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小説「最強のフリーコンサルタントへの道」 第15回「汚名挽回」

八木誠人を含むB総研のメンバーは自分たちが設計した社内アンケートで思うような結果と成果が出せなかった。

それどころかクライアントであるA社の若手社員にやんわりとだがアンケート設計の間違いを指摘されてしまった。

B総研の三瀬、佃、それにフリーコンサルタントとして参加している誠人は汚名挽回のための会議をリモートで開いていた。

誠人は自宅から参加していたが、三瀬と佃は同じ会議室にいた。

こういう会議はいつも三瀬が嚆矢を放つ。

「前回の会議では参ったね。見込み顧客と実際に使用している顧客を混同するなんてあとから考えると初歩的なミスだ」

佃が答える。

「そもそも『クラウド清算野郎』の本当の顧客に執着するあまり、製品力に疑問を持ってしまったのが間違いでしたね」

誠人も口を挟んだ。

「そうですね。もっと多面的に仮説を検討するべきでした」

「まぁ、済んだことはしょうがないし今回のことでなにかA社に損害が発生したわけでもない。むしろ、佐竹さんという若手社員の指摘でプロジェクトが前に進んだんだからA社としては我々の失策とは捉えていないだろう。今後の挽回策を考えよう」

誠人もそのつもりで会議に挑んでいたが、特にいいアイデアは持ち合わせいなかった。

めぐみの指摘通りにアンケートを再設計するのはあまりにも芸がないので、それは避けたいというのが本音だった。

その後も会議は続いたがいい挽回策は出てこず、めぐみの言う通り「『クラウド清算野郎』を使う前にどういう不安がありましたか?」という質問項目だけを議事録に記載して会議は終了した。

すでに時計は夜の8時を回っていた。


誠人は冷蔵庫を開けて夕食に食べられそうなものを物色したが、記憶通りに何もめぼしいものは入ってなかった。

近所のスーパーは夜21時まで営業しているので今からならまだ間に合う。

誠人は財布とスマホだけを持って家を出た。


スーパーの総菜コーナーにはあまり商品が残っていなかった。

但し、閉店間際ということもあり残っている者の大半には「半額シール」が張られていた。

誠人はメンチカツとポテトサラダと缶ビールを購入して帰宅した。

もしかしたらまためぐみに会うのではと思っていたが、今日は何となく会いたくなかった。

しっかりとした挽回策を提案してから会いたいと思っていたのかもしれない。


帰宅してまずはシャワーを浴びて、テーブルにメンチカツとポテトサラダをスーパーのパッケージごと並べた。

ビールのプルトップを開けてグラスは使わずにそのままのどに流し込んだ。

アンケートの聞き方としては「『クラウド清算野郎』を使う前にどういう不安がありましたか?」以上のものはないのかもしれない。

では、我々がアンケートで本当に知りたいことは何か?

なぜ売れないのか?を確かめるためのアンケートなので『クラウド清算野郎』を導入しない理由だろう。

待てよ。

ここまで考えて誠人の頭の中におぼろげながら昔今田から聞いた話が浮かんできた。

今田は誠人の会社の先輩で今はフリーコンサルタントとして独立している。

誠人と違って専業だ。

14も歳が違う誠人と今田だが何故かウマが合った。

今田はほかの社員には教えないような仕事のコツなんかもよく誠人に話聞かせてくれた。

『いいか、誠人。客は本当に自分が求めているものをしっかりと認識しているとは限らないんだ。客自身も認識していない本当に欲しいものをとらえるのが本当の営業マンの仕事だぞ』

これからも知れない。

誠人は以前購入したマーケティングの本を本棚から引っ張り出してページをめくった。





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