コンサート/発表会の曲
先週、地元コンサートホールの柿落としコンサートへ行ってきた。
コンサートを企画したのは、チェロ師匠。
半年前にチケットが発売されたが、おかげさまで2か月前に完売したそうだ。
先生のファンがたくさんいるのだが、先生自身は「プログラム内容が良かったみたいで喜ばしい。」と言い、自身のことについてはかなり鈍感。弟子としては、先生が食いっぱぐれないで済むなら嬉しい。
シューマン特集だった。
シューマンがクララと熱い恋に落ちていた頃、ノリノリで作曲していた頃、精神を病んで自殺を図った後の頃と、彼の人生の波を追うように、プログラムを組んでいた。
ピアノ独奏、歌曲、弦楽四重奏と、演奏がバラエティにとんでいて楽しい。
演奏者も、東京の某交響楽団の首席ヴィオリスト、副首席ヴァイオリニスト、全国で活躍しているピアニスト、バリトンオペラ歌手と、豪華。
先生の気合いが感じられた。
先生が1年ほど前からシューマンとクララの話ばかりしているなぁと思っていたが、そういうことだった。
因みに先生は、このようなゲストを招いてのコンサートでは徹底的に裏方になっている。
元々、前面に出るのは好きではないのだ。
演奏すらしない時もある。
アフタートークのみ撮影可とのことで、ヘッダーの写真はトークする先生。
この後、出演者インタビューが始まった。
先生が、2ndヴァイオリンMさんに
「2ndヴァイオリンとして、どのようなことに気を付けて演奏されていますか?」
と質問した。
「2ndヴァイオリンは内声と言って、伴奏を主に担当します。メロディを担当する1stヴァイオリンと違って目立ちませんが、私はこの役割が好きです。メロディが気持ちよく演奏できるよう、支えることを意識しています。」
とMさん。
同じく内声を担当するヴィオリストさんが、大きく頷いている。
Mさんが「気持ちよく」と言った部分で、先生が苦笑する。
「…ボクたち外声は、おかげさまで気持ちよく弾かせていただいています。2ndさんとヴィオラさんに支えられているから、良い演奏が出来ます。」
私、今ここで初めて「私は外声だったのか!」と目が覚めた。今更、である。
チェロでアマオケに参加して2年半、あまり目立たぬよう意識していた。
大学でヴィオラを担当していた時の意識のままだったことに気付いた。
ヴィオラとチェロでは、役割が全く違うのだ。
「夜さん、ちゃんと弾けてるから、音をもっと前面に出して!」とよく言われる。
自信がなかった訳じゃない(自信ないときもあるけれど)。外声としての意識が足りなかった…反省した。
バリトンのHさんは、一人の女性に激しく恋をした男性の気持ちをドイツ語の歌詞で歌い上げた。
女性はほかの男性と結婚。恋破れた男性は、女性を忘れられない。
Hさんの曲解説を受けて、先生
「恋人が去った後の哀しく苦しい思いがひしひしと伝わって、ボクも過去のいろいろを思い出してしまいました…(苦笑い)」
と応えていたけれど、いつのことを思い出したのやら(ニヤニヤ)。
★
ここ3週間ほどレッスンがなかった。
先生とは数日おきにLINEで話をしていた。
「シューマン特集、楽しかったです。
弦楽四重奏第3番イ長調Op.41/3、初めて聴きました。あんなカッコいい曲があったんですね。知りませんでした。」
「なかなかいいだろう、シューマン。チェロ協奏曲も書いてるし、ね。」
先生自身、コンサートの成功を喜んでいるようだった。良かったですね。
「いつか、シューマンのチェロコンもやってくださいね。
ところで、10月末の発表会の曲なんですけれど。
何がいいかな、と。
昨年候補として挙げたバッハのアリオーソ。
スズキの教本4巻はそれだけやっていなかったのが心残りで。」
先生が教え忘れたのである。
アリオーソ、今は5巻にあるらしい。
「アリオーソ、良いと思うよ。」
「で、ちょっと言いにくいのですが…今やっている無伴奏の5番プレリュードは?発表会で弾くのはどうでしょう。」
私にとって大曲なので、先生は渋るだろう。
案の定、先生は「う〜ん」と微妙な返事した。
「確かにずっと練習してるもんな。
でもなぁ、ステージでやるとなるとなぁ、なかなかだな。」
やっぱり渋い返事。
「暗譜、できるか?じゃないと、始まらない。」
…やってみないと、わからない。
「…じゃあ、アリオーソのほかに、センセのオススメは?」
「無伴奏なら『1番サラバンド』。」
出たッ。
先生の十八番。
先生の得意な曲は幾つかあるが、私はそれらを習うのをワザと避けていた。完成度が高くないと、合格をもらえないからだ。
バッハ無伴奏1番サラバンドは、その中でも先生の大得意な曲。3番サラバンドと並んで、アンコールで弾く頻度が高い。
「…ちょっと考えさせてください。」
★
「家のレッスン室はどうなったんですか?」
私は先生に半年前から先生宅のレッスンをお願いしている。
レッスン室、物置部屋になっている。先生が片付けないと、レッスンしてもらえない。
「あの部屋ね…改修工事入るよ。」
何ですと?!
「外壁と内壁の間が雨漏りしてたんだよ。壁紙の一部が剥がれたのに気付いて、ちょっと剥がしてみたら、壁が腐ってた。
壁壊すついでに、断熱材も新しくして壁紙も全部替えるから、8月いっぱいかかりそう。」
「ええ?!私の部屋は大丈夫だったんですか?」
私の部屋と言っても、昔住まわせてもらっていた部屋だ。もう『私の』ではない。
「ほかは大丈夫だった。何せ古家だからね。いろいろあるよ。」
元々、先生の祖父の家だった。
「あの大量の荷物、どうするんですか。」
「姉の家に避難させてもらう。休みの日は片付けで終わってるよ。やれやれ、だ。」
先生、今年は所属オケはもちろん、県内外バンバン演奏活動を入れている。12月にはリサイタルも。
稼ぐ必要があるのだろう。
「工事が終わったら、遊びにおいで。」
「レッスンもですよ?」
「はいはい。」
「重いものを運んで腰痛めないでくださいね。演奏活動できなくなりますから。」
「はいはい、わかってるよ(笑)」
バッハの無伴奏もちょっと飽きてきたので、ほかにステージで弾きたい曲はないか、もう少しリサーチしてみよう。