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代表的日本人

◆こんにちは。小学校教員のねこぜです。「あなたにとって代表的な日本人は誰ですか?」と問われたら誰と答えますか?これはシンプルなようでいて非常に難しい問いです。コンテクストによるでしょうし、時代にもよりますね。
 かつて日本は日清・日露戦争を勝利し、西洋に衝撃を与えました。一体日本とはどんな国なんだ?日本人とはどんな民族なんだ?という問いから生まれたのが内村鑑三の『代表的日本人』、新渡戸稲造の『武士道』、岡倉天心の『茶の本』です。内村鑑三はキリスト教徒で知られていますが、彼がどのような人物を挙げているのか、そこに日本人とはどのような存在だと考えているのか、気になったので現代日本語訳版を読み、読書記録していきます。


1.西郷隆盛

 1人目は西郷隆盛です。まぁ納得という方も多いことでしょう。西郷の言葉で印象深かった箇所を早速引用してみます。

「好機には二種類ある。求めなくても訪れる好機と、自分で生み出す好機である。よく言われる好機とは、たいてい前者のことである。しかし、本当の好機とは、時の必要性に応じ、理に従って行動することで訪れる。重大な局面に際しては、自分たちで好機をつくり出さなければならない」

内村鑑三『代表的日本人』

 運は自分(たち)で引き寄せるものだと考えています。自然はあるがまま、人には意思があります。だからこそ、人を重んじ、信念を貫いてきたのが西郷隆盛の人生なのでしょう。もう一つ、

 世間では、「取れば富み、与えれば失う」と言うが、とんでもない間違いだ。農業にたとえてみよう。欲深い農夫は、種を惜しんで少ししか蒔かず、あとは秋の刈り入れまでひたすら待つのみ。当然、もたらされるものは飢えしかない。賢い農夫は、質のよい種を蒔き、その後もいろいろと手入れをする。穀物は百倍にも実り、あり余る収穫を得ることになる。蓄えようとする者は収穫しか頭になく、植えることに思いが至らない。一方、賢人は植えることに精を出す。だから、求めなくても収穫がもたらされるのだ。

内村鑑三『代表的日本人』

 あまり、経済や政治、教育の話をごちゃまぜにはしたくないのですが、これは全てに当てはまる道徳的観念だと思います。私たちはどうしても手元にあるリソースを分配したり損失することを恐れます。投資においても、少ない投資で大きな見返りをと考えてしまいがちです。また、「こうすれば、ああなる」という因果律で結果だけを求めようとする場面も多いことでしょう。そうではなく、植えること、育てること、手間をかけること、ここに西郷的な徳の道があるのです。この精神でもって新しい国づくりを目指した西郷に内村鑑三は感銘を受け、1人目にあげたのだと思います。

2.上杉鷹山

 続いて2人目は米沢藩主の上杉鷹山です。上杉家で有名なのは上杉謙信でしょうか。越後に広大な領地をかまえていましたが、なぜ上杉鷹山は離れた山形県の米沢の地に?そこには封建社会の厳しい理由がありました。ご存知の方も多いでしょうけど。まず天下統一をなした豊臣秀吉によって会津に領地替えさせられます。(家康も江戸という貧相な土地を与えられている)そこからさらに、関ヶ原で反徳川派についたことで米沢領地替えさせられ、加えて知行高も半減させられました。これにより100万石だったのがわずか15万石、かつ抱える家臣の数は変わらないのだから生活が超厳しくなるのは明らかですね。ここで、逃げ出すことなくむしろ希望を見いだすところが鷹山のすごさでしょうか。

「人々の悲惨な様子を目の当たりにして絶望感に打ちひしがれていたとき、ふと見ると、手元の火鉢の炭がまさに消えかかっていた。そっと取り出して優しく根気よく息を吹きかけていると、うまい具合にまた赤々と燃え出し、実にうれしかった。これと同じように、任されたこの領地と領民を復興させられないだろうか。そう思うと、再び希望が湧いてきたのだ」

内村鑑三『代表的日本人』

 さきほどの西郷と同じように、手間を惜しまない為政者としての信念が見えます。同じような言葉に「徳の高い人は、木のことを熱心に考えて実を得る。小人は、実のことばかり考えて実を得ることができない」があります。このような儒教の教えを大切にし、決して贅沢することのなかった上杉鷹山。「改革の天敵は人」であることも重々承知し、まずは人々の在り方を徹底的に変えていきました。ここでも「人」を大事にする精神が描かれています。


◆以上、西郷隆盛、上杉鷹山の他に二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人について本書では取り上げられていました。日蓮はちょっと枠が違いますが、他の4人に共通しているのは道徳、仁義、謙譲といった至極内面的な精神論でした。これを代表的な日本人であると内村鑑三は考え、西洋に発信したわけです。そして、よく読むと近代化に走る当時の日本人への批判や嘆きも多分に含まれていました。
 では、今の日本人はどうでしょうか?目先の利益ばかり追っていたり、自分だけ損しなければいいと思っていたりしていないでしょうか?一方で、思いやりをもつこと、手間をかけること、謙遜し相手を敬うこともまた、日常場面できっとあると思います。当たり前に大切だと思われていることが蔑ろにされていないか、ちょっと振り返って点検するだけでも日本人の代表的な精神は保たれるのではないでしょうか。

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