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ギフティッド教育への招待2023「専門家に聞く」シリーズ、第二回「ギフティッドとはどんな子ども?」ウェビナーご報告

2023年1月20日(金)、上越教育大学大学院教授の角谷詩織先生をお招きして、「ギフティッド教育への招待2023」ウェビナーを開催しました。ウェビナーの構成は、パート1で角谷先生に講演をして頂き、パート2では事前に参加者の皆さまから頂いた質問に回答を頂きました。

(今回は参加者の皆さまの個人的なご質問に回答を頂くという内容の性質上、初めてアーカイブ配信を行わない形で開催しました。また、有料での開催でしたので、ご報告は要約した内容となっております。)

パート1:上越教育大学 角谷先生のご講演

今回の2回シリーズのウェビナーはギフティッドの子どもたちの情報が不足していると思われる教育関係者を主な対象として企画しました。パート1では角谷先生にギフティッドとはどのような子どもたちなのかについて、「ギフティッドの子どもの気持ちの理解」というテーマでお話を頂きました。

はじめに、ギフティッドの子どもの支援で特に重要なこととして小学校低学年までの社会情緒的支援があることを述べられました。学業不振や学校との不適応の前兆が小学校中学年(3~4年)までに現れやすいことや、日本にも、中学・高校以上では学業を伸ばすための支援の蓄積がある程度あるためだそうです。繊細さや激しさ、正義感などが学校で理解を得られないと、知的な関心を伸ばす支援があったとしても学校生活に適応できないといったケースもあるとのことでした。ただし、ギフティッド児全てが配慮を必要としているとは限らず、社会情緒的要因や環境要因としてポジティブな状況が得られていれば問題が現れないこともあり、ニーズや特性と学校の支援が合わないときに配慮や対策が必要になります。

次に、「ギフティッド児の5つの気持ち」として具体的にギフティッド児たちが学校でどのような気持ちを感じているのか、先生方はそれぞれのケースでどのような対応が可能かをお話頂きました。
※今回のお話ではギフティッド児の中でも一つの指標であるIQの120~135のマイルドリー、モデレイトリーギフティッド(ギフティッド児の約90%を占める)を対象とされており、通常学級では対応が難しいこともある2eもしくはハイリー,プロファウンドリーギフティッド(IQ135以上)の子どもたちには個別の支援計画が必要とのことです。

気持ち1「授業がつまらない」
ギフティッド児はよく授業がつまらないと言います。そんな退屈をしている子どもには発展的な学習や、探究学習の提供をする。時に授業と関連のなさそうに思えるような発言であっても、想定以上に深い考えが隠れていることがあるので関心を示してあげる。学校外の学習の場の紹介や子ども自身が選択する場を増やす、能力や興味関心が近い子ども同士のグループ活動の提供、回を重ねることで新たな知識やスキルを得られるような試行錯誤に近い反復の形をとるなどの工夫が考えられます。海外では早修、拡充、能力別グループでの学びの制度が採り入れられていますが、その子が、「興味関心を同じくする“同士”と一緒に、その子にとって適したペースで(ギフティッド児の場合、ゆっくりすぎないこと)興味関心を追究できる」場をもつことがとても重要で効果が期待できるそうです。

気持ち2「もっと合理的なやり方がある」
登校後すぐに体操着に着替えるのならば体操着で学校に行っても良いのではないかなど、合理的に考えたがるギフティッドの子どもは多いと言われます。そういった場合は、「確かにそうだね」など気持ちを受け入れながら論理的に説明をしてあげる。または非合理的と思われる慣習に従わなくてはいけないときには「先生もわからないのだけれどね」と先生が常に完璧な正論を言う存在ではないということを示すことも共感を呼ぶきっかけとなりうるそうです。

気持ち3「コントロールされているように感じる」
たとえ高圧的ではなくても、柔らかい言葉を使いながらも誘導尋問のように教師自身の求める答えに導こうとしてしまう場合も時にあります。そのような大人が言外に子どもをコントロールしようとするような意図や心情にギフティッド児は敏感に反応します。教師は常に自分の発している言葉が実際にはどのようなメッセージを伝えているかを意識し、子どもたちが「自分が決められる」裁量を持てるテリトリーを作れるようにしてあげることが大切です。

気持ち4「本当に公正・公平なのか」
泣いている人の側にばかり寄り添う、先生にとって望ましい答えばかりを拾うなどをしていると、ギフティッドの子どもは先生のなかに真の意味での公平さを見いだすことができなくなり、信頼感をもてなくなります。それが繰り返しにな生じると関係を損なってしまう可能性が高いので注意が必要です。

気持ち5「先生を困らせようとしているのではない」
授業中に口をはさんだり、急に質問してきたりするギフティッドの子どもはよく見られます。けれども、そういった子どもたちは先生よりも自分が知っていることをひけらかそうとしたり、先生の挙げ足をとろうと思っているのではなく、知りたいことがあるから発言していたり、間違いが気になって仕方がないので伝えようとしたりといった純粋な好奇心の高さが原因で行動していたりします。とはいえ、授業の妨げになるような態度を取られると、ついネガティブに受け止めがちですが、子どもたちの行動の理由を理解してポジティブに対応してあげたいものです。

講演の最後に、角谷先生は学校の先生が保護者から「子どもがギフティッドかもしれない」と相談をされた場合についてどのように対処すればよいかアドバイスをされました。「もし、ギフティッドについて知らない場合は正直に知らないと答えて良いと思う。そして、最近は特性についての資料や記事などがあるので、保護者からの問いかけがあれば興味を持って目を通してみる。すると子どもの特性や行動パターンがストンと腑に落ちて、自然と子どもたちを受け入れるキャパシティが広がると思います。学校のすべてのの先生方とも情報を共有して、子どもだけでなく教師自身の対応の在り方への学校全体の理解が深まると、一教師としても気持ちのゆとりを持つことができるようになり、良い方向に進めることができるようになると思います」と結ばれました。

パート2:質問へのご回答

今回も事前のご質問をかなり沢山頂きました。ウェビナーでは一問一答形式でお答えいただきましたが、記事では内容の近いご質問をまとめて、ダイジェスト版といたします。

子どもにとって適した学ぶ環境に関する質問
ギフティッドの子どもは海外で学ぶ方が幸せなのでしょうか?
・ 私立小、公立小か。また情緒面で問題を抱えており支援学級が良いのではと考えていますが、IQの高さから医師も教師も普通学級が良いと言います。ギフティッド児にとってはどちらが適しているでしょうか。      
・地元の病院、学校、教育委員会、福祉課、全てに相談していますが、高IQでも「発達障害グレー」としか見てくれず、凸の部分を伸ばしてくれる支援機関に巡り会えていません。今後、どこにどう支援を求めて行けば良いのでしょうか。
・小学校をたまに休ませて、自宅で過ごしたり、科学館などに行っても良いのでしょうか。
・つまらない授業をする先生の話を聞くのがつらいそうです。このまま学校へ行かせていてもいいものでしょうか? 

<角谷先生より>
海外には制度などが整っている国もありそのメリットはあるだろうけれども、制度があることと実際に何がなされているのかは別の問題と言う点も意識するとよい。子どもに合う、合わないは国内外どちらでもあり、究極はどのような担任の先生に巡り会うかにもよるのではないか。また、公立・私立、支援学級・普通学級どちらがよいかという点については一般的な回答はなく、たとえば支援学級であれば、どのような子どもの支援を念頭に置いているのかなども含めて判断される方がよいと思う。また「発達障害グレー」という言葉を最近よく聞くが、もし知能検査の結果だけでそのように判断されているとしたらそれは適切ではない。また、専門的には「発達障害」という診断名はない。診断のレベルでは、ADHD、ASDなどのような診断名に基づいて適切な対応がなされるはずなので、「発達障害グレー」と専門家から言われるようなことがあった場合は、もう少し正確な話を伺うほうがよいだろう。学校を休ませることは、お子さん本人がどの程度のストレスを感じているのか、たまに休むことで本人の活力が戻るのか、たまに休むことについて、学校と情報共有できているか、お子さんの本当の望みは何かということなどを考えて様子を見ながら考えると良いのではないかとアドバイスをされました。

ギフティッドの子どものもつ特性への対応方法についてのご質問
言語能力が突出していることにより、人から言われた言葉がネガティブな形で残ってしまいやすい時の対処や受け取り方の調整法を教えてください。
・納得しなくても「やってみるか」と緩く構えられるようになるための誘導ポイントを知りたい。
・社会に対しての、正義感ありきの憤り、「こうであるべき、正しくあるべき」という傾向への接し方を教えてください。
・相手の顔色や思考をあらかじめ先読みして、相手の満足や気持ちを優先させてしまう場合への注意点を教えてください。
・感情の過興奮性があると考えられる子供への対応で気を付けたほうが良いことは?
・自分の思ったとおりにいかなかったり、ちょっとしたことを言われて癇に障ったりというような原因が多い気がします。そういったトラブルを少なくするための対策を教えてください。
・「言わなくてもわかるでしょ」と周りが自分を理解出来ないことがわからない。また「嫌がることをわざとやられた」と思いこむことが多い。その思い込みをほどいて他者とうまくやることを学んでいかせてあげられるかアドバイスをお願い致します。
・2eで特異な才能もあるが一般の勉強がこなせない。発達障害もあり大学進学や仕事も本人が望んではいるが、身体がついていかずゆっくりとした生活となっています。適した場所や仕事に就けるのかなど心配。

<角谷先生より>
人に言われた言葉がネガティブに残ってしまう場合は、安易に「気にしない」など言わず、その気持ちを真実として認めてあげること。「背中に貼り付けた貼り紙を振り落としてイメージトレーニングし、言われた言葉などもそのイメージで背中から流れ落ちる感覚をつかむ」という方法が、訳書「わが子がギフティッドかもしれないと思ったら」(p.244)に書かれていたことをご紹介下さいました。また、納得いかないことに対して緩く構えるのはなかなか難しいかもしれず、相手がどのような立場にあるのかを推察したり、それを自分がすることで喜んでくれる人がいるのかを考えてみたり、時にユーモアを交えて応じるなどの方法もある。社会に対しての憤りは、その子の正義感や理想主義の強さ等の特性を変えることはできないので、気持ちを認めてあげながら、余裕のあるときに別の立場からの見方などを話すこともよいかもしれない。相手の顔色を見てしまうことに関しては、子ども自身がそのことで苦しんでいるかどうかがポイントとなり、相手が喜ぶことが自分の喜びとなっている場合は無理に正そうとしなくても良いのでは。感情の過興奮性への対処は話を聞く、否定しない、共感するといったことは効果があるが、目に見える効果を急ぎすぎないこともポイント。

癇癪がある場合「生まれた時から」なのか、幼稚園や学校に入学してからという節目があるかによって対応が異なる。後者の場合は、「ギフティッド その誤診と重複診断」の98ページからのラヴィ(10歳)の事例が思い浮かぶ。子どもが我慢を強いられていることはないか、納得がいっていないことがないかを考えること、話を聴くことが大切。思い込みをほどくには、ロールプレイが有効だと「わが子がギフティッドかもしれないと思ったら」にも書かれている。「言わなくてもわかるでしょ!」と言われたら、「あ、ママがなかなかわかってくれなくて、イライラしているみたいだね。」というように、不自然にならない程度に感情に名前をつけて共感すると、少しずつ反応が変わるかもしれません。

2eの支援は専門家の先生と相談し続け、親は話を聴く。その子を丸ごと受け入れ、丸ごと受け入れているというメッセージを伝え続ける。何かに強い興味関心を持つことができていれば、それが活力のもととなるので、邪魔をしない。社会は学校より選択肢が広く自由度が高いということがわかると、親も子どもも安心できると思う。子ども自身の興味関心に関連した分野で生き生きと仕事をしているメンターとの出会ことができれば、大きな収穫になるのではないかと思うと回答されました。

ギフティッドの子どもの見つけ方、判定などについてのご質問
・ 同年齢に普通に適応しているように見えても、実は本人の中では能力を隠して気を使って過ごしているお子さんもいるとのこと。どのように見つけてケアをしてあげればよいでしょうか。
・明確な判定をするとした場合、知能指数以外の要素(EQなど)はどれほど関わるのでしょうか。
・知能指数を判定することによって、どれ程その人の抱えている得手不得手がわかるのでしょうか。
・WISC Ⅳで高い数値が出た場合、今後多少の数値変動はあるとしても、それは一生続く能力として考えて良いのでしょうか。
・WISCIVを子供が受けたところ、全検査IQ129,言語理解143、その他指標が平均より上か平均の範囲にあると出ました。言語理解のみが非常に高い場合でもギフティッドと考えて良いのでしょうか?

<角谷先生より>
支援という観点からは、ギフティッドかどうかというよりは「本人が苦しんでいるかどうか」という点で子どもを見てあげることが大切である。苦しんでいるかどうかを見極める方法は、ギフティッドではない子供と大きく変わらないが、ギフティッド児は「隠す」ことが上手なため、本人の話だけでなく表情や目の輝きに敏感になり、その子どもの保護者の話に耳を傾けることが一層大切となる。もし苦しんでいるようであれば、まずはしっかりと話を聞いてあげてほしい。

特性としてEQを調べている研究はたくさんあるが、それを判定指標の一つに組み込むかどうかは別の議論となる。教育心理学、発達心理学、あるいは経済学等、EQは非認知能力として、認知能力とは分けて考えられている。知能指数の判定では色々とわかることがあり、一般的に教育的配慮のよい指針を示してくれると思う。WISCの結果は8歳以降の測定値であれば、測定ミスがなく、測定後に事故や病気もなく、お子さんが検査時に協力的であったのであれば安定していると思ってよい。

その他、以下のようなご質問がありました。
・今、子どもは5歳(年中)ですが、この先成長に伴う心境の変化やギフティッド児にありがちな傾向等を、成長段階別に示されたものがありますか。<角谷先生より>
発達は、知能指数やパーソナリティ等により、実に様々、標準的な子供よりも個人差が大きいということも念頭に置いておく必要があると前置きをされた上で、洋書の「Smart Girls in the 21st Century」「Smart Boys : Talent, Manhood, and the Search for Meaning」「5 Levels of Gifted : School Issues and Educational Options」などの書籍を紹介頂きました。

・海外と同様のギフティッド教育の政策を日本でも実施すべきとお考えですか。
<角谷先生より>
海外との比較というよりも、日本に求められることという視点で、日本の喫緊の課題は、ギフティッドに関する教育現場の的確な理解の浸透、また、ギフティッドの中でも困っている子の支援ではないかと回答されました。

・ギフティッド児の進路について教えてください。
<角谷先生より>
個別の例に詳しいわけではないのですが、進路は十人十色ではないかと思う。保護者の立場としては、見守るほかはない、つまり、興味関心を大切にすることと、枠をはみ出しても受け入れる覚悟をすることではないかとのことでした。

全てのご質問は掲載できませんでしたが、ご参加者の皆さまご質問をありがとうございました。また、角谷先生、一問一問に丁寧に、真摯にご回答を頂き誠にありがとうございました。

角谷先生とギフテッド教育の招待ウェビナー実行委員

2024年国際会議の告知

角谷先生のご講演と質疑応答のあと、2024年に日本で初開催される才能児教育の国際学会「第18回 Asia Pacific Conference on Giftedness (通称APCG)」について実行委員よりご案内しました。

アジア各地で隔年開催されてきたAPCGを日本に誘致し、香川県高松市で2024年8月17日(土)~20日(火)の4日間開催することが決定しました。主催組織は愛媛大学、神戸大学、香川大学、高松観光コンベンションセンター、株式会社リエゾン・デートルです。実行委員長は昨年11月のウェビナーにご登壇を頂いた愛媛大学隅田学先生で、今回ご登壇を頂いた角谷詩織先生も企画委員として参加されています。

会議テーマは「Educational Environments for Transforming Gifted Minds、 Lives and Communities(ギフティッドマインド、生活、コミュニティを変革するための教育環境)」で、基調講演、特別講演、トークセッション、ワークショップ、ポスタープレゼンテーションを行います。また、同時期に並行して世界各地の中学生向けユースサミットを小豆島で行うことになりました。ユースサミットではグローバル、ローカルな視点でサステナビリティを考えることを検討しており、日本の中学生の皆さんにとっても世界の子どもたちと交流しながら学ぶ機会を楽しんでもらえたらと願っています。

当会議は2023年夏頃をめどに参加者の募集を開始すべく準備中です。新着情報はウェビナーに参加された皆さまやSNSでフォローをして下さっている方々にシェアをしていきたいと思います。皆さまよろしくお願いいたします。

まとめ

ウェビナーは角谷先生のご厚意で全てのご質問に回答をして下さり、予定の時間を少し越えましたが、参加者の皆さまも最後までご視聴して下さいました。事後アンケートでは「満足」というおことばを多く頂けて、実行委員一同とても嬉しく存じます。ウェビナー当日はいただいたご質問を、分類をせず先着順、ご質問者のお気持ちに沿うため、できるだけ頂いたままの表現・表記で掲載させて頂きました。けれども、もう少し整理をした方が良かったのでは? 角谷先生のご専門の部分だけをお聞きしては?というご意見もアンケートにはありました。頂きました貴重なご意見は今後のイベントなどに反映をして参ります。今後ともよろしくお願いいたします。


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