ皆無だね。」

 黙って聞いていた私は、こんな風に予感しました。

「じゃあ自分は皆無って側の人間なんだ。」

 作家をやると決めた人は、だいたいこういうことをず〜っと周囲から言われてきているので珍しくもない話ですが、その時もまたやる気がメラメラと湧いてきました。

 帰宅した足ですぐに準備に取り掛かると、作品があっという間に10点を越え、その予感は確信に変わりました。

最初期の作品はこんな感じ。

離: 制作を続ける中で、線の窮屈さに耐えられなくなり、ある時別のことにも挑戦しました。それは自分が銅版画で追求していた線の抑揚をガラス面においても取り入れることです。

 具体的には、先に水溶性の画材で描き、その上からハードグランドを塗布し、描いた部分のみ洗い流すと始めに描いた通りの線が得られるという技法です。これが成功し、更に自由な線描が得られました。

その後の線の幅が増えた作品はこんな感じ。

 この時点で、銅版画で黒くなる部分が、ガラス面だと透明になるという逆転の面白さがより強調された絵になってきていました。作品が自分に近づき、もっと気に入ったものになっていく予感がしました。グランドのかけ方により、箔の出方をコントロールすることが出来れば更に表現は広がります。金箔以外の箔も使えます。

次に描く作品が楽しみだ。と感じました。

 これが私にとっての銅版画からの守破離です。

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そもそものガラス絵について(歴史、構造、作る人の感覚、額装etc.)
層状にすることについて(何故重ねるのか、発想のバックボーンetc.)
箔を使用することについて(箔との出会い、イタリア旅etc.)

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