07/11/2020:『You Been Talkin' 'Bout Me, Baby』
「さて、何から話そうか。」
と、唇と1つ舐めながらマグカップを置いた。
何千キロも離れていて、おまけに半日も時間が違うものだから、なかなか話すという行為自体にも神経を使うし、いつもよりも覚悟めいた準備が必要だった。
僕らの間にはいくつも解決しなければならないことがあって、もちろんそれらを抱え込みながら前に進むこともできるけれど、今後、荷物が増えていくことを考えるとやはりここら辺で身軽になって置いた方がいいと思う。
「いいわよ、なんでも。どこからでも。ドンと来なさい。」
彼女は画面越しに言った。
いきなり丸投げされても、そう言われるとどこから話していいものかと悩んでしまう。
”制限はイマジネーションを生み、そして自由をも作り出す。”
何かで読んだフレーズを思い出していた。逆に言えば、
”漠然とした自由は、その行為者を小さくする。”
とでもいえるだろうか。
#キッカケをください 、とでも呟いてみてその出方を伺いたいところだった。
でも、そんなことしている暇なく、僕は目の前の画面と向き合う必要がある。
真ん中に映る彼女、右下に小さく映る僕。
バラエティ番組みたいだ。編集された映像を見る出演者。スタジオの風景。
編集された出演者を映した映像はまた編集されて、そして僕たちはそれを見ている。
まぁ、いい。本当に、それはどうでも。
右下に見えるボサボサに伸びた髪の僕。ひどく腑抜けているようだ。
彼女は明るい日差しの下、僕が切り出すのを今かと待っている。小ざっぱりした部屋に、観葉植物の葉っぱが見える。
僕は何から切り出すんだろう。
もう進んだら引き返せない気がする。
もう一度、マグカップを引き寄せた。
・・・
今日も等しく夜が来ました。
Ramsey Lewis Trioで『You Been Talkin' 'Bout Me, Baby』。
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