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「箔」の使い方、温故知新

◎ガラス絵の転機

 ガラスを重ねて表現しようと思った時の話で、実際に作品を制作した後で、自分自身が追いつくようにそのテーマの深さに気づく時もしばしばある、と書きました。
 それとは反対の事もあります。出会った瞬間強く魅力を感じながら、その後何年も経って、活かせる場がやってきたことに自らが気づくということです。

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◎イタリアへ旅して出会ったモノ

 私は2013年に、画家の先輩とイタリアを旅しました。
 まず私が高揚したのは、古い街の魅力でした。行った事のない場所は、ただ歩いているだけで好奇心が刺激されます。
 画家がイタリアへ行くという事は、古典美術に関わる場所をピンポイントで攻めることは外せません。団体の観光旅行ではまず立ち寄らないであろう、マニアックなフルコースでした。そんな中で出会ったのは、古い黄金祭壇画でした。


◎黄金祭壇画の魅力

 絵画と工芸の境界が溶け合ったような、不思議な一体感を持った物体。
 公共的なものから個人的な小さなものまで様々です。時を経て欠けたり箔が削り落ち、下の色が見え隠れしています。
 私は、その輝きと古色の調和に惹き込まれました。ひとつの宗教を超えた、人の祈りそのもののようにも感じました。風化し、尚こびりついているような存在。マテリアルの説得力を肌で感じた貴重な体験でした。


◎ガラスと箔の出会い

 ある時、ガラス面から掻き落とされた透明な線、その透過している細い隙間を見ていた時、ふとイタリアで見た黄金祭壇画を思い出しました。箔を貼ると、透明で虚ろな線は、黄金に輝く線に生まれ変わりました。一瞬の目の覚める様な出来事でした。
 黄金祭壇画を知った時、通常の工芸的な手法も同時に知ったので、ガラス絵ではその逆の順序で下地に相当する絵の具を後から重ねていきました。それにより、祭壇画では金が剥がれてから古色が出る部分を、はじめから作品の要素として表現できるようになりました。下地が一番最後に塗られるからです。ガラス絵らしい、工程の時を遡るような逆順です。
 この制作の創意工夫の一歩は、自分にとって嬉しい発見でした。大げさかもしれませんが、その日がこの技法の生まれ変わった日だったと、今日でも思います。

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