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第2回:基本的なM&Aの流れ 《連続起業・事業承継・資本提携》「はじめての」M&A講座

こんにちは。
T&Aフィナンシャルマネジメントのさいとうです。
本連載では、連続起業や事業承継、資本提携の際に直面する、自社や事業の「売り」に注目してM&Aの基本的な事項から留意点などを連載形式でお伝えしています。

連載初回である前回は、自社を売却(M&A)するタイミングについてお話しました。
事業売却するタイミングは規模の大小はあれ、連続起業や事業承継、資本提携など様々です。
今回、基本的なM&Aの流れ(プロセス)についてご説明させていただき、これから検討するM&Aの具体的なイメージを持っていただきたいと思います。
また、具体的に案件が動き始めた段階においては、ご自身が現状どのフェーズにいるのか?について、逐次認識していただけるようにしていただきたいと思います。

≪T&Aフィナンシャルマネジメント≫
T&Aフィナンシャルマネジメントはベンチャー企業に特化した経営財務支援、クライアント目線に立った中小規模M&Aのご支援をしております。
また、上場企業をはじめとする大企業~中堅企業の経営企画をはじめとする経営管理部門のサポートなど、幅広なご支援をご提供しております。

M&Aの基本的な流れ(プロセス)

M&Aで売買される「企業」や「事業」は唯一無二の存在で、この世に同じものは存在しません。
その観点でいうと、企業や事業は不動産に近しい存在ということもできますが、企業や事業にはステークホルダーと呼ばれる関係者(従業員や取引先など)が多数存在することから、不動産取引よりも、より複雑な検討ポイントなどが発生することとなります。

以下に基本的なM&Aの流れ(プロセス)を「売り手」に着目して記載します。
各々のプロセスのご説明を読んでいただき、まずは粗々のイメージを持っていただければと思います。

【M&Aの基本的な流れ(プロセス)】
■ 買い手候補選定/買い手候補へのアプローチ
■ 秘密保持契約(NDA)締結
■ 基本合意書(MOU/LOI)締結
■ デューデリジェンス(DD)の受け入れ
■ 最終条件交渉
■ 最終契約締結
■ クロージング

次回連載「第3回:M&Aコンサルタントの選定」で詳細をお話ししますが、基本的にM&Aのプロセスを売り手企業が単独で行うということはあまり考えられません。
それは、M&Aは技術的に一定の経験や知識が必要であることから、納得感のあるM&Aを実現するためには、一般的にはFA(フィナンシャルアドバイザー)と呼ばれるアドバイザーに支援を依頼することや、M&A仲介事業者の支援を受けることが多いかと思います。

従って、FAのアドバイスのもとM&Aを進めてゆくことになりますので、プロセスの全てをご自身でご対応していただくということではありません。
M&Aの概要をざっくりと抑えるといった認識でお読みいただければと思います。

買い手候補選定/買い手候補へのアプローチ

自社を売却することや、大企業との資本提携を決めた場合、まずは自社の概要を簡単に説明できる資料(ティーザーまたはノンネームシート)を作成するのが一般的です。

この資料には企業名は記載せず、事業分野や事業規模、業績等を記載します。
資料を用いて買い手となってくれそうな企業にアプローチを行い、持ち込んだ企業の初期的な買収意欲を確認します。

ここで、「ネームクリア」というプロセスをご紹介します。

M&Aのアドバイザーに売却支援を依頼すると、買い手候補先となるリストを案内されることがあります。
どこでも構わないので、高い値段だったら誰でも買ってもらって構わない、というのであればよいのですが、一般的には、「ここに買ってもらう検討をしてもらうのは避けたい」や「長年のライバルで熾烈な争いを繰り広げてきたここの会社だけには買われたくない」など、複雑な思いが交錯すると思います。
ネームクリアというのは、売り手として、この先であれば売却案件として持ち込むことにOKを出した先を選定するということで、アドバイザーはネームクリアされた買い手候補先に売却打診を行うこととなります。

秘密保持契約(NDA)締結

買い手候補先が買収に初期的な関心を示すと、より詳細な情報を提供して交渉に進むこととなります。

ここで必要となるのが秘密保持契約書(NDA)です。

名前の通り、秘密を保持する契約書なのですが、相互に開示した情報(売り手にとっては自社の財務状況等の情報、買い手にとっては、現在買い手が買い意欲をもっており、売り手企業の情報を精査している状況などの秘密)を第三者に漏洩しないことを約す契約です。
違反した場合に生じた損害を賠償することを定め、相互に情報管理の徹底をけん制しあう効果があります。

NDAを締結した後、売り手から買い手候補先に提供される情報をインフォメーションメモランダム(またはインフォメーションパッケージ)と呼びます。
インフォメーションメモランダムには、売り手企業の実名や事業及び財務関する一般的な情報が記載されており、ティーザーより踏み込んだ具体的な内容が記載されていることが一般的です。

中堅中小企業のM&Aにおいては売り手と買い手が一対一で交渉を行う「相対(あいたい)取引」であることが多いですが、時として大規模M&Aのように入札案件となることがあります。
その際、売り手もしくは売り手サイドのエージェントから、買い手候補者に対して、M&Aに係るスケジュール感やM&Aの基本条件などを記載したプロセスレターと呼ばれる書面が交付されることがあります。

基本合意書(MOU/LOI)締結

NDAも取り交わし、インフォメーションメモランダムをもとに売り手企業の精査を行った買い手候補は、さらにプロセスを進めるにあたり、独占交渉権を得たうえで売り手企業の調査や交渉を行うことになります。

その際締結されるのが基本合意書(MOUまたはLOI)で、MOUには、その時点での当事者間の合意事項、買収対象や買収スキーム、買収金額を記載します。

ただ、MOU締結後に実施される詳細なデューデリジェンスと呼ばれる調査で合意事項に修正が入る可能性もありますので、MOU段階では法的拘束力を持たせないことが一般的です(non-bindingと呼びます)。

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デューデリジェンス(DD)の受け入れ

MOUを締結後、速やかに詳細な買収監査と呼ばれるデューデリジェンス(DD)を買い手候補は売り手に対して行います。

DDは法務、財務、税務、事業などの各観点から行われ、売り手のリスクや買収後の買い手とのシナジー発現の可能性など、様々な観点から最終的な買い手の意思決定を行うために実施されます。

DDの過程で発見されたリスク事項などを最終契約に盛り込む必要があるため、特にDDは慎重に行われることが多いです。

最終条件交渉

買い手候補は各種のDDを経て、売り手に対して最終的な買収価格と買収条件を提示し、その条件に対し、売り手と買い手候補先が最終的な条件面の詰めを行うことになります。
最終条件交渉の結果が、最終契約の土台となるため、最終条件交渉は特に売り手、買い手候補ともに緊張感の高まる交渉となります。

最終契約締結

最終条件交渉において売り手、買い手候補の合意が得られた場合、その合意事項について契約書に落とし込むことになります。
最終契約の内容については本連載別章で詳細にご説明しますが、主に、買収価格、表明保証、買収後の実行条件(クロージング条件)、買収後の補償事項、誓約事項、クロージング手順等について記載されることとなります。

クロージング

一般的には最終契約締結後、一定期間経過後にクロージング(取引の実行)が行われます。
最終契約締結からクロージングまでの間に、法令関連手続きの実施や、売り手が治癒すべき事項の実施など、名実ともに最終合意事項を履行できる状況で取引が実行されることになります。

クロージング日においては、買い手が全ての手続き書類や重要物が存在していることを確認し、契約上の履行義務が果たされていることを確認したうえで、買収対価である金銭が振り込まれることになります。

まとめ

売り手目線に立った、一般的なM&Aのプロセスをご説明しました。
諸々の交渉、契約手続き完了後にPMIと呼ばれる統合作業が行われるわけですが、上記で一連のM&Aの流れはご理解いただけたかと思います。

次回以降の連載で、各々の実施事項における詳細をご説明し、留意点などについてもご説明してゆきます。

【≪連続起業・事業承継・資本提携≫「はじめての」M&A講座】
第1回:はじめて自社売却(M&A)を検討するタイミング
第2回:基本的なM&Aの流れ
第3回:M&Aコンサルタントの選定
第4回:M&A売却戦略策定の注意ポイント
第5回:M&AにおけるNDA締結のポイント
第6回:M&Aにおける基本合意締結のポイント
第7回:M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)のポイント
第8回:M&Aにおける最終条件交渉のポイント
第9回:M&Aにおける最終契約締結のポイント
第10回:M&Aにおける自社売却後のポイント

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