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【日記】Rapid Boutには○○がない

■イントロ

 引きのあるタイトルにした割には、ダラダラ書いてしまうかもしれない。最近、友達を自宅に招いて、ゲームマーケット2024年春の戦利品をひと通り遊んだ。それ以来、ずっとRapid Bautというゲームについて考えている。

 ストラク4色と拡張2デッキで合計6デッキ。「これがストラクで、これが拡張で…」というサークル主の説明を遮って「あ、全部ください」と言って全部買った。全部買っても1200円、当然買いです。遊ぶのが楽しみ。

【日記】ゲムマ24春に行った話とか/みらいやまさると最強の生活🖇

 軽い気持ちで買ったゲーム、軽い気持ちで遊んだゲームだったのに、ずっと頭から離れない。そんな衝撃が自分にはあって、少しずつではあるけれど、感じたことが漸く言葉にできそうなので、とにかく書き始めてみる。


■リンク集

▼Rapid Bout 公式(Twitterアカウント)
https://x.com/rapidbout

▼デザイナー 創鍵 氏(Twitterアカウント)
https://x.com/RapidBout_Dev

■Rapid Bout 開発者アカウント(note)

■「Rapid Boutからの大切なお知らせ」(note)


■Rapid Boutには○○がない

 Rapid Boutは、二人用の対戦カードゲームだ。これは後から知った話だが、制作コンセプトは「TCGの最小構成要件」らしい。それを知って首がもげそうになるほど頷けた。このゲームのルールはシンプル極まりない。

RPBは僕が考える「TCGの最小構成要件」からスタートしました。 「カードを1枚引いて2枚出す」というだけのシンプルなルールではありますが、様々なデッキで遊ぶことができます!

https://x.com/RapidBout_Dev/status/1730401811528560929

■マナがない

 Rapid Boutには、マナという概念がない。当然、土地もない。だから、土地事故もない。Rapid Boutは「手札にあるカードを2枚までプレイできる」というルールしかない。パワー0も、パワー4も、同じようにプレイできる。

 Rapid Boutの勝利条件はシンプルだ。パワーの書かれたカードを交互にプレイしていき、フィールドのパワーの合計が20点以上になった方が勝利、というルールだ。たとえば、パワー4のカードが5枚揃うだけで勝利できる。

 ただ、パワー4のカードはバニラ、つまり効果がない。もし互いにバニラを召喚するだけなら、先攻が必ず勝ってしまう。だから、そうならないようにパワー3のカードで妨害したり、パワー0のカードでドロー加速できる。

 でも、マナはない。だから「デッキに入れたカードがマナのせいでプレイできない」というストレスがない。このテンポの良さは、強いて言えば遊戯王やポケカに近いが、アドバンス召喚や進化もないので、もっと快適だ。

■戦闘がない

 最も衝撃を受けたポイント。TCGって戦闘がなくても成立するのか。考えたこともなかった。Rapid Boutには戦闘システムがない。このゲームにおけるパワーは勝利点に過ぎず、それで殴り合ったりすることは全くない。

 じゃあ、どうやって駆け引きするのか。除去効果を使うのだ。相手が20点になりそうだったら、除去効果を持つカードをプレイして、点数の高いカードをバウンスして点数を下げる。あれ、ちゃんとTCGになっているぞ?

 よくよく考えてみれば、インフレした遊戯王において、もはや戦闘は副次的な要素になっているよな。相手のカードを除去できるかどうかの方が大事だし、枚数が揃ってしまえば戦闘するまでもなく勝利は明白なのだから。

 雑に言うなら「相手の場にカードがなく自分の場に8000打点が揃った」という状況において、攻撃宣言をして戦闘ダメージを与えるのは形式的な行為に過ぎず、もう「8000打点が揃ったら勝ち」にしてしまってもいいのだ。

 そして、それをやったのがRapid Boutなのだ。勢い重視で細かい矛盾をすっ飛ばして話しているが、とにかく戦闘システムがなくてもTCGとして成立している。これが衝撃だった。戦闘システムって必須だと思っていた。

 自作カードゲームを考えるうえで、いつだって一二を争うボトルネックは戦闘システムだった。既存のカードゲームはどれも戦闘システムがよくできているので、パクリか劣化の二択を強いられるのが本当にしんどかった。

 全く同じにすると新鮮味がなく、極端に変えると直感的でなくなり、中途半端に真似するとプレイヤーが混乱する。最高の戦闘システムってなんなんだろう、そう考えていたのに、まさか戦闘しないのが正解だったなんて。

 もちろん、色んなシステムのゲームがあっていいとは思うけど、Rapid Boutの発想は自分にとって間違いなく一つの正解だったし、いかに既成概念に振り回されていたのかを恥じた。戦闘がなくても、ちゃんと面白かった。

■墓地がない

 Rapid Boutには墓地がない。最小構成要件は伊達じゃない。あまりにも自然だったので途中まで気付かなかった。このゲームでは基本的に、山札から手札に引く、手札から場に出す、という行動だけを繰り返していく。

 そして除去カードをプレイしたら、除去されたカードは手札へ戻るか、山札の一番下へ戻される。山札の一番下はたしかに墓地みたいなものだが、それだけでいいという発想はなかった。墓地がなくても普通に遊べるのだ。

 このルールによって、リアニメイトみたいなアーキタイプが作れなくなったり、デッキ切れによる勝敗が起きにくくなったり、副次的な効果は色々とあるけれど、それが目的な訳ではなくて単に省いたんじゃないかと思う。

 これについては、墓地を定義するより墓地を省いてしまった方がいい、という発想自体は面白い半面、同じルールでより長い期間、そしてたくさんのカードで遊べるようにするためには、省くのはやりすぎかも、とは思った。

 つまり、ルール(原則)には、カードの効果という例外を受け入れるためのキャパシティのようなものが存在し、あまりにも箱庭を狭くしすぎると、その箱庭に詰められる宇宙には限界が生じるのではないか、という意味で。

 とは言っても、このルールが「TCGの最小構成要件」というコンセプトである以上、墓地がないのは妥当だし、素直に関心した。デッキ枚数が少ないこのゲームにおいて、自然とデッキ切れを防いでいるのも面白い。

■呪文がない

 「呪文がない」と書くべきなのか、「呪文しかない」と書くべきなのか、どちらが正しいのかわからないけれど、Rapid Boutには「カードの種類」がない。「手札から場に出す」という1種類のカードだけでゲームをする。

 これは好きなデザインで、たとえばヴァンガード等のゲームはクリーチャーしかいない。「カードの種類」を覚えるのはユーザーにとっては割とストレスで、その説明をまるまる省けるのは、綺麗で優れたデザインだと思う。

■〇〇がない

 Rapid Boutというゲームがシンプルで、そのシンプルさに感銘した、という話は以上だ。ここからは蛇足な所感をダラダラ書くだけで、場合によっては失礼にあたるのかもしれない。でも、どうしても書きたいことが多い。

 冒頭のリンク集を読めばわかるように、このゲームには物足りないところも多い。たとえばイラストは個性的で味があるが、お世辞にも完成しているとは言えないし、ゲームの出来に対して知名度が足りていないのも事実だ。

 だけど、そんなことをつらつらと「〇〇がない」と書いても仕方がない、このプロジェクトは発展途上で、そして自分には(こんな記事を書くことしかできず)購入以外の支援をすることができない、野次馬に過ぎない。

 気になるところがあるけど、お手伝いはできない、名作だと思うけど、どこか足りていない、そんなアンビバレンスな感情が渦巻いていて、それでも、やっぱり言葉にすることを我慢できなかったので、続きを書きます。


■もしも自分だったら

 少なくとも、自分にとってRapid Boutは革命だった。だからこそ、このアイデアをどう調理するか、つまり「味付け」は、とても重要だと思っている。そして、もしも自分だったら、もっと違う「味付け」にすると思う。

■色も要らないのでは

 Rapid Boutには色がある。「あ、色はあるんだ」と思った。だけど、ルールがシンプルすぎて、いわゆる「カラーパイ」で幅を出すほどのデザインはできていない。いや、構造上できないと言ってもいい。シンプルすぎて。

 このゲームには土地やマナがなく、色によるデッキ構築のルールもない。色は、固有の効果が参照しているだけで、色による特徴、というよりは、単なるテーマデッキ、ないし、種族の代わりとして機能しているだけなのだ。

 だったら色も要らないのでは?と思ってしまう。もちろん、赤で赤以外のカードも出せるのはヤバいし、青が青以外のカードも出せるのはヤバい。それはわかってる。でも、そうじゃないゲームバランスにもできたと思う。

 どのデッキも、レガシー(※)のコンボデッキみたいな感じで、手札にパーツを集めて一発芸で勝つ、といったコンセプトに思えた。「その部分だけ」を楽しめるゲームを狙って作ったのなら、成功しているとは思う。

 ※マジック・ザ・ギャザリングのレギュレーション

 でも、それは「ルールの完成度」よりも「デッキの完成度」に寄せ過ぎていて、どちらかと言えば、「カードゲーム好き」がターゲットになっていると思う。誰にでも遊べるルールなのに、構築はマニア向けな気がする。

 せっかくルールがシンプルなんだから、初版はもっとスローテンポなゲームにしても良かったんじゃないかと思う。もっと言えば、色という大きいカテゴリを作るより、細かい種族に分けた方がインフレを防げると思う。

 つまり、ゲーム全体をスローテンポにするには、言ってしまえば「弱いカード」を作る必要があり、基本的には弱いカード同士を投げ合うんだけど、たまにコンボが発生して勝てる、というバランスにする必要がある。

 すると、コンボの発生する条件を緩くすればするほどインフレは早くなっていくので、特定のカードでしかコンボが発生しないように条件を厳しくした方がいい。=色だと条件が緩すぎるので、細かい種族が必要になる。

 だから、もしも自分なら色を撤廃して、たとえばドラゴンとか、ゴブリンみたいに種族を設けて、条件の厳しい弱いコンボで戦うゲームにすると思う。遊戯王が名称指定のカテゴリを順番に発表していくのと同じことだ。

 最も、そうなるとRapid Boutにあるような爽快感や、テンポの良さ、なによりも「TCGの最小構成要件」というコンセプトは失われてしまうと思う。だから塩梅や味付けの問題だと思うんだけど、はっきり答えが出ない。

 ただ、現在のRapid Boutには色があって、その色がアーキタイプとイコールになっているのは、ゲームが煮詰まって最終的に出てくるようなデッキが初版から出ているような感覚があり、所謂「底」を感じさせていると思う。

 端的に言えば、拡張性がなくて、新しいカード(そして、それは新しいアーキタイプ)を刷ろうとすると、もっと奇抜な効果、もっとマニアな効果になってしまうのではないか、と思ってしまう。ルールはシンプルなのに。

■世界観やイラスト

 TCGの楽しさには種類があるけれど、デッキ構築の楽しさは欠かせない要素だ。デッキ構築とは、換言すれば「混ぜて遊ぶ楽しさ」だと思うのだけれど、もっと「混ぜる」ことを前提としたイラストにして欲しかった。

 デザイナーが足りていないから、というのが原因かもしれない。たとえば、赤の基本デッキは「手が何かを握っている」というテーマ、緑は生き物を操っているような、青は海中の生物で、黒はファンタジーになっている。 

 同じ色のカードは強く結びつきがあるのに対して、全体の世界観は調和が取れていないので、これらのカードを「混ぜて遊ぶ」ことに、いまいちテンションがあがらない。普通に、まるっと中世ファンタジーの方が楽しい。

 Rapid Boutは、クリーチャーやスペル等の「カードの種類」がなく「手札から場に出す」という1種類のカードだけなのに、魔法カードっぽいデザインとモンスターカードっぽいデザインが混在しているのも正直気になる。

 ルールがシンプルなのに、カードのデザイン(これは世界観やイラストという意味のデザイン)に一癖あるので、損な気がしてしまう。このシンプルさを活かさない手はないので、自分なら全部クリーチャーにしてしまう。

 また、自分の好みは剣と魔法のファンタジーだが、コンセプトを最大化するなら、もっとポップでキャッチーな、雑に言えば子供向けのデザインにしてしまうのも正解だと思う。ルールがシンプルなことが活きてくるから。

 Rapid Boutの一番いいところは、カードゲームの本質を捉えていながら、誰にでも簡単に遊べるというルールのシンプルさにあると思う。それは老若男女がターゲットになるという意味なので、当たり判定は広い方がいい。

■タイトルとデザイン

 「Rapid Bout」という名称の由来はわからないけれど、タイトルとゲームの世界観がいまいち噛み合っていない気がする。Rapid Boutというゲーム名から、お腹が減っている騎士で戦うカードゲーム、とは想像し辛いと思う。

 また、カード枠等のデザインや、パワー(数字)の表記は角ばっていて、デジタルを彷彿とさせるが、実際には大蛇やクジラで戦うカードゲームであることを考えると、ミスマッチなのではないか、という印象を受けた。

 現在、Rapid Boutの裏面は黒一色で、これは印刷費等の都合だと思うが、正直ちょっとこれは格好よかった。無骨な感じがしてイイ。でも、どんなデザインがいいか自分なりに考えてみると、当然だけど黒一色とはいかない。

 Rapid Boutは、「裏面で召喚すると2点」「1ターンに2枚まで召喚できる」「20点が揃うと勝ち」というように、なにかと「2」という数字に縁がある。自分なら、タイトルを「2」にがっつり寄せて名付けると思う。

 極論を言えば、「ルールが説明されなくても、コンポーネントだけで遊び方がわかる」というのは、ゲームの理想形の一つであり、デザインの理想形の一つだと思う。そうすると、この「2」に言及するのは正解だと思う。

 つまり、ゲームのタイトルをがっつり「2」に寄せて、「これは2のゲームなんだよ」と印象付ければ、「1ターンに何枚まで召喚できるんだっけ」のアンサーになる。ロゴを2にして裏面に書けば、裏パワーも分かりやすい。

 カード枠のデザインは、直線よりも曲線や〇を使っていいと思う。ルールがシンプルでカードに書く情報が少ないので、面積を広く使える四角を採用する必要性が少ない気がする。デザイナーじゃないので詳しくないけど。

 それから、左上の数字が逆向きになっていて、右下の数字が順向きになっているのは違和感があった。右利きのプレイヤーが手札を持ったとき、見えやすいのは左上の数字なので、こちらが自分向きになっている方がいい。

 逆向きの数字は、相手から見えやすいように、という配慮だと思うけれど、その配慮自体はめちゃめちゃいいと思う。なので、もし載せるなら右下の数字にして、右下の枠は左上より重要度が低いので、小さくしたい。

 数字のフォントがデジタル調なのも微妙で、シンプルに「2」と「5」や、「6」と「9」が一目で見てわかりにくい(混乱する)。もっと曲線を使ったフォントに変えて、全体を整えるために枠も曲線や〇を使うといいと思う。

 テキストに関しては、ほぼ問題ないけれど、もし「ルールのシンプルさ」をウリにしてターゲット層を広げるなら、オラクルは一考した方がいいかもしれない。漢字を避けたり、もっと易しい表現にしても破綻しないはず。

■アウトロ

 この記事は6月17日頃に書き始めて、ついに書き終わるのに1ヶ月以上かかってしまった。そのくらい、Rapid Boutは自分にとって衝撃作で、だからこそ、考えれば考えるほど、勿体ないと思うポイントが湧いてしまった。

 あーだこーだと書いてしまったけれど、結局のところ、この記事は「ゲームはどこまでシンプルであるべきか、どこまで複雑であるべきか」という話に帰結するのではないかと思うし、それは制作者が決める塩梅でしかない。

 そういう意味で、「TCGの最小構成要件」というコンセプトには、Rapid Boutは限りなく近づいていて、とやかく言うのは間違えているかもしれない。自分にも、よくわからない。でも、うーん、やっぱりわからない。

 とにかく、この旬な気持ちを逃したら、もうRapid Boutについて記事は書かないかもしれないと思ったので、現状の思っていることを言葉にした、ということだけは言える。だからこれは雑文だろうし、駄文かもしれない。

 最後になりますが、Rapid Boutがたくさんの人の目に触れて、たくさんの人に遊ばれて、制作者様の理想とする形で世に放たれることを期待しています。面白いし安いゲームなので、気になる人は是非是非やってみてね。

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