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小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第16回「インサイト」

B総研のチームはA社から依頼を受けた案件のアンケート設計で失敗し、汚名挽回のための方策を練っていたがなかなかいい案が出てこなかった。

フリーコンサルタントの立場でB総研チームに参加している八木誠人は自宅で一人夕食を摂っているときに昔先輩の今だから言われた一言を思い出し、買っておいたマーケティング関係の本を引っ張り出してきた。


「あった。これだ」

つい3週間ほど前に読んだ本に「消費者のインサイト」に関する記述があったのを誠人は思い出したのだ。

・インサイトとは消費者自身も気付いていない深層にある欲求

・いいインサイトを見つけ出すことによって大きな結果が得られる

要約するとこのようなことらしい。

A社の件に当て嵌めると、「A社経理部の人たちも気付いていない『クラウド清算野郎』に求める機能」ということになるだろうか?

「求める機能」は言い換えると便益となるかもしれない。

どんな便益を提供できれば経理部の人たちは本当に満足するのだろうか?

それを探り出すためのアンケート設計にしなければいけない。

そのためには「『クラウド清算野郎』を使う前にどういう不安がありましたか?」というアンケートの聞き方は不十分ではないだろうか?

製品を使用する人が本当に求めるものをもっと幅広く探れるような聞き方があるのではないか?

例えば、「清算業務で不便に感じることは何ですか?」といったような質問のほうがまだ真相に迫れるのではないか?

そこまで考えたところで、つけっぱなしにしていたテレビのニュースが野球の結果になった。

一旦、考えは打ち切って明日こういった線でB総研メンバーと話してみようと思った。


翌日。

例によって三瀬が会議の議題をシンプルに話し出す。

「昨日話したアンケートの設計だが、やっぱり『クラウド清算野郎』を使う前にどういう不安がありましたか?という聞き方がベストなのかな?」

佃が間髪入れずに答えた。

「そうですね。それ以上はないんじゃないでしょうか。何よりA社側から出た意見ですし、意地張って修正したと思われても全然いいことないですからね」

誠人はまだB総研の二人と仕事を始めて数日だが、三瀬と佃の人柄もあってか少なくとも遠慮なく自分の意見を躊躇することなく言えるようになっていた。

「あの、もっとインサイトを突けるような質問項目にできないでしょうか?例えば、『清算業務で不便に感じることは何ですか?』みたいな」

一周の沈黙の後、三瀬が話し出した。

「うーん、何か新商品を作り出そうと思ったらそういう聞き方もありなような気もするが、今回の案件はすでに完成している商品だからなぁ。全然違うニーズが出てきてもそれはそれで困ってしまうし」

佃も続ける。

「インサイトを突くという発想はいいと思うんですが、三瀬さんの言う通りそれは新商品を作るタイミング、つまり『クラウド清算野郎』を開発する初期段階で実行していると思うんですよね」

「じゃあ、その時の調査結果をみせてもらうというのはどうでしょう?その調査結果から導き出されたニーズと『クラウド清算野郎』の実際の使い勝手に差異があれば、そこが売れ行き不振の原因かもしれないという考え方はどうですか?」

「いや、それはさすがにまずいだろう。『クラウド清算野郎』自体は実際に使ってる人からは高い評価を得れているんだ。今回の目的は製品の欠陥を探すことではなくて、製品が売れない理由を探ることのはずだ」

誠人は納得するしかなかった。

確かに三瀬と佃が言うように、今回のイシューは「なぜ製品力が高い製品なのに売れないのか」の理由を探り出し、売れるほうに改善することのはずだった。

「ま、とにかく2回目のアンケートは『清算業務で不便に感じることは何ですか?』として、再度結果を見てみようじゃないか。対策はそこから出てくるはずだからな」

三瀬の締めくくりで会議はものの20分程度で終了した。


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