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【第21回】 「再生医療後に一時視力障害!ロート製造細胞、注意喚起」 ロート製薬の製造した細胞で患者の視力障害が発生したという最近のニュースについて

ロート製薬が作った脂肪由来の幹細胞を使った治療で患者に視力障害が起きたというニュースが話題になっています。

各ニュースメディアでは「視力障害は出たがいずれも一時的なもので、すでに全員回復した」という形であまり事態を深刻に捉えていない印象の記載が多いですが、当機構では今回の事故を、杜撰な管理を行う企業・医療機関の問題が明るみに出る結果と重く捉えております。

以下詳細を解説します。

【事故の概要】
2023年11月から2024年3月にかけて、東京のルネスクリニックにて更年期障害や卵巣機能の低下を治療するために幹細胞治療を点滴で受けた患者さんたちに一時的な視力障害がでたというもの。

この非常に危険な事故はなぜ起きたのでしょうか?

【原因は何?】
特定認定再生医療等委員会の調査によると、今回の事故は「ジメチルスルホキシド(DMSO)」という細胞を保存するための有機溶剤が原因の可能性が高いとのこと

DMSOは血管を収縮させる作用があり、それが視力障害を引き起こした、と。

※高血圧で網膜の毛細血管にダメージが起きると視力低下の症状が起きることがある。

【DMSOって何?】
DMSOは細胞を凍結保存する時によく使われる抗凍結剤です。抗凍結剤は文字通り【凍結に抗う】ための薬剤です。あまり聞きなれない言葉かと思いますので簡単に説明すると

幹細胞を培養する過程で細胞を低温保存する際、そのまま保存してしまうと細胞内で氷が作られて細胞そのものに大きな損傷を与えてしまう可能性があります。DMSOは細胞の脱水を促進させることで氷の結晶までの速度を遅らせることで氷結晶の形成を防ぎ、細胞の損傷を抑えてくれます。

言い換えれば、細胞を低温保存する際に細胞膜を保護してくれる便利な薬剤です。

しかし、有機溶剤…

高濃度になると細胞膜を溶かす必要もあり使用には細心の注意が必要です。

【本当の問題点は何?】

  1. 副作用が軽視されている
    今回は患者の方々の視力障害は一時的で全員が回復した、とのことでしたが、そもそもこのような重大な副作用が起こること自体おかしな話です。

視力を一時的に失うことがどれだけ大きな副作用か今一度考えるべきで…

  1. 洗浄プロセスが不十分
    DMSOが原因だったのであれば、製造過程でDMSOをきちんと除去せずに治療を行っている可能性が示唆されます。

DMSOは様々な用途で使われる便利な溶媒である一方、除去(洗浄)が面倒であるという一面もあります。

今回で言えば、コスト削減のためにロート製薬が洗浄作業を怠った可能性だってあるのになぜそこを調べないのか。

なぜ徹底した調査をしないのか甚だ疑問です。

  1. 規制当局の対応が遅い
    同様の有害事象が4件も報告されてるのに、治療の提供がまだ止められてないのは明らかに対応が遅れていると言わざるを得ません。

小林製薬の「紅麹サプリ」の問題では数百人が入院、数名が亡くなったという痛ましい事件は我々の記憶に新しいですが、再生医療は特に「医療」の名を冠している以上、誰かが亡くなってからでは遅いのです。

厚生労働省はこれらの問題を軽視せず、迅速なリスク情報の周知を徹底するべきで…

【総括】
今回のロート製薬の幹細胞治療の事故は、企業や厚生労働省がもっとしっかりとリスク管理をしないと、患者さんの安全を守れない。

間違った方法で周知された再生医療が今後多数の人の命を奪う大事故につながったらどうするんだ?と憤りを感じてしまう…

厚生労働省は今回のケースを特定認定再生医療等委員会の責任にしていくのだろうが
そもそも再生医療の是非に関する審査を特定認定再生医療等委員会に丸投げしているのが紛れもない厚生労働省なので無責任にもほどがある…

6月7日参院本会議で再生医療等安全性確保法の審議から可決までに散々、議員らも特定認定再生医療等委員会の責任ばかりを追及していたが、そもそも厚生労働省はこの特定認定再生医療等委員会に対し、審査の基準やガイドラインすら与えてないのだから、行政のいい加減さにはいつもながら呆れます。

「今回は一時的な視力障害なのでよかった?」そんなわけない。

いくら厚生労働省にリソースがないとはいえ、国民に対してもう少し「危険な事が起きている」と周知するべき。それがあなた方の仕事ですよ。

このまま厚生労働省が仕事を放棄し続ければ、今回のロート製薬の事故の件然り、未然に防げたかもしれない医療事故は残念ながら増え続けてしまうでしょう。

次回は、このロート製薬が提供した細胞および治療を実施した医療機関、そして特定再生医療等委員会について記載したいと思います。

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