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五月の終わる夜は騒がしい

 何でもメモしとくのは、やっぱり大事かもしれんなぁ。引っ張り出したノートによると、2015年の博多の梅雨入りは6月2日だったらしい。早い。だからなんだ、とも思うが、なんとなく距離を置いて知ると、自分で自分に知らせてもらえている感じが、よい。
 今年2023年もちょっと雨で涼しかったりぐずったりの空で、5月が終わる。


= 透明の螺旋 =

五月の終わる夜は騒がしい
咲きほころぶ香りという香りが
密度を深めて
闇の黒に濃厚な蜜の色を塗り重ねる
白い薔薇だけが
花びらで ぼう、と浮かんで
その棘の向きをあいまいにしている
ちらっと見えた気がした
尖った銀色は
夜にだけしみ出す叫びの結晶か
自らをも傷つける
敵からも身を護り得る

去年は、悲しい頃だった
蛍も見ずに終わってしまった
来年ね、などと軽く、しかも本気で言ったものの、
今年はまた今年の悲しさ

透明の螺旋の上の水色の場所で

生まれ落ち、今日までの一日(ひとひ)一日の
なんと無力で
あったことか
誰にも見えぬ幹に水をやりつつ
言葉の恐ろしさを知り、
望まぬところの枝ぶりばかりが
親と教師の誉となり
遠巻きの目つきに反吐しては、
途方に暮れてうずくまった
この水色の無力

しかし、また
なぜかとは説明のつかぬままに、また
靴のかかとを換えはじめ
新たな一歩をつなげれば
「やはり、この道なのだろう」
意識の水底の鏡が
一瞬より短い刹那
鋭い銀に発光する

「ならば、やはり、そうなのだろう」

目を凝らせば
味方するでもなく、しかし
思えば完全に拒絶するでもなく
ただ細く揺れるこの道が
ただ五月の闇の花びらの白さで
ぼう、と浮かんで見えるので
ただもう一歩踏み進む

ただずっと、このようであった

朝になれば
また暦に合わせて
薄ねずの空がはじまる

2015.6.2 梅雨入り  さち・ド・サンファル!


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