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第1回:はじめて自社売却(M&A)を検討するタイミング 《連続起業・事業承継・資本提携》「はじめての」M&A講座

こんにちは。
T&Aフィナンシャルマネジメントのさいとうです。

今回から、連続起業や事業承継、事業提携という場面における、M&Aの「売り」に的を絞った、「はじめての」M&Aに係る基本的な知識・スキルについての連載を始めることとしました。

昨今、様々な文脈でM&Aが一般的になっていますが、その規模は新聞の一面を大きく飾るような大々的なものから、売買金額が数百万円から数千万円といった中小規模のものまで多種多様です。
いずれにせよ、ひと昔前まではM&Aは「乗っ取り」といった認識がなされており、買収をしかける乗っ取り屋はあたかもヤクザのように語られることも多かったと思われます。

ただ、最近は連続起業家が事業を創っては売却し、その資金をもとに次の事業を創ってゆく。
また、団塊の世代の大量リタイアも相まって、事業の親族内承継が困難な企業などが事業承継の文脈で自社を売却する。
加えてベンチャー企業が、大企業などと戦略的な資本提携や事業提携目的で自社の持ち分である株式の多くを譲渡するなど、いろいろな場面でM&Aが活用されるようになってきました。

M&Aは売り手と買い手が存在し、各々の利害関係がぶつかり合います。
少しでも納得感のあるM&Aを実現し、「売り手」にとってハッピーなM&Aとするための知識・スキルをご紹介することで、お読みいただいた方々の一助となればと思っています。
是非とも忌憚のないご意見もお待ちしております。

≪T&Aフィナンシャルマネジメント≫
T&Aフィナンシャルマネジメントはベンチャー企業に特化した経営財務支援、クライアント目線に立った中小規模M&Aのご支援をしております。
また、上場企業をはじめとする大企業~中堅企業の経営企画をはじめとする経営管理部門のサポートなど、幅広なご支援をご提供しております。

自社売却(M&A)とは?

自社売却(M&A)は、その目的は様々ですが、一言で言えば、現オーナーが保有している対象会社の株式を新オーナーに売却することです。
また、資本提携の文脈においては、自社の株式を追加で発行し、第三者に有償で付与することも考えられます。
売却の対象となり得る「法人」は法律上複数存在しますが、本連載では基本的には株式会社のM&Aを想定しています。

先にも書きましたが、自社売却をする目的は様々です。
以下にその代表的な例をご説明したいと思います。

・連続起業
・事業承継
・大企業などとの資本業務提携

連続起業は最近取りざたされるようになってきた、事業を創り、そしてそれを売却してその資金を元手に次の事業を創ってゆく手法です。
起業して事業を軌道にのせ、その事業を売却する。
そう簡単なバイタリティでは成しえない仕事ですが、とくにゼロイチで事業を創りだすことのできるアイディアマンを中心に、そういった生き方が市民権を得るようになってきました。
連続起業家は再度新たな事業を創り出すこともあれば、事業売却によって得た大きなお金をベンチャー企業に投資するエンジェル投資家として、後進を育成するといった活動を行っている方もいます。

また、事業承継。
団塊の世代が大量リタイアし、本来であれば親族内承継という形で、オーナーの子息に事業を承継させることが相続税対策などにおいてもベターかもしれませんが、子息が事業の承継を希望しないことや、もしくはその能力がない。
他には、子息に事業を継がせることで、自身が企業経営で感じてきた同じ苦しみを味あわせたくないなどの理由で、事業を売却するオーナーが増えてきました。
現実的に、後継者がいないという理由による廃業も近年増加している傾向にあり、日本の国力を維持することや、雇用を確保する意味からも、行政も本格的に事業承継を支援するようになってきています。

加えて大企業との資本業務提携。
ベンチャー企業や中堅中小企業が独力で成長し、生き残ってゆく道もありますが、大企業と連携して成長の加速度を高める目的で自社の株式の一部を保有してもらうという流れも多く存在します。

いずれの場合も、自社の株式を第三者に譲渡する(もしくは新株を第三者に有償で付与する)という経済行為を行うわけで、それらはすべてM&Aであるということができます。

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自社をM&Aで買収する買い手の意図とは?

売り手とは反対に、M&Aには買い手が存在します。
お金を払って企業の買収をする人たちですが、彼ら買い手の意図を知ることは、今後売り手目線のM&Aを考えてゆくうえでも大切なことだと思います。

買い手の買収の意図は、①時間を買う、②ノウハウを買う、③ネットワークを買う、などの理由があると思います。

ある買い手が、イチから事業を作ろうとすれば、ヒト・モノ・カネといった資源を集め、時間をかけて育ててゆかなくてはなりません。
ただ、M&Aによってすでに軌道にのっている企業を買収すれば、事業を育成するための時間を節約することができます。
また、買収する企業にはすでにノウハウが存在し、かつ人的ネットワークや商売をする上でのネットワークを持っています。
有形・無形を問わず、事業を作りだすには多大な労力とコストがかかり、かつ失敗する可能性も多分に含んでいる中で、M&Aによってそれらのコストやリスクを少しでも回避することができるのです。

加えて買い手は、一般に「相乗効果(=シナジー効果)」を見込んでM&Aを行います。
シナジー効果とは、買い手の資源と買収企業の資源を足し合わせたとき、1+1が2以上の統合効果を発現することです。
実際のM&Aでは、買収後に買い手もしくは買収企業のどちらかの調子が悪くなってしまい、M&Aの意図が十分に達成できないといったこともよくあります。
ただ、本質的にはM&Aによって両者を対合わせた以上の効果が出ることを期待してM&Aが行われるわけです。

売り手との関係で言えば、売り手は買い手に対し、自社が本来は獲得するのに多大な労力とコストがかる資源をしっかりと持っていることを伝え、買い手が自社を買えば更なる発展を見込むことを最大限アピールする必要があります。

M&Aで重視する「方針」を決める必要がある

M&Aにより自社を売却する際、確固たる「方針」を決めておく必要があります。
要するに、お金という金銭的メリットを最大限重視するのか?また、一刻も早く売却を達成するというスピードを重視するのか?
そして、従業員他の取引先など、いわゆるステークホルダーと呼ばれる関係者の幸せを最大限重視するのか?などといった、方針です。

M&Aは売り手、買い手が存在する経済取引で、最終的には金銭のやりとりが発生します。
したがって、経済取引と割り切って、1円でも高く自社を売却したいという思惑にも納得がゆきます。
ただ、長年自社の発展に尽くしてくれた従業員や、苦しい時に世話になった取引先の幸せを十分に考えてM&Aを行うオーナーも存在します。

「お金を最優先で考えて~」と書くと、今まで世話になった取引先や、長年月従ってきた従業員よりもお金を優先するなどけしからん!と怒り出す人もいますが、一方で、企業オーナーも人間ですし、リタイア後はそのお金で老後の生計を立ててゆかなくてはなりません。
加えて、創業から今まで、個人で大きなリスクをとって企業経営を行ってきたわけですので、それに見合う対価を得る必然性はあります。
従って、売却金額を最優先で考えること自体は、まったく非難されるべき考え方ではないと考えています。

個々人の考え方なので、何が正しくて、何が間違っているのかには答えはありません。
ただ、M&Aを考え始めたときにまず行うのが、「今回の売却で最も大切にしたい価値観」という「方針」を明確にすることが肝要です。

納得感のあるM&Aを実現するために

先にもお話しした通り、M&Aは売り手と買い手が対峙する経済取引ですので、各々の思惑が交錯します。
従って、当初思い描いていた条件で自社を売却できるということは極めて稀です。
一定程度譲歩すべきところは譲歩し、絶対に譲歩できないところは死守する覚悟が必要です。
そのためにも重視する「方針」を明確にしておく必要があります。

まとめ

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M&Aという方法で自社を売却するきっかけについてお話しました。
会社は唯一無二の存在で、同じものは絶対に存在しないことと、売却にはタイミングを見計らうということも重要です。
今後、本連載を通じて、納得感のある、そして可能な限り今までの事業や、本件M&Aに関与する関係者が幸福になれるM&Aを達成するための注意点などについてご説明してゆきます。

次回以降の連載にご期待ください。

【≪連続起業・事業承継・資本提携≫「はじめての」M&A講座】
第1回:はじめて自社売却(M&A)を検討するタイミング
第2回:基本的なM&Aの流れ
第3回:M&Aコンサルタントの選定
第4回:M&A売却戦略策定の注意ポイント
第5回:M&AにおけるNDA締結のポイント
第6回:M&Aにおける基本合意締結のポイント
第7回:M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)のポイント
第8回:M&Aにおkる最終条件交渉のポイント
第9回:M&Aにおける最終契約締結のポイント
第10回:M&Aにおける自社売却後のポイント

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