6月、とある休日(ぼやきです)。
世の中日曜日。
この日私は休日当番の仕事があった。
左足を引きずる男の子と、そのお母さんがやってきた。
今日は中学校総合体育大会の初日で、男の子はとある競技に出場し、試合中左膝を痛めたとのこと。
痛む膝を見せてもらうと…膝の靭帯が切れている可能性が大きい。
「これは、だいぶ酷いと思われます。」
私は言った。二人が動揺するのが目に見えてわかった。
「明日、この子は最後の個人戦なんです。出場することはできませんか。」
お母さんが必死に訴えてきた。
そっか。引退試合か…きっと2年半をこの競技に費やしてきたのだろう。
私は陸上部だった息子の引退試合を思い出した。1年前の話だ。
「お気持ちはわかりますが。この膝の状態では無理です。
応急処置をします。炎症を抑える薬を出します。ココでは詳しい検査ができないので、休み明けすぐにかかりつけ医を受診してください。」
男の子は声を上げて泣き出してしまった。
「サポーターやテーピングをしたらどうでしょう。」母親も涙を流しながら訴えたが、私は首を横に振った。
検査をしていないので二人にははっきりと言えないが、おそらく手術になる。
この怪我で明日試合に出たら、膝が変形して治らない可能性もある。
とても悔しいだろうが、これからの人生のほうが長い彼に、一生残る障害を起こしてはならない。
抱き合うようにして診察室を出る親子を見送りながら、私も泣きたかった。
余りにもかわいそうだった。
★
仕事を終えて、いつもなら職場に戻るのだが、今日は軽く頭痛がするのと、気持ちが塞いだので、気分転換をしに行った。
緑の美しいカフェへ寄った。
ちょうど私が毎日履いている靴のメーカーの展示会が開催されていた。
私の靴はもう10年以上も履いてボロボロだったので、色違いを新調した。一週間後に自宅に届くとのこと。楽しみだ。
サイフォンで淹れた美味しいコーヒーをいただく。
でも、どうしても良くない思考回路に陥ってしまう。
私のチェロ師匠ががんサバイバーだと知ったのは、つい最近のことだ。しかも、二度。
転移ではなく、原発が二ヶ所。
私と先生が疎遠だった間に患っていたとのことだった。
幸いどちらも手術で取れたそう。
現在、経過を見ているところ。
「がんの原因はストレスだよ。どちらのがんも、見つかる少し前に、大きなストレスがかかる出来事があったんだ。
だから、ボクはお前のことが心配だよ。」
5月、あまり家に帰れていないと私が漏らしたときに、先生にそう言われた。
ストレスの感じ方は人それぞれなので、ストレスと病気がどう関係するのかを立証するのはなかなか難しい。
ただ、常に自覚的ストレスが高いグループは自覚的ストレスが低いグループに比べ、全がん罹患リスクが11%上昇したという研究がある。
先生が言うことは、あながち間違いではない。
先生ががんサバイバーだということも驚きだが、その事実を今まで教えてくれなかったことに、私は大きなショックを受けた。
家族ではないにしても、私は先生にとって身近な存在であると思っていたのに。
先生の性格からして、私が身近な存在だからこそ"心配をかけたくない"という思いが強いのだろうとも思う。
でも、逆に私の持病がバレたときに、「なんで早く言わなかった?!」と怒られたのは、未だに解せない…。
私はというと、ストレスに鈍感な性格だと思う。もの凄く忘れっぽいからだ。
嫌なことも、数日寝れば忘れてる。
先生も知ってるだろうに。
それに、がんに罹患するのは、何もストレスだけではないのだが。
そんなことを先生に言っても仕方がないので、「気をつけます」と返事した。
★
程よく気分転換したので、家に帰って夕飯の支度をした。
「お母さん久しぶり!この時間に居るのを見かけたの、いつぶりだろ?!」
帰宅した長男が言う。
うーん、いつだったろ?
仕事は落ち着いたから、家族に忘れられないよう、もう少し早く帰ることにしようっと。