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優等生、恋愛ゲームで業(カルマ)を知る

今、再び青春の恋をしている。

アラフォーの既婚者ということで、もちろんリアルではないのでご安心いただきたい。女性向け恋愛ゲームときめきメモリアルGirl's Side 1st Love(以下、GS1)を始めたのだ。昨年のGS4販売以降、YouTubeでさまざまな配信者の実況を見ながらふつふつとプレイ欲を高め、ついに先日、重たい第一歩を踏み出した形だ(中古でも8,000円が相場なのでハードルが高い)。ニンテンドースイッチを持っていないので、手持ちの3DSでできるソフトを発売順にプレイすることにした。

今回はその鮮烈な初体験をお伝えしようと思う。

好きになったのは、担任の先生でした

ときメモGSシリーズは、主人公である女子高校生(プレイヤー)が3年間の学校生活を送りながら、恋と青春を謳歌するシミュレーションゲームである。その醍醐味は、なんといっても、人気声優演じる個性豊かなキャラクターたちが自分の名前を呼んでくれることだ。GS1では『スラムダンク』流川楓の声の癒やし系王子様キャラや、『新世紀エヴァンゲリオン』渚カヲルの声のメガネっ子、『幽☆遊☆白書』飛影の声のスポーツマンらが「西東、どうした?」「あっ、美智子さん!」などと話しかけてくれる。かなり自然に音声が生成されるので、没入感は抜群だ。

そんなイケメン大渋滞の私立はばたき学園高等部で、主人公・西東美智子の名前を最初に名前を呼んでくれたのは、見るからに厳格で冷たそうな担任、氷室零一先生だった。

正直、プレイ開始までは「“メイン王子”の葉月珪くんと、夢のような恋をして、実際には過ごせなかったもうひとつの青春を送りたいな」となんとなく思っていた。それなのに氷室先生に名前を呼ばれた瞬間、ぐらっと前提が揺らいだのを感じた。「初回プレイだし、はじめから攻略対象を絞りすぎずに進めてみようかな」「1年目はパラメーターアップ(自分磨き)に専念したほうがいいから、まだ誰もデートに誘わなくていいよね」などと自分に言い訳しながら1年の1学期を過ごし、みるみる氷室攻略ルートに入りこんでしまった。部活動は氷室先生が顧問を務める吹奏楽部に入り、氷室先生主催の課外授業には毎回出席するようになっていた。

実は配信動画を通じて一通りキャラクターは知っていて、氷室先生がどちらかというとネタキャラであることも把握済みだった。配信を見ながら、ギャグなのかマジなのかわからないシーンにゲラゲラ笑ったのも記憶に新しい。にもかかわらず、名前を呼ばれた瞬間、私の恋心は芽生えてしまった。同時に、実際の高校生活で学校の先生(しかも部活の顧問)を好きになってしまった甘酸っぱい思い出までよみがえってきたのだった。

中間テストで人生初めての屈辱を味わう

ゲームといえど、高校生活ではちゃんと定期試験がある。初めての試験は1年6月の中間テスト。廊下に張り出された成績順位表を見に行くと、西東美智子は学年105位であった。

私は愕然とした。何人中105位なのかなんて私にはどうでもいい。西東美智子は常に学年1位でなければならないのだ。現に私は中学3年間学年1位、高校で文理が分かれてからも文系で学年1位にしかなったことがなかった(順位は張り出されなかったが、1位の人はテスト返却のときに先生が発表してくれた)。まさかゲームで人生初めての屈辱を味わうとは思ってもみなかった。

それからというもの、西東美智子は試験で1位を取るために、とにかく学業に励むようになった。ときメモシリーズには主人公の能力値として「学力」「運動」「芸術」「気配り」といったパラメーターが設定されているが、仕様上、テストでは学力以外のパラメーターも点数に影響するようになっている。したがって西東は勉強だけでなく、運動や吹奏楽部の活動にも全力投球。加えて学力、運動、気配りのパラメーターは氷室先生の攻略にも関係することから「優等生になって先生のお気に入りになりたい!」という恋心も頑張りを後押しした。

「現実とはかけ離れた高校生活を送りたいな」という理想は、あっという間に崩れ去ってしまったのだった。

学年1位の地位と引き換えに失ったもの

高校2年1学期の中間試験、ついに西東美智子は学年1位の座を勝ち取ることに成功した。同学期の期末試験では全科目満点も達成。私はうれしさのあまり、夜中の1時に歓声を上げた。その後も西東は全科目満点を維持し続けている。
ところが高校2年の冬になり、ふと、西東美智子は気がついた。

「私、学校に友達も彼氏もいない」

学校帰りに女の子に話しかけても、誰も一緒に帰ってくれない。まして男の子となんて会話すら発生しない。休日は課外授業か部活、あるいは一人で買い物に行くだけ。誕生日は2年連続、弟しか祝ってくれなかった。唯一、先生は課外授業や部活で頑張りを褒めてくれるけれど、西東からの誕生日プレゼントやバレンタインのチョコレートはまだ一度も受け取ってくれていない……。

この妙にリアルな展開に、私は既視感すら覚えていた。勉強に集中するために同級生を拒絶して孤立、先生へのかなわぬ恋、もちろん彼氏なし……どれも現実の高校生活で経験済みなのである

あれは甘酸っぱい思い出などではなく、黒歴史だったのだ──そんな現実を突きつけられたようだった。

果たして輪廻を断ち切れるのか

これが業(カルマ)、そして輪廻転生なのか──。

はばたき学園で二度目の高校生活を送る西東美智子の生きざまを見て、私はひとつの真理にたどり着いてしまったような心持ちになっていた。あれほど燃えていた勉強も恋もどこか冷めてしまい、消化試合のように空しく毎日を過ごすもう一人の私。おそらく、このまま虚無感と罪悪感を抱きながら、最終的に氷室先生とゴールインしてしまうのだろう。

そのときだった。西東美智子(と私)の前に、一人の男の子が彗星のように現れた。他校・羽ケ崎学園の天童壬くんである。不良で軟派という、西東美智子(そして私)とは正反対の人物。だが明るく心優しいその人柄に、私たちは孤独に傷ついた心が癒やされていくのを感じたのだった。

彼こそが繰り返されるループを断ち切るカギなのかもしれない。かすかな希望を胸に、二度目の高校生活後半へと進んでいきたいと思う。


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