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6月チェロレッスン①:音量が足りない。

半年ぶりに歯科受診した。

長い付き合いのS先生。いつものように仕事の情報交換をしてからの診察。

「いつものところ、上4番、左右両方の知覚過敏がヒドいです。」と私。

S先生、私が訴えた部分を口腔内用のカメラで写真を撮って、モニターに写して見せてくれる。
「あー、コレはひどい。根元がえぐれてるよ。」

確かに…。

原因は歯軋り。
私は仕事中などストレスが高い時に、無意識に歯軋りしてしまう。歯茎に負担がかかり、知覚過敏になってしまうのだ。寝ている時ではないところが、厄介だ(寝ている時であれば、マウスピースをつけて負担を抑える方法がある)。

「だいぶ忙しかったんでしょ。え、オケも続いてるの?休みないの?それじゃあなぁー。
唾液も少なくなってる。舌の運動を意識的にやって唾液たくさん出すようにして。」

口の中を見れば生活の様子がわかるとS先生は言う。
1ヶ月後、再受診となった。

★★

チェロレッスン日。
朝から頭が痛い…どうもコレも歯軋りのせいのようだ。
強めの頭痛薬を飲んで行く。

レッスン室に入ると、先生は私の知らない曲を練習していた。
「こんにちは。」と挨拶するが、先生「うん。」と生返事。集中モードのようだ。
私は脇で静かにレッスンの準備をする。

私が椅子に座って音程を合わせる頃、先生は練習をやめた。
「セクステット、どうなった?」
バッハ無伴奏の楽譜を取り出しながら、私に聞いてくる。
前回のレッスンで、私がオケで指揮者に干された部分を先生に教わったのだった。

「実はH先生、急な用事であれから練習に来ていないんですよ。
代わりに指揮したコンマスからはOkもらえました。なので大丈夫だと思います。ありがとうございました。」

「それは良かった。でも、Hさんのジャッジは気になるところだな。」
「はい。明日の練習会は来るそうなので、そこでジャッジもらいます。」

★★

前回のレッスンではオケ曲しかやっていないので、1ヶ月振りの課題曲。無伴奏5番プレリュード。

「最初から弾いて。」
との指示で、序奏から2ページ分弾いてみせる。

渋い表情の先生から、B(シ♭)の音程が甘いと再び言われてしまった。B(べー)とH(ハー)の区別が曖昧、とのこと。

「お前の悪いクセ。興に乗ると速弾きで流して音程曖昧にしてしまうの。
2ページ目、しっかり読み込んでない証拠。
僕は誤魔化しを許さないよ。」
と厳しく言われる。

ですね…ご指摘のとおりです。
オケ曲ばかりやってました。

それから、と先生。
「音量が圧倒的に足りない。
いつも言ってるけど、無伴奏は迫力が必要。
オケではみんなと合わせるから一人で目立ってはいけないけれど、ここではもっと音出しなさい。ソリストになれないよ!」

…センセ、私はソリストになろうと思ってません…。
音大生さんと混同してるでしょ?と、心の中でボヤく。

「弓に重みを乗せる!ハイッ!」

2ページ目を通して弾きながら、先生に「もっと音出す!もっと!!」と言われ、これでもか、これでもかというほど、腕の重みを弓に乗せる。

弾き終えると、肩で息をするほど…疲れた。
先生、うなずく。
「今のがいい。それくらいの音量が必要。せっかくよく鳴る楽器なのに、控えめな音ばかりだしてちゃあ、鳴らなくなっちゃうよ。勿体無い。」

いかにオケで省エネで弾いていたかが分かった…。

疲れた私は、楽器に寄りかかって、しばしぐでっとする。
先生は、次の生徒さんを呼ぶために立ち上がった。

私の背後の扉に向かったと思いきや、私の耳元に顔を寄せて
「今くらいの音量で、つっかえずに弾けたら、次に進ませてやる。」
とささやく。

私、ゾッとする。
「センセ、やめてください!鳥肌が立ったじゃないですか!!」
思わず叫ぶ私。完全におちょくられている。
先生「ははは。」と笑って、扉を開けた。「〇〇さんどうぞ。入って。」

入ってきた生徒さん、耳を塞いで首を振っている私を不思議そうに見ていた。

★★

帰りに、コンサートチケットを買うために、百貨店へ寄った。

プレイガイドはフロア奥。
たくさん並ぶ売り物のピアノの一つで、5歳くらいの女の子が試弾していた。水色の清楚なワンピースを着ている。かわいいなぁ。

「ママ!あの人、すっごい大っきい楽器背負ってる!」

確かに大きいよね…キミならケースの中に入ることができるよ。

プレイガイドは無人だったので、呼び鈴を鳴らした。女性の店員さんが出てきて「お待たせしました。」と応じる。

私はバッグからチラシを出した。
「このコンサートのチケットをください。」
「ええと、本館との契約登録はお済みですか?」
と店員さん。

何のこと?チケット買うのに契約が必要なの??

二人でしばし沈黙…。

「あ!」と店員さん口元に手を当てる。
「もしかして、チケットのご購入ですか?」
…最初にそう言いましたが…。
「そうです。」
店員さん笑って
「大変失礼いたしました。楽器持ってらっしゃるから、てっきり当館の演者希望の方かと…。」

物凄い勘違い。

「ややこしくて、スミマセン…。」
思わず謝ってしまった。

チケットを無事購入。
9月にある、ベートーヴェンとブラームスのピアノコンサート。
今から楽しみだ。