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ガラス絵って知ってますか?

◎そもそもガラス絵ってなに。

 私は、主に「多層ガラス絵」という技法で作品制作をしている作家です。
 ”ガラス絵”というもの自体、あまり聞き慣れない技法な上に、絵なのに”多層”とは?だと思いますので、今回は”ガラス絵”についてのお話です。

 ガラス絵の作り方
⒈ガラスの片面に絵を描く。
⒉その裏から鑑賞する。

 絵の具が付着している側と反対側から鑑賞する。そんなガラス絵の技法で描かれたものは、西洋発祥です。初歩的な作品は10世紀のものも発見されていますが、本格的にはイタリア・ルネサンスが花開いた14世紀頃から、ベネチアを中心にヨーロッパで広まりました。日本では鎌倉〜室町時代にあたります。
 ハレー彗星が流れ、ダンテの「神曲」が完成し、ペストが大流行した時代。レオナルド・ダ・ヴィンチが生まれる半世紀前から描かれていました。ガラス絵は、油彩画と同時期かそれよりも歴史の古い立派な古典技法なのです。
 当時からマテリアル(素材)の質感そのものを強調する方向を向いていた工芸的性格が、国境を越えヨーロッパに広まり、中近東・アジアという世界規模に伝播し、各地の民衆表現と結びつく要素ともなりました。
 寛文3年(1663年)オランダ商館長から将軍への献上品目として輸入されてからは、我が国でも、”びいどろ絵”と呼ばれ、多く制作されたようです。

(参考文献:ガラス絵ーヨーロッパからアジアへの流れー)

◎全てが逆!それがガラス絵の世界。

 描く時には、前後(絵の具を重ねる順番)と左右を、反転させながら描き進めます。
 つまり、最終的に手前に見える部分から描いていきます。これは紙やキャンバスに絵具で描く場合と真逆の手順です。

◎ガラス絵と版画。

 描く時には、前後(絵の具を重ねる順番)と左右を、反転させながら描き進めます。
 つまり、最終的に手前に見える部分から描いていきます。これは紙やキャンバスに絵具で描く場合と真逆です。

 手順を聞くと複雑に感じるかもしれませんが、この反転が、技法への”慣れ”により固まった絵のコントロールの枠組みを自然と取り払い、見る人だけでなく、描く人自身にとっても新しい出会いをもたらしてくれる可能性を秘めています。
 勿論、踏み込んだ表現をやりたい時にもこの技法はしっかりと応えてくれます。計画性やブレない完成予想を受け止めてくれる懐の深さがあります。

 ここまで書いた事は、銅版画制作に感じる事とも似ています。
 それは、銅版画を高校時代から四半世紀近く取り組んできた自分が、それを軸足にすんなりこの技法の世界に入れた理由の一つかもしれません。

◎額装は一番始めにする。

 私は気に入ったフレームを額屋さんで見つけては、ストックしています。これも制作の一部です。
 例えば下の画像のようなフレーム。

画像1
画像2


 これらは以前の自分なら、選択肢にないものでした。
 実際に出会い、その額縁自体に魅力を感じる。すると、それが引き立つ絵はどんなものかなぁと考えるライン(道筋)も、制作の中に取り入れられます。
 特にガラス絵を始めてからの額に関しては、絵を保護する為の役割や、完成作品の装飾という意識から、制作する際の絵の具と同じ「素材」という風に捉えることが出来るようになりました。

 額装も含め全てが逆順(reverse)。
 英語では"reverse painting"。その名の通りですね。

次回は、この技法で描く理由を。


今日のおさらい
・ガラスの裏から描いた絵をガラス絵と呼ぶ。
・描く手順は全部逆。
・ガラス絵と版画は似ている。
・額装は「仕上げ」ではない。



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