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小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第14回:間違っていた「本当の顧客」

A社の社内アンケートの結果は八木誠人を含むB総研メンバーの想像通りではなかった。

経理部で『クラウド清算野郎』に満足している人は24人中なんと全員。

経理部全員が『クラウド清算野郎』の導入によって作業的な負荷が軽減されたと答えたのだ。

誠人はB総研の三瀬と佃と会議をしていた。

アンケートの結果を前にして3人とも無言の状態が続いたが、まずは佃が重い口を開いた。

「うーん、意外な結果でしたね。経理部も満足しているなら商品としては完璧でスキがないと言ってもいいですよね」

三瀬が呼応する。

「ああ、あとは自社製品だからA社はコストを掛けていないのでそこの差異が実際に売れない原因の可能性はあるが」

それには誠人が答えた。

「いえ、結果的に経理部の負担を減らせたなら残業代や今後の人件費も抑えられるはずです。そこまで考えたら『クラウド清算野郎』の価格はけして高額とは言えないはずです」

ここまで会話してまた3人は黙り込んでしまった。


その二日後、A社のプロジェクトメンバーとの会議に臨んだ。

A社の高橋が話し始める。

「アンケートの結果から何か分析できましたか?」

三瀬が答える。

「アンケートの結果、『クラウド清算野郎』は清算する従業員の皆さんだけでなく、経理部からも非常に評判がいいことが分かりました」

「手前味噌ですが、我々もいい製品だと思っています。では、なぜ売れないんでしょう?」

「正直申し上げて、今回のアンケートからはその理由は分かりませんでした。今回のアンケートの成果としては『クラウド清算野郎』が製品としては非常に優れており製品力に売り上げ不調の原因があるのではないと確認できたことです」

「まぁ、我々もずっとこういった製品を作り続けていますからその製品が本当にいい製品かどうかは判断できるつもりです。『クラウド清算野郎』には最初から自信がありましたよ」

なにかB総研のメンバーが『クラウド清算野郎』の製品力に疑問を持っていたように取られて会議の雰囲気は急に悪くなった。

しばし沈黙が続いた後、おずおずと話し始めたのは意外にも佐竹めぐみだった。

「あの、もしかしたらアンケートの取り方が間違っていたんじゃないでしょうか?」

「アンケートの取り方?」

高橋がめぐみに聞き返した。

「はい、うちの経理部はすでに『クラウド清算野郎』を使っていますよね。でも営業先の方々はまだ『クラウド清算野郎』に実際に触れていません。その段階で買わないってことは、何か不安を感じて買わないのではないかと思って」

全員がめぐみの発言に真剣に耳を傾けていた。

「なので、アンケートの聞き方としては『クラウド清算野郎』を使う前にどういう不安がありましたか?と聞くのが正しいのじゃないかと思ったんですが」

誠人は完全にやられたと思った。

めぐみの言う通りだ。

誠人たちは「本当の顧客」を経理部の人たちと定義付けたが、それでは物足りなかったのだ。

実際の「本当の顧客」は『クラウド清算野郎』をまだ導入していない経理部の人たちだったのだ。

発言しようか迷っていると三瀬が先に話し始めた。

「佐竹さん、素晴らしいご意見です。その通りだと思います」

本来B総研側からそういった提言をすべきところだったが、三瀬はそれには触れずにめぐみの発言を評価した。

そして続ける。

「今の佐竹さんのご意見を参考にもう一度アンケートを設計しなおします。二度手間を取らせて申し訳ありませんが引き続きご協力をお願いします」



その日の晩、誠人は自室で夕食を取りながらめぐみの発言を思い出して悔しくなった。

もちろん、めぐみに対して悔しかったのではない。

コンサルタントとしての立場でプロジェクトに関わっていながら、クライアントに解決策を出させてしまったことが悔しかったのだ。

めぐみのおかげでプロジェクトとしては前に進んでいるが、A社から見たら我々は無能な人間に見えているのではないだろうか?

そもそもA社はB総研にかなりの大金を払っているはずだ。

無能ではなくても、金額に合わない仕事しかできないと思われている可能性は十分にあるだろう。

何かいい挽回策を考えないといけないと思うのだが、今の段階では何も思い浮かばなかった。

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