見出し画像

小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第12回:本当の顧客

A社の新商品『クラウド清算野郎』の売上アップ戦略を構築するため、A社から依頼を受けたコンサルティング会社B総研。

B総研の担当は三瀬と佃。

八木誠人はB総研のチームの一員として、A社のプロジェクトに関わりはじめていた。

昨日のA社とのキックオフミーティングで早くも課題が分かってきた誠人を含むB総研のプロジェクトチームは、実際に自社製品『クラウド清算野郎』を導入しているA社経理部へのヒアリングの準備のためのミーティングをしていた。

三瀬が言う。

「八木さんの仮説をまずは聞かせてもらっていいですか?」

「はい、おそらくお二人も同じではないかと思うのですが経理部の方には『クラウド清算野郎』は評判が悪いと思います」

佃が続く。

「僕も全く同じ意見ですね。高橋さんはじめA社の皆さんは顧客を経理部以外の従業員だと捉えていますが、実際の顧客は経理部の人たちなんだ。だから、従業員の利便性が高くても売れていないという現象が起きているんだと思います。三瀬さんはどう思いますか?」

「言うまでもなく同じ意見さ。じゃあ、経理部に評判が悪い原因は何だろう」

誠人が考えながら、答える。

「うーん、そもそもシステムの変更によって従来の作業が変わるということに対する嫌悪感が大きいんじゃないですか?」

佃がそれに疑問を呈した。

「でも、A社の櫻井さんが言ってた通り、経理部の負担も減るんだったら願ったり叶ったりのはずですけどね。負担を減らすために新システムを入れることにはそんなにネガは働かないと思います」

「ということは、負担が減ってないってことかな?」

「あるいは別の負担が増えたとか」

しばし議論して、経理部へのヒアリングポイントをなるべくシンプルにまとめた。

・『クラウド清算野郎』を導入して、経理部の作業負担が減った点を教えてください。

・『クラウド清算野郎』を導入して、経理部の作業負担が増えた点を教えてください。

この2点を徹底的にヒアリングすることにした。

案件初日の会議はこれで終了した。

時間は夕方の5時。

誠人は誰に指示されたわけでもなかったが、A社とのキックオフミーティングの議事録を作成し、プロジェクトに参加しているA社とB総研の皆に送っておいた。

送り終えた時点で、ちょうど6時になったので今日の業務は終えることにした。



まだ、初日が終わったところだったが『業務に全くついていけなかったらどうしよう』という誠人の最大の不安はとりあえず払しょくされた。

というよりは、ほんの少しであるが手応えすら感じていた。

気分がよくなった誠人は晩飯は外食することにした。

家から10分ほど歩いたところに餃子の王将があるので、そこで餃子と一緒にビールでも呑もう。

誠人は財布と最近買ったマーケティングの本をショルダーバッグに入れて部屋を出た。

王将は駅前の商店街の並びにある。

商店街の入り口に入り駅のほうに向かって歩くと、ちょうど駅から帰宅すると思しき学生や会社員風の人たちが流れてきた。

テレワークが進んだとはいえ、まだまだ出社する人は多いようだ。

実際に誠人だって週に最低でも1日は出社している。

でも、テレワークのおかげでこういう副業もできるようになったと思うと、社会の変化を感じずにはいられなかった。

その大きなきっかけがコロナだというのも複雑な気がするが。

王将の前に着き、表に張り出されている紙を見て心の中で舌打ちをした。

『緊急事態宣言期間中は、行政の指導により、

・営業時間は午前11時から午後8時まで

・酒類の提供は終日取りやめ

しております。』

時間はまだ大丈夫だが、ビールが飲めないのだった。

ビールが飲めないなら餃子を食ってもしょうがない。

誠人は出鼻をくじかれた気がした。

せっかく記念すべきフリーコンサルタント初日をささやかに祝おうと思っていたのに。

まぁ、しょうがない。

ビールがなくても心が躍る食い物はないかと思い、店頭のメニュー表を見てみる。

ラーメン系とご飯系を両方がっつり頼んで久々にドカ食いでもしようか?

あまり生産的でないことを考えていると、急に声を掛けられた。

「あれ、八木さん。。。ですか?」

振り向くと、今日web会議で初めてあいさつして、その容姿が密かに気になっていたA社の佐竹めぐみがそこに立っていた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?