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11月レッスン2回目:そば鳴り

今回は先生の自宅で臨時レッスン。
先週の私の演奏が余りにも悪かったからだ。

「おはよーございまーす。」
勝手知ったる家なので、先生の返事を待たず、レッスン室に入る。

先生がレッスン室に入ってきた。
自宅なのに、このまま出かけられそうにピシッとした格好をしている。
私のレッスン後すぐにリハへ出かけられるようにしているのだろう。

「おはよう。なんで頭押さえてるの?」
「…センセに頭ワシャワシャされないようにです。」
「ふーん。で、テールピース割れたんだって?」
「昨夜工房へ行って来ました。」
「スキあり!ワシャワシャ!」
「に"ゃーーー💢」
…いい大人が何やってるんだか。

★★★★

「どうして割れちゃったの?」
と先生。

「C線のペグ回してたら、Cのアジャスターから亀裂が入ったんです。」

「ぶつけた訳じゃないんだ?
で、Kさん(職人さん)は何て言ってた?」

「元々厚みが薄いと思っていたって。」

「交換にいくらかかった?」

「それが、お兄さん、代金いらないって…」
私は少々気まずくそう話した。

「なるほど。工業製品で言うところの品質保証期間かな。サービスだよ。」

怒られなかった。

「あれ?センセの楽器、替えました?」

先生、いつものと違って新作っぽいチェロを出してきた。

「コレは借り物。実は表板剥がれていたんだよ…雑音が入るなと思ってKさんのところに持ち込んだら、案の定だったよ。」

「あ!昨日工房にあった右肩に接着のクランプ付いていたチェロですか?」

先生、苦笑いする。
「そうそう、右肩。」

通りで、見たことある楽器だなぁって思った訳だ。

「乾燥するこの季節あるあるの不具合だね。
お前のテールピースも素材が柘植だから、乾燥も影響したのかもね。」

★★★★

「早速だけど弾いてみて。」

「昨日は練習できてないから、テールピース替えて音出したの、さっきが初めてですよ。」

3番サラバンドを一通り弾いてみせた。

演奏終えて、先生、ちょっと考え込む仕草をする。
「お前さ、今遠慮して弾いた?」

「? いつも通りですよ?まだ酷い演奏でしたか?」

「いや…音がコッチまで届かない。」

「え?私にはうるさく聞こえますよ。しかも、テールピース替えたら明るく聞こえます。反応も良すぎて落ち着かない感じです。」

「楽器貸して。」

先生が手を伸ばして来たので、楽器と弓を手渡した。

今度は先生が同じサラバンドを弾く。
うまいなぁ。当たり前だけど。

繰り返しなしで弾いて、「どう聞こえた?」と先生が聞く。

「どうって…いつもの先生の演奏でしたけど。」

「じゃあ、コレは?」
今度は先生、前半部分だけを弾く。

「…なんだか小さく聞こえます。」

何が言いたいのか、先生が説明してくれた。

「今のはいつも通りに弾いた。一度目は結構がんばって弾いたんだよ。違いがわかっただろう?そば鳴りになってる。」

そば鳴り。
音が楽器の箱の中に留まって、遠くまで飛んでいかない現象だ。
しかし、弾いている本人にはうるさいぐらいに聞こえる。
これでは、コンサートホールで弾いた時に、客席まで音が届かない。

「センセ、どうしよう…」

「ちょっと頑張って弾いてみて。」

最初から最後まで弓を目一杯使って、なるべく大きく弾くようにしてみた。

「どうですか?」

「それくらい弾けば聴こえるかな。」

「でも、私は結構疲れました。ちゃんとブレス入れても、最後まで弾き切るのがしんどいです。」

「僕の楽器でも、楽器の調子が悪いとそば鳴りになることがあるよ。録音聞いただろう。あれの夏のレコーディングのときも湿気で楽器の調子が悪くて、相当頑張って弾かなきゃならなかったんだ。Kさんにほとんど張り付いてもらってさ。それでも大変だった。古い楽器あるあるなんだよ。

それにしても、テールピース替えたとはいえ、音がこんなに変わるものかな…。
それから、そのテールピースの色、明るすぎて楽器に合わない。」

…さすが、オシャレにこだわる先生らしい意見💧

ここに来て、困ったことになった。
オーケストラで弾くのにはいい。音がみんなに紛れて、間違えても誤魔化せるから(ホントはダメ😅)。
問題は発表会だ。

先生が出掛ける時間になってしまった。
私はしばらくここで練習することにした。

私の腕前にプラスして、楽器が響かない問題…果たして、数日後の本番に臨めるのだろうか?

もう、心配しかない。