エドワードグリーン チェルシー202ラスト 徹底解説 −なぜこのご時世に超高級革靴なのか−
●なぜこのご時世にエドワードグリーン?
エドワードグリーンとは
革靴好きなら誰もが当然に知っているエドワード・グリーンですが、Wikipediaの記載はなぜか少量です。
強いて既製靴界で腕時計のように「雲上ブランド」を挙げるなら、ジョンロブ、エドワードグリーン、ということになるでしょうか。
共にイギリス靴で、その革質たるや革靴好きの垂涎の的と言えるでしょう。
革質・作り、どれをとっても世界最高峰で、既製の革靴の到達点であり、考え得る最高のビジネスシューズというべき両ブランドです。
とはいえ、英国王室御用達のジョン・ロブの知名度に比べ、少し知る人ぞ知る感が出るのがエドワード・グリーンではないでしょうか。
値段も当然トップクラス
であれば、当然値段もそれ相応に高額になるというもの。
やはりコロナ禍を経て値段はドンドン上がっていきまして、ついには税込20万円超(2024年6月現在)となってしまった次第です…
革靴は不要?
さて、そうは言ってもあくまで革靴です。
ロレックスと違って履けば確実に消耗し、リセールはききませんので、あくまで実用品としての投資価値ということになります。
しかも、ロレックスと違って、革靴に興味がある人が見ないといいモノであることすらパッと見わかりません…
要するに、エドワードグリーンを履いていてもドヤることはできないのです。
最高の革質や素晴らしい履き心地からくる充足感という極めて自己満足的な価値しか得られない…
となると、果たしてこのご時世にそんなことのためにバカ高い革靴が必要なのか。
巷ではビジネスカジュアルが幅をきかせ、スーツを着る機会はますます減りました。
ビジネスファッションのコンフォート化が進む中、革靴を履く機会も減少の一途を辿っています。
お堅いはずの公務員や裁判所の職員ですら、ジャケパンでレザースニーカーなら許されるご時世。
もはや革靴を履くことすら個人の選択に委ねられる中で、最高峰の革靴に投資する意義はあるのだろうか…
自問せずにはいられません…
革靴は不滅!
違う、そうじゃない…
私の中の誰かが叫びます…
スニーカーはあくまで消耗品。普通に5年も履けばソールはすり減り、アッパーは汚れ、買い替えざるをえません。
しかし良質な革靴は不滅なのです!
グッドイヤーやハンドソーンであれば言うまでもなく、マッケイ製法であっても複数回のオールソール修理に耐えます。
アッパーさえしっかりケアしておけば、20年は間違いなくもちます。
私が学生時代に買ったtrippenは、週1回程度の使用で、15年は使っています(しかもまだソールを交換したこともありません。)。まだまだかなりキレイですので20年超えは間違いないと思います。
当時4万円ほどで購入したtrippenがこの頑丈さなのであれば、ましてその3倍以上の値段を誇るエドワードグリーンは50年はもつ…? さすがにそんなわけはないのでしょうか…?
どのみち、革靴を履いてビジネスの場に立つことができるのは75歳くらいまでだと思いますと、たとえば35歳の時に購入するとして、40年くらい使えて75歳の時にも履けるのであればそれはもう永遠に使えるのと同じことなのではないかと!
クラシックは不滅!
確かに、コロナ禍を経てビジネスファッションは間違いなく変化しました…
しかし、変わらないものというのも確かにあるはずです。
ビジネスファッションで言えば、ジャケット、革靴、革鞄。
これらは50年後の世の中においても、オーセンティックなスタイルと評価され続けるのではないかと思うのです。
100年前の1924年でも欧米ではジャケットを着て革靴を履いていた。50年前の1974年だと、日本人もジャケットを着て革靴を履いていた。
そうすると、50年後もやはり、ここぞというときはジャケットを着て革靴を履くのではないか、そのくらい、ジャケットと革靴にはデザインコード的なハマり具合があるように思えます。
近年、スーツやジャケパンにリュックサック、スニーカーを合わせることも許容されつつありますが、それはあくまで日常業務の場合。
リュックサックやスニーカーに足りないもの、それはひとえにエレガンスであり、そのエレガントさは革という素材しか持ち得ないものだと思います。
ジャケットに革靴という取り合わせが崩れるとすれば、地球温暖化の深刻化によるでしょう。
高温多湿な日本の気候とウールや革靴の相性はただでさえ良くありません。
そのうえ、今以上に夏が暑くなり、春や秋があいまいになれば、スーツやジャケット(特にネクタイ)の出番は消え失せざるを得ません。
日本では買えなくなる?
革靴は不滅、クラシックスタイルも不滅、であれば、高級革靴を買っておいて損はないハズ。
加えて、今買っておかなきゃ、というお話をして、皆様の購買意欲に火をつけたいと思います。
ジョン・ロブやエドグリをどこで買うかと考えますと、直営店や百貨店です。
円安によって日本人の購買力がますます低下し、インポートの高級品など日本人にはますます手が届かなくなる。
そうすると、百貨店に並ぶのは、外国人観光客が買いたい商品になっていくでしょう。
現に大阪の阪急メンズ館など、どんどんインバウンド受けする商品へとラインナップが変化しているそうです。
あるバイヤーさんによれば、中国人観光客は革靴を買わないそうです。
良い物を大切に長く使うという文化も希薄で、まさに大量生産大量消費。
そうなってくると、日本の百貨店からはジョン・ロブやエドグリは消えていく定めにある…
日本人には高くて手が届かない、中国人をはじめとするインバウンドは欲しくない、ならば高い仕入れをして在庫を抱えるリスクを負う意味がありません。
エドワードグリーンのチェルシーを例にとりますと、10年前は12万か13万くらいでした。それが2024年6月現在では20万円超。
1ドル100円だったものが1ドル160円と1.6倍になっていると考えると、12万円×1.6=19.2万円なので、価格が吊り上げられているというものでもなく、為替レートの変動の範囲内。原材料費や人件費の高騰を考えると、むしろ価格転嫁が進んでいないと考えることすらできるかも…
ならば、本格的に価格上昇が進むのはむしろこれからの可能性すらあるわけです…
為替レートの変化により円安が落ち着いたとしても、果たして値段が下がることがあるのか、という疑問もあります。
というわけで、迷っているのであれば今買っておいて損はない、というのが私の結論です(私はこのように自分に言い聞かせて清水ダイブを敢行しました…)。
●CHELSEA 202ラスト(Eウィズ)
前置きが長くなりましたが、ようやく本編です。
工芸品のような作り、尖りすぎず、丸すぎないトゥ。これ以上美しい既製品のストレートチップがあろうか、いや存在しないでしょう。まさに完成形というほかありません…
3層からなる分厚い革。通常、表革+ライニングの2層式のところ、3層から成っています。モッチリモイスチャーな革質。これは他のメーカーにはないものです。
かなりの内振りのラスト。
青線部分の角度が大きければ大きいほど内振りの度合いが強いことになるわけですが、その度合いはかなりのものです。
別に内振りであればいいというわけではなく、結局は足とラストの相性なわけですが、どちらかと言えば幅広め、小指当たりがちの私には、202ラストは小指が当たることのない極めて相性の良いラストです。
5年以上愛用するユニオンインペリアルのストチ(右)と比較すると、内振り度合いがわかります。
また、キップのユニオンインペリアル(右)とエドワードグリーンの最高級のカーフ(左)とでは、革のキメ細かさが雲泥の差です。
さりとて、値段の差を考えると一概にどちらが良いとも言い難いわけですが、少なくとも長く使うことを考えるなら、キップよりもカーフのものを選ぶべきです。
キップはカーフほどの柔らかさがない分、経年劣化しやすいと言いますか、ヒビ割れなどが起こりやすいように感じます。
●履いてみた
履きおろしの儀
よく晴れた朝、天気予報をチェックし、絶対に雨が降らない確信のもと履きおろします笑
シワ入れは特にしません。
ピッタリのサイズ感であればヘンなシワなど入るはずもないから、というのは建前で、ガッツリシワ入れする勇気が出ません。
チョロッとシワ入れするくらいでは結局意図しないところにシワができますので、あまり意味がないように思われます。
●履き心地
土踏まずの突き上げ!
まず感じるのが驚くほどの土踏まずの突き上げ感。
土踏まずを絞っているというより、土踏まず部分のコルクが分厚いような感覚です。
私にはオールデン・モディファイドラストよりもはっきりと感じられます。
この立体的な構築感は最大限強調されるべきかと。
偏平足気味の私の足だと、しばらく履いていたら土踏まずが疲れてくるくらいに持ち上げられます。
また、土踏まずの位置がしっくりこなければ、残念ながらラストとの相性が悪かったということで、購入は見送るべきでしょう。
名ラストならば必ず誰にでもフィットするわけではありませんので、何も気にする必要はありません。
足に合わない高いクツを無理して買うほどバカな行為もないように思います。
モディファイドラストはカカト側からつま先側に向けて下がっていく形で土踏まずが作られていますが、202ラストは土踏まず部分が高く盛り上がっている感覚です。
幅広なボールジョイント部
私は、革靴を長時間履いていると、左足の小指が痛くなるのが悩みでして、右より左のほうが足長が長いので左足に合わせたサイズを買うのですが、どうにも左小指がアタるのです。
ビルケンシュトックやtrippenのようなコンフォート系革靴やオールデンであれば小指は痛まないのですが、チャーチやチーニー、クロケットのドレスシューズだと小指がどうしても干渉します。
もはや長時間履いても小指が痛まないドレスシューズはないのではないか…
藁にもすがる思いでエドワードグリーン202Eを試着したところ、小指が当たらない…
これなら大丈夫そうだということで購入に至った次第なのです。
小ぶりなカカト
202ラストは、よくカカトが小ぶりに作られている、と言われますが、確かにその通りで、ヒールカップが小さい+浅いように感じます。
特に、小ささ(狭さ)よりも浅さを強く感じます。私には少し浅すぎる感覚すらあるほどで、チャーチやクロケットなど他のイギリスメーカーと比べると、その浅さは際立って感じられます。
カカトが小ぶりなのは日本人の骨格に合いやすいわけですが、他方で浅すぎるというのもまたクセモノでして、少なくとも私とってはカカトに関しては最高のフィット感というわけではなさそうです。
ソールにしっかりと返りがついてこれば全く問題はなさそうなレベルですが、まだまだ新しい現在では、カカトがついてきにくい感覚があります。
あと、私にとってはDウィズだと幅が狭すぎる感覚でしたが、是非D、E双方のウィズを試してみられることをオススメいたします。
●ジョン・ロブ シティ2との違い
ジョン・ロブかエドグリか、それが問題だ…
というわけで、同じ価格帯なのでCITY2にしようかCHELSEAにしようかと迷うことになるわけですが、決め手はラストとの相性です。
上述のように、CHELSEAの202ラストは幅広め、カカト小さめ、土踏まずは高い。
エドグリ202ラストに比べ、CITY2の7000ラストは、少し幅が狭く(あくまで202ラストとの対比であって、見た目の狭そうな雰囲気よりはるかに幅に許容性があります)、カカトは大きく、土踏まずはそこまで高くありません。
ですので、私のようなカカト小さめの人間は、7000ラストだとかなりカカトが甘く感じられます。
少なくとも、私にはジョン・ロブのラストは全く適合しません…(極めて残念ですが…)
●まとめ
いろいろと書いてきましたが、ポストコロナのビジネスファッションにおいて、革靴は、スーツよりもはるかに優先度の高い投資対象となったというのが私の考えです。
高い革靴なんて必要なのかと迷っておられる皆様、まずは試着しましょう。
お気に入りの靴ほどその日の気分をアゲてくれるアイテムを私は知りません。
もちろん、ここまで高い革靴でなくとも良い革靴はたくさんありますので必要ないと言われればそれまでなのですが、とにかくスゴいので、一度履いてみて、というような話ではあります…
最後までお読み頂き誠にありがとうございました!
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