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第4回:M&A売却戦略策定の注意ポイント 《連続起業・事業承継・資本提携》「はじめての」M&A講座

こんにちは。
T&Aフィナンシャルマネジメントのさいとうです。
本連載では、連続起業や事業承継、資本提携の際に直面する、自社や事業の「売り」に注目してM&Aの基本的な事項から留意点などを連載形式でお伝えしています。

今回は具体的なM&A売り案件を進めるにあたり、どのような戦略でアドバイザーなどと連携しつつ案件をすすめてゆくか?という点についてご説明します。

M&A案件は取引先や従業員の手前もあり、極秘に進めていかなくてはならない一方で、相当程度情報を展開しないと良質な買い手候補先が見つからないのも事実です。
M&A案件はスピード感をもった案件推進が肝です。
戦略策定を明確に行い、それに則ったアクションプランをスピード感もって推進してゆく必要があります。

≪T&Aフィナンシャルマネジメント≫
T&Aフィナンシャルマネジメントはベンチャー企業に特化した経営財務支援、クライアント目線に立った中小規模M&Aのご支援をしております。
また、上場企業をはじめとする大企業~中堅企業の経営企画をはじめとする経営管理部門のサポートなど、幅広なご支援をご提供しております。

M&A(売却)の目的を再確認する

売却戦略策定において何よりも最初に確認すべきこと、それは、売却の「真の」目的です。

事業売却を行う理由は多岐にわたります。
事業承継文脈であれば高齢化した現オーナーの老後の資金づくりや、後継世代への相続資産の形成など、金銭的な面が大きいかもしれません。
一方で、長年自社の発展のために尽力してくれた従業員の売却後の処遇や、困ったときに助けてくれた取引先との関係性の継続なども気になるかもしれません。

また、連続起業家にとっての売却の目的は、次の事業創造に向けた資金づくりや、エンジェル投資家として後に続くベンチャー起業家への支援資金づくりということになりますので、こちらも金銭的な目的が強いと思われます。

一方で、先ほどの事業承継文脈とは異なり、連続起業家が売却する企業や事業は業歴が浅いことから取引先との関係性は事業承継文脈と比して希薄なことも多く、また従業員の方々もリスクを背負ってベンチャーにジョインしていることから、そこまでウェットな関係ではないかもしれません。

そして、資本提携においては金銭的というよりも買い手(出資者)との今後のパートナーシップがメインの論点となるかもしれません。
金銭面も大切ですが、出資を受けた後、どのように出資者サイドとリレーションを構築するのかという点について戦略を構築し、議論をしておく必要があります。

ここで注意しなくてはならないと思われるのは、「金銭目的」という点について「後ろめたさ」を感じる必要はまったくないということです。
確かに事業運営において多くの方の支援を受け、従業員や取引先の方々から多大なる協力を得て今まで事業を運営してきたことは間違いありません。
従って、これらのステークホルダー(関係者)に最大限の配慮をできる限り行うことは大切です。

一方で、オーナーにとってもプライベートな生活があります。
また、事業を進めるにあたり、銀行融資の個人保証の差し入れを行うことや、時として個人資産を事業に注入するなど、一般の従業員とは比べ物にならないくらいのリスクを背負ってきたことも事実です。

そういったリスクに対するリターンとして金銭的なメリットを最後に享受することは、まったくおかしくない発想であり、最終的な売却選定などにおいても金銭面の優位性を意思決定の拠り所とすることに問題があるとは全く思っていません。

上記のような諸々の観点を踏まえ、M&A(売却)の目的について、①金銭面、②ステークホルダー満足、③自社の継続的な発展、④退任後の関与などの、現オーナーとして何を優先的に検討してゆきたいか?という点について考えを巡らせておく必要があります。

思考

目的に応じた売却戦略

ここでは目的に応じた売却戦略の基本形をご説明します。
典型的な類型として、①金銭型、②限定型、③リレーション型の3タイプでご説明します。

【金銭型】
他と比較して1円でも高い金銭的見返りを求める戦略
【限定型】
従来の事業戦略の延長線上で、「ここには売却したくない」など、現オーナーの売却先の選定に強い意向が存在する場合の戦略
【リレーション型】
売却後の買い手とのリレーションなど、M&A(売却)を持続的な経営戦略の一環としてとらえているため、シナジー発現を最大限模索する戦略

金銭型の基本的な戦略は、スピーディに多くの候補先に幅広に情報を展開することだと考えられます。
ただ留意しなくてはならないのは、本連載で他の回でもご説明する「ティーザー」や「ノンネームシート」と呼ばれる、企業名を伏した資料を用いて関心有無を打診するのですが、正直、事業内容やエリア、売上規模が記載されている資料が企業名なしでも出回ってしまえば、割と当てはついてしまう(バレてしまう)ものです。

「あそこの会社がM&Aで出回っている」という情報は狭い業界内で瞬く間に広まってしまう可能性があるため、広く情報を拡散する方法についてはスピード感が特に重要です。
早々に買い手候補先を限定し、業界に情報が出回る前に案件クローズしてしまうくらいのスピード感が必要とされているといえます。

ここで「ネームクリア」についてご説明します。
エージェントと買い手候補先について議論する過程で、エージェントから案件持ち込み候補先リストを提示されることが多く、各々の持ち込み候補先について、持ち込み可否を売り手が判断することをネームクリアといいます。
エージェントは、売り手の許可がされていない先への案件持ち込みはできず、売り手にとっては、必要以上の一次情報の拡散を防止することが可能です。

次に限定型の戦略ですが、端的に言えばネームクリアの厳格化といえます。
長年の業歴の中で競合だった企業への案件の打診や、現オーナーと人格的にそりが合わない、業界の発展を考えたときに、その会社に自社が売却されることは良くないなどの判断から、持ち込みを限定するケースが多くあります。

ただ、先ほど述べたように、持ち込み先を限定すればするほど、買い手候補先が好感を示す可能性も低下しますので、限定するにも戦略が必要です。

また、オーナーによっては、ファンドではなく事業会社に売却したい、との意向を示す方も多く存在します。

ファンドの主目的は買収した会社を改善してバリューアップすることで高く転売することや、買収先の資産を細分化して売却し、トータルの利益を追求することなので、ファンド買収には将来的な再度の何らかの売却が必ず伴います。

一方で、ドラスティックな手法で経営改善を行うことが今までできていなかった業歴の長い企業にとっては、オーナーチェンジにより、ある種ドライに経営改善が可能となり、結果的に対象企業にとってよい結果となることもあります。
ファンドは絶対NG!という、先入観にとらわれず、諸々の提案を聞いてから判断するのもよいのではないかと考えています。

最後にリレーション型の戦略ですが、これは現在の自社のリソースを深く分析し、どこの会社と提携することが各々にとってベストかを判断し、ベストと思われる先に打診することになります。
当然対象先が限定されることと、相手の意向やお財布事情もありますので、実際には長期戦になることも想定されます。

買い手候補先を選定するポイント

いずれの型であっても、売却打診を行った場合、いくつかの買い手候補先から興味が示される可能性があります。
基本的な流れとしては、興味を示した買い手候補先とNDA(秘密保持契約)を締結し、IM(インフォメーションメモランダム)と呼ばれる、企業名を明示した、より詳細な資料を買い手候補先に提示し、より詳細な検討を要請する流れとなります。

その後のプロセスは案件により、入札を行うことや、先着順で相対での交渉のテーブルについてゆく方法などがあります。

ここで肝要なのは、買い手候補先の選別というか、選定です。

時として見受けられるのが、担当部署ベースでは興味津々だった案件であっても、経営を含めた意思決定までのプロセスが曖昧で、結果的に多くの時間を浪費してしまうケース。

また、最初は高水準な買収条件をチラつかせておきながら、交渉が進むにつれて買収価格の引き下げを過度に主張することや、条件の緩和などを求めてくるケース。

そもそも余裕資金がなく、買収の余力がないケース。
などなどが存在します。

M&A案件は時間が勝負とは申し上げましたが、情報が出回ってしまうというデメリットに加え、長期化することによる売り手サイドの疲弊もあげられます。

オーナー自身も緊張感もって売却案件に対峙していますし、時には経理担当者など、限定的な従業員も巻き込んで案件推進が行われます。

相対交渉フェーズに持ち込んだものの結実直前で破談。
そんな状況が1回ならまだしも、2回も3回も続いてしまうと、売り手サイドは心身ともに疲弊してしまいます。

それに加え、売却の情報は業界内での噂になっている。
そんな、引くに引けない状況でヘロヘロになってしまったという話はよく聞かれます。

従って、買い手候補先を選定する場合、特に意思決定が明確かつスピーディか?
買収の裏付けとなる資金を保有しているか?
M&Aを推進する人的リソースが存在するか?
といったポイントをしっかりとチェックして買い手候補先を選別してゆく必要があります。

まとめ

今回ご説明したM&A売却戦略策定の注意ポイントは、目的を明確にし、どのように、誰に売るのか?という点についてスピーディに考え、そして動くということです。
手塩にかけた自社の売却ですが、売ると決めたら早々に動き、早期結実を図らないと、結果的に誰も幸せになれない状況となってしまうことが多々あります。

信頼できるエージェントと綿密なコミュニケーションをとり、戦略を策定し、アクションプランを早々に進めてゆくことが求められています。

【≪連続起業・事業承継・資本提携≫「はじめての」M&A講座】
第1回:はじめて自社売却(M&A)を検討するタイミング
第2回:基本的なM&Aの流れ
第3回:M&Aコンサルタントの選定
第4回:M&A売却戦略策定の注意ポイント
第5回:M&AにおけるNDA締結のポイント
第6回:M&Aにおける基本合意締結のポイント
第7回:M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)のポイント
第8回:M&Aにおkる最終条件交渉のポイント
第9回:M&Aにおける最終契約締結のポイント
第10回:M&Aにおける自社売却後のポイント


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