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小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第10回:業務開始

面談の翌日の昼過ぎ。

みらいワークスからメールがあった。

『昨日は面談ありがとうございました。

先方より、ぜひ八木様に支援いただきたいとのことで、正式に受注してよろしいでしょうか?

・報酬は90万円/月 稼働率は40% 月額36万円

・稼働日は週2日(具体的な稼働曜日等は今後相談)

・契約期間は来月1日からの3か月

・勤務は基本リモート(場合によって出社の可能性あり)

何卒、前向きなご検討のほどよろしくお願いします』

誠人は嬉しかった。

自分が会社以外で必要とされ対価を支払われる。

36万円の3か月なら108万円。

貯金と併せれば念願の車だって3か月後には手に入る計算になる。

もちろん不安もあった。

A社のサービスであるクラウド経理システムなんて使ったことがないし、基本的な知識も持ち合わせていない。

誠人はネットで「クラウド経理システム 比較」と検索してみた。

A社はこの業界の中堅のようであったが、実質上位の2社が寡占状態で他の会社との差は歴然としているようだった。

どのような提案をすればいいだろう。

まだ先方と詳しい話もしていなかったが、可能な限りシミュレーションしてみる。

まず分かっている要件を整理してみた。

・A社は半年前に新サービスを開始したが、売れ行きがよくない

・新サービスの内容自体は大手2社のサービスと比べても独自性があるものだが、実際のニーズがあるかは不明

まずは改めて「誰に売るか?」を考えなくてはいけないのではないだろうか?

いや、その前に「今誰に売っているか」を確認する必要がある。

そのうえで、その売り先が本当にあっているかどうかなどを調査しつつ改善事項を検討できるのではないか?

わずかな情報から検討できるのはここくらいまでだったが、誠人の経験値を活かした考え方はできているような気がした。

実際の業務開始日まではあと1週間ある。

そこまでに何ができるかを考えてみる。

誠人はアマゾンのサイトを開いて、「クラウド会計 本」で検索してみた。

数冊の候補が出てきたので、評価の点数とレビュー数をもとに3冊注文した。


翌日、誠人は出社して人事部に副業申請の書類を提出することにした。

書類の記載事項は、

・取引先

・業務内容

・報酬額

と非常にシンプルだった。

人事部に行くと、誠人の1年先輩で人事係長の阿部がいたので声を掛けてみる。

「阿部さん、ちょっといいですか?」

「おお、八木か。久しぶりだな。どうした」

「副業申請を出したいんですが」

「八木もついに副業を始めるのか?今月だけでもう20人近くが副業申請してきてるぜ」

「そうなんですか?」

「ああ、会社としても働き方の多様性を積極的に支援してるからな。最近人事部じゃ競合の旅行社での副業を認めてもいいのではという話も出てるくらいだ」

「そこまできてるんですね」

「うん、正直ただ会社に所属しているだけで十分な給料を払える時代は終わるんじゃないかな」

誠人は意外だった。

副業するということは結構特殊なことだと思っていたのだが、実際は周りの連中はとっくに働き方の変革についていこうとしているようだった。

「審査のポイントは今のところ、相手先の会社が競合でないかと反社会的でないかだけなんで、A社なら問題ないよ。進めてもらって大丈夫だ」

その場でOKをもらえるのも少し意外だったが、万が一ダメだった時のことを考えてなかったのでほっとした。

「ありがとうございます」

誠人は礼を言って人事部の部屋を出た。




1週間後の午前10時。

いよいよ業務開始だ。

と言っても、リモートなので緊張感は軽減される。

web会議にアクセスすると7人のA社のメンバーがそれぞれリモートで顔をそろえていた。

採用面談をしてくれた高橋が話し出す。

「おはようございます。まずはこのプロジェクトに外部応援スタッフとして参加してくれることになった八木さんを紹介します。八木さんは現在も大手旅行会社に勤務していて副業での参加となります。八木さん、自己紹介を簡単にお願いしていいですか?」

「はい。八木誠人と言います。高橋さんから紹介があったように現在は旅行会社に勤務しています。会社では入社以来一貫して営業畑を歩んできました。今回商材こそ違う分野ではありますが、私の経験がお役に立てるように一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします」

高橋がパチパチと画面越しに拍手してくれ、それに他の皆も追随してくれた。

いよいよスタートだ。



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