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24.6月パラグライダー

この半年、ぜんぜんお空を飛べていない。

いい加減、リハビリフライトがしたい。
強いサーマル(上昇気流)ではない、穏やかな空がいい。

とある曇りの日。
ちょっと仕事に余裕ができた。
チャンス到来。

休みをもらって、自宅裏の山に出かけた。

           ★

フライトエリアに着き、入山シートに名前を書くためにスクールハウスへ歩いていると、鼻にポツッと雨粒が当たる。

あれ?雨予報ではなかったのにな。
地面を見ると、濡れていない。

スクールハウスへ行くと、インストラクターさんが迎えてくれた。
「夜さん、久しぶりだね。今雨を感じた?ちょっと様子見ようね。」

20分ほど経っても、雨は降って来なかった。
「テイクオフ(TO)へ行ってみます。」
私はイントラさんに見送られてリフトに乗った。

TOに着くと、ランディング(LD)より空気が重かった。
湿度が高いためだ。

体験さんを乗せるタンデムフライトの準備中だった。
私も手伝う。
体験さんの歓声とともにタンデム機が飛び立つと、TOには誰もいなくなった。

曇り空なのでぶっ飛び(上昇することなく、真っ直ぐLDへ降りること)だろうと、皆さんLDで高みの見物をしているらしい。

私はリハビリフライトなので、ぶっ飛びでも飛べればそれでよかった。

フライトの準備をして、イントラさんに無線を入れてみる。
「TOは雨は降っていないんですけれど。LDはどうですか?」
「こっちも降ってない。西の奥の方、暗い色の雲が見える?アレがさっきの雨みたい。東風に押されて通過して行ったんだね。空が明るくなってきたし、もう大丈夫だと思うよ。」

明るくなってきたら、風も少し強くなってきた。
吹き流しを見ると、先ほどまで2〜3mだったのが、今は4mほど。スクール生(パイロットのタマゴ)が飛ぶには少し難しい。
昨シーズン、私は意外なことに県のパイロット選手年間ランキング3位を頂いた。数々の大会の中で学んだのは『身の丈に合った飛びをすること。決して無理はしない。』ことである。
今の風は…大丈夫。私なら行ける。

「準備できたら、飛びますので。」
LDへ無線を入れた。
久しぶりなので、ベルトやラインをかなり慎重に点検した。
TOには自分しかいないので、フライトの見極めも慎重に。

機体に正対して、クロスで立ち上げた。
機体が頭上に上がったら、正面に体の向きをかえる。
風が強いので、助走もなしに体が宙に浮いた。

どうも、TOからサーマルが出ていたらしい。
4回ほど大きく旋回すると、たちまち雲底まで上昇した。
上空は結構寒かった。
地上は気温が25度あったし、どうせぶっ飛びだろうと思ってフライトスーツではなくウインドブレーカーを着ていた。厚手の手袋をしていて正解だった。
地上と上空の気温差からTOのサーマルが生まれたのだろう。

高度700m。雲の真下を飛ぶ。

どこを飛んでも、高度が下がらない。アーベントタイム(夕方に出やすい穏やかな上昇気流)らしい。
時折、雲の強い吸い上げがあるので、雲の中に入りそうな時には、翼端を折って高度を下げた。
雲の中は雨とホワイトアウト(上下左右の感覚が失われる)で大変危険なので、絶対に入ってはならない。

全体的に空域は穏やかで、空中散歩といった感じ。
楽しい♪

私が高高度からなかなか降りて来ないのを見たLDのパイロットたちが、一斉にリフトへ向かうのが眼下に見えた。
そのうち皆さんもここまで来るだろう。

私は隣山まで遊びに行くことにした。

雲が低いなぁ。
谷渡り。

計器を見ると、GPSの記録ランプが点いておらず、今のフライトが記録されない状態になっている。
アプリのアップデートをしていなかったのが原因。
これが大会だったら、記録なしで失格になるところだ。

計器点検は、自宅でちゃんとやっておきましょう。

たとえ計器が故障しても、ちゃんとLD出来るように訓練は積んでいる。

たどり着いた隣山から、東の海の方向を眺める。ホトトギスが盛んに鳴いている。夏だなぁ。

フライトして1時間が経過した。
そろそろほかのパイロットが私のいる高度までやって来てもおかしくはないのだが、空全体を見渡しても、誰もいない。

TOまで戻ってみる。

木のない一番上がTO。皆、私の眼下を飛んでいる。

TOでは多くの機体が見えるが、どうも上昇出来ないみたいだ。
私が飛び出したタイミングが一番良かったようだ。

誰もいない空域を一人で飛ぶことに優越感を覚えるパイロットもいるが、私は寂しくなっちゃうタイプ。
誰か一緒に飛ぼうよー、ここまで来ておくれ〜と思うが、誰も来ない…。

時刻を確認すると、あれ、もうそろそろLDしないと。仕事の時間だ。

今日はぶっ飛び2本飛んで職場へ戻る予定だったが、1本だけで長い時間飛べた。

高度を落としてLDへ向かう。

LDは私を含めて3人が同時進入となった。
例えるなら、飛行機が同じ滑走路に3機同時に着陸すると言ったらお分かりだろうか。飛行機では実際にはありえないけれど。

パラグライダーは動力がないので、上昇気流に当たらない限り、自力で再び上昇することができない。
こういうときは、お互いに降りるところを譲り合うルールがある。

私は後ろにピタリと張り付いたAZさんを振り返ってから、大きく旋回してみせた。
「私が一番下段に降りるから、AZさんは上段に降りてください。」というアピール。

答えてAZさん、小さく旋回した。
ああ、通じたみたい。

私はさらに高度を落として、一番下段にフワリと片足ずつついて着陸。次に降りる人のためにすぐに機体を地面に落とす。
振り返ると、AZさんも丘の上の方に着陸するところだった。
私とAZさんの間、中段に3機目のYさんが着陸。
うまくいった。


スクールハウス前に集まって、フライトの感想を言い合う。

「夜さん、良い飛びだったねー。誰も追いつけなかったよ。」Yさん。
「ありがとうございます。」私。
「同時進入になったけれど、相手が夜さんと分かって安心だったよ。」AZさん。
「私もAZさんなら合図を分かってくれると思ってました。」

パイロットADさんが話に混じってくる。
「3人ともさすがだね。ところで夜さんの機体の色って、特注?すごく空に映えるいい色だねー。」

濃い赤紫。
ほかにはない色だ。

「わぁ、うれしい。そうです。円安の影響を受ける直前にオーダーしたので、安く特注出来たんです。」
私があまりフライトできていないので、見慣れない色だなぁと思ったらしい。

「うん、いいよ。すごく目立つ。」
「ありがとうございます。」
「…夜さんは機体だけじゃなくて、飛びも目立ってるよ。」
呆れたようにAZさんが言ったので、皆で笑った。

県ランキング3位と書いたが、1位は私のダンナである。
夫婦でパラグライダーパイロットも珍しいが、夫婦揃って表彰台も珍しい。
何なのこの夫婦、と思われている。

最後にエリア管理者であるS校長にご挨拶。
「ありがとうございました。エリアシーズン券購入しますので、お願いします。」
「夜さん久しぶりだね。オーケストラが忙しくて来られなかったんでしょ。」
「ああ、そうです。先日本番が終わったので、もう少し来られるようになると思います。よろしくお願いします。」
「また来てね。」

あとでダンナに今回のフライトのことを話したら、
「そんなに飛べたの?意外だなー。ぶっ飛びコンディションだと思ってたのに。」
との答えだった。
出かけてみないとわからのないものだな★




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