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ゲームプレイヤーのパーソナリティについて〜バートルの4分類を超えて〜

サイコロ塾のnoteでは普段、サイコロ塾のレッスンの様子や、一部自分が作ったボードゲームに関してなど書いていますが、今回は本業の方で論文を読み、伝える(まとめる)価値があると思ったのでちょっと書いてみます。

読んだ論文はこちら

“I don’t fit into a single type”: A Trait Model and Scale of Game Playing Preferences”(Gustavo F. Tondello, Karina Arrambide, Giovanni Ribeiro, Andrew Jian-lan Cen, and Lennart E. Nacke, 2019)

多分すごーく長くなると思いますが、最後には「では、ボードゲームプレイヤーではどういうふうに考えるか?」というところに着地したいと思いますので、ぜひ根気強く読んでくださればと思います。手っ取り早く要点だけを知りたいという方は「終わりに」をご覧ください。


1、バートルのタイポロジー

オンラインゲームのプレイヤーを分類する、すごくよく知られた類型に「バートルのプレイヤータイプの4分類」があります。

元々は1996年にリチャード・バートルが以下の論文で提案したものです。

"HEARTS, CLUBS, DIAMONDS, SPADES: PLAYERS WHO SUIT MUDS"(https://mud.co.uk/richard/hcds.htm)

ここでは、プレイヤーを「アチーバー」「エクスプローラー」「キラー」「ソーシャライザー」の4種に分けています。この分類は、縦軸に相互作用の程度、横軸に他のプレイヤーとの対話やゲーム世界の探索の好みの程度を設定し、そのいずれに属するかによってプレイヤーのタイプを決定します。

それぞれの分類についての詳しい説明はここでは省くとして、1996年に発表されてからというもの、現在までもこのバートルの4分類は支配的であり、色々な文脈で使用されています。直感的でわかりやすいため、そのように扱われる理由もわかるところではあります。

実際、ボードゲーマーのみなさんにも大いに共感できる内容だったらしく以下の翔さん(@shousandesuyo)のツイートには実に6,600以上ものいいねがついています。(2021年6月現在)

しかし、題名にも書いている通り、そろそろバートルの4分類を超えて行きませんか?というのがこのnoteの主旨です。


バートルの4分類に対する批判

先のツイート画像の中でも触れられていますが、バートルの4分類ができてから20数年あまり経っており、その間にいくつかの批判がなされています。いくつかの論文を読んでそれらをまとめると、主な批判は以下の通りです。

(1)類型論の立場からパーソナリティを理解しようとしている

(2)マルチプレイヤーオンラインゲームのプレイヤー分類である

(3)心理学的な測定尺度作成の正式(科学的)な手続きが踏まれていない


(1)類型論の立場からパーソナリティを理解しようとしている

とかく日本人は他人あるいは自分自身をタイプ(類型)で理解していくことが好きなような気がします。それは血液型性格診断に見られるように(*血液型とパーソナリティに関連がある、という科学的根拠はありません。大学の同級生の論文に詳しいです)。しかし、実際は人をタイプ(類型)で把握しようとしていくことには、対人相互接触の初めのうちには役立つ面もありますが、それ以上の関係性を深めようとする場合、当てはまらないことも多くあります。

心理学では、パーソナリティを理解していく立場として、類型論という方法が行われていました。類型論とは、いくつかの特徴をもったパーソナリティの人々をAタイプ、また別の特徴を持つ人々をBタイプのように、類型化してその特徴を捉えようとするものです。言うまでもなく、バートルの4分類もこれにあたります。臨床的な立場から疾病や症候群を診断し、その病状を理解していく上ではこの類型論が役に立ちます。(〇〇病や〇〇症候群と安易にラベリングするのは危険ではありますが、少なくとも症状の理解、対処法において役立つことは確かです)しかし、現在のパーソナリティ研究では類型論はほとんど使用されていません。

それは、類型論ではそれぞれの個人が持つ微細な違いを無視して類型に入れ込んでしまうからです。バートルの4分類で言えば、「キラー」であっても「ソーシャライザー」的な行動を取ることも時にはありますし、「アチーバー」や「エクスプローラー」はしばしば重なっていることがあります。(バートルの原著でも「キラー○%、アチーバー△%」のような書き方をしていますが、そのどれかにハメ込みがちです)類型は、最初の印象としてそのプレイヤーを理解することには役立ちますが、分類と異なる行動や態度に関しての説明の合理性がうまく取れないことにもつながります。

そこで、類型論に対して使用されているのが特性論です。特性論とは、人のパーソナリティが「特性」と呼ばれる要素の集合体であるとみなし、その特性の組み合わせ方によってパーソナリティ全体を捉えようとするものです。それは例えば、「外向性」のような心理特性について、それを量的に把握しようという試みです。特性論でパーソナリティを理解していくことは、「ソーシャライザー」的な振る舞いを行う「キラー」を説明できたり、「アチーバー優位型エクスプローラー」や「エクスプローラー優位型アチーバー」を説明できることにつながります。

また、それだけではなく、「特性を量的に捉える」という特徴から個人間の特性の強さの比較を行うことが可能なため、そのほかの環境変数との相関を科学的に立証していくことにも役立ちます。(例えば、「△△性」という特性の強さと、セットコレクションは相性が良い、など)

もちろん、特性論にも短所はあります。それは類型論のようにその人のパーソナリティを直感的に把握するということが難しいということです。「A型です」と言えば、(真偽は確かではないにしろ)「この人は神経質だったり、几帳面だったりするのかもな」という直感的理解をするのには向いていません。あくまでその人をいくつかの特性の総体として説明しなければならないので、○○さんは「外向性」がこれくらいで、「開放性」がこれくらいで・・・と説明が冗長にならざるを得ず、「あ〜、もうめんどくさい、一言で言って!」と言われてしまうことはあるかもしれません。

とはいえ、ゲームプレイヤーのパーソナリティを「特性論」で理解していくことにはその短所を補ってあまりある良い点があると言えます(後述します)。


(2)マルチプレイヤーオンラインゲームのプレイヤー分類である

バートルが元々の論文で分類しようとしたのは、主にマルチプレイヤー型オンラインゲームにおけるプレイヤーでした。したがって、ゲーミフィケーションや、マルチプレイ以外のシングルプレイにしか対応していないゲーム、そのほかのデジタルではないゲームには本来的に適用範囲があるわけではないのですが、今となってはその簡便さゆえに広がってしまい、企業における適正業務の判断にまで使われてしまっています。

今となってはオンラインゲームの裾野はバートルが理論を展開した当時より確実に広い(多くのゲームがオンラインで他のプレイヤーとつながることを前提としている)ため、バートルの4分類が当時よりは現実に適合するようになってきたとはいえ、より広い文脈=ゲームプレイヤーの総体を捉えるプレイヤー分類、プレイヤーパーソナリティを捉える方法が必要になっているのではないでしょうか。


(3)心理学的な測定尺度作成の正式(科学的)な手続きが踏まれていない

3つの批判の中で最も強力なのがこの3番目のものと考えます。個人的に一番問題点を感じている部分でもあります。

もともとバートルが論文で4類型を提案した時は実践ベースであって、科学的な調査に基づいて提案される理論モデルではありませんでした。

バートルの”HEARTS, CLUBS, DIAMONDS, SPADES: PLAYERS WHO SUIT MUDS”では、彼がどのようにして4類型にたどり着いたかが記されています。「アチーバー」「エクスプローラー」「キラー」「ソーシャライザー」という分類は、何年にもわたるMUD(マルチ・ユーザー・ダンジョン)ゲームのプレイヤーとの議論をまとめた結果、4つの主なプレイの動機を見出し、それに名前をつけたものでした。4つの類型のいずれに属しているかどうかの判断材料として、それぞれの類型に属するプレイヤーがしがちな発言などは一部例示されているものの、それらを分け隔てるためのテストはこの時点では開発されていません。

では、これがどのようにして広まっていったかというと、それは取りも直さずテストが開発されたことによります。これは、1999年から2000年にかけてErwin Andreasen氏とBrandon Downey氏によって作成されたThe Bartle test of Gamer Psychologyというもので、1つの質問に対し2つの回答のいずれかを選んでいくことで、4分類のそれぞれについてどれくらいの重きを置いたプレイヤーであるかどうかがわかる、というものです。1つの質問に対して、「キラー」的な回答と「アチーバー」的な回答の2つの回答を並べ、そのいずれかを選んでいきます。30問に回答することで、全体を200%とした時に「キラー」が○%、「アチーバー」が○%・・・という形で表現されます。現在でも以下のサイトでやってみることができるので興味がある方は実施してみても良いかもしれません。(*注:英語サイトです)

簡便なWebテストが開発されたことでその結果を利用した研究・ゲームデザインへの実装がそれはそれはたくさん実施され、バートルの4分類は一気に権威を持つことになります。しかし、そもそもこのテスト自体に問題があります。1つには、1つの文章に対して2項対立的な文章から1つを選ばせるという形式であるため、テストを実施する人が質問を理解していなかったり、提示された2つの選択肢のうち1つを選択することが制限になってしまい、結果に矛盾を生じさせる可能性があります。

このあたりは、Bartle testを改善しようとしている試みである"Redesigning the Bartle Test of Gamer psychology for its application in
gamification processes of learning
."
(Julio César GONZÁLEZ MARIÑO, Ma. De Lourdes CANTÚ GALLEGOS, Hugo Eduardo CAMACHO CRUZ y José Alejandro ROSALES CAMACHO, 2018)に詳しく述べられています。この論文では、Bartle testをリッカート尺度(選択肢の両端だけではなく、中間領域を捉えられる)を用いた質問に変更することなどを試みてはいますが、未だその尺度の信頼性や妥当性といった心理測定における尺度構成の正式な手続きを踏んで、テストが作られているとは言いがたいです。(著者らのテストはwebで実施可能ですが、スペイン語?のみ)

少し話を戻して、そもそもバートルの4分類がプレイヤーのタイプを全て網羅しているかどうか、に関しても疑問が残るところです。特に昨今では、「ガチャを引くためにプレイする」ようなプレイヤーやカジュアルゲーマーと呼ばれるゲームプレイヤーも出てきていて、より包括的なプレイヤーのパーソナリティに対するアイデアが必要なのではないでしょうか。


2、そのほかの類型論に基づくプレイヤーのパーソナリティの理解(ちょっと寄り道)

ここまでバートルの4分類を中心に書いてきましたが、では、バートルの4分類以外にゲームプレイヤーのパーソナリティを捉えようとした研究が他になかったかといえば、当然そのようなことはなく他にもいくつか研究がなされています。ただ、バートルのものほどメジャーにはなりきれていない(少なくとも日本語のページで解説がたくさんあるようにはなっていない)のかなというのが正直なところです。

ここでは、そのようなゲームプレイヤーのパーソナリティの理論の中から、BrainHexとYeeらのgamer motivation profileの紹介をします。

BrainHex

BrainHexは、バートルの4分類の対象をより広範なゲームの種類(マルチプレイヤーオンラインゲームに限らない)に広げ、より体系的なアプローチとして、人口統計学的なゲームデザイン研究(こういう属性の人は、こういうゲームメカニクスを好む、的な)と神経生理学的な研究(エンドルフィンとかアドレナリンとかの分泌とその条件の関連)に基づいてプレイヤーの類型化を試みたものです。

詳しい成り立ちについては、"BrainHex: A neurobiological gamer typology survey"(Lennart E. Nacke, Chris Bateman, Regan L. Mandryk, 2014)にて述べられています。

BrainHexでは、プレイヤーを「Seeker」「Survivor」「daredevil」「Mastermind」「Conqueror」「Socialiser」「Achiever」の7つのプレイスタイルから分類し理解しようとするものです。50000人以上ものデータを集め、Myers-Briggs Type Indicator(MBTI)との関係を明らかにしています。ここでマイヤーズ・ブリッグスタイプ指標とは心理学において類型論の代表格となるようなパーソナリティ検査です。読んでくださっている人の中には、職業適性検査のようなものを実施したときに、似たようなものをやってみられた方がいらっしゃるかもしれませんね。いまだに、そういった文脈ではよく使われているものではありますが、やはり類型論に根ざしているということや信頼性・妥当性に問題があって科学的な心理測定の分野では使用されなくなっています。

BrainHexに関して言えば、マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標との関連とは話を別にしたところで、その妥当性や一貫性に関して問題があることが指摘されています。とはいえ、先の論文の中で著者たちが述べているように、BrainHexのプレイヤータイプ(類型論としての正しさ)が検証されることを期待しているというよりは、特性論的な文脈の中でその要素となるように開いており、実際にTondelloら(2018)(冒頭の論文の筆頭著者)は、BrainHexのデータセットを用いて特性の特定を試みています。

結果として、7つのプレイスタイルのうち3つのプレイスタイルに関してはその後の特性論における検討で要素として使用されています。


Gamer motivation profile

YeeらのGamer motivation profileは現在進行形でプレイヤーのデータを集め、プレイヤーのゲームをする動機付けを12の下位カテゴリー、6つのクラスタに分類して理解しようというものです。

6つのクラスタ、12の下位カテゴリーは、Action(破壊と興奮)、Social(競争とコミュニティ)、Mastery(挑戦と戦略)、Achievement(競争と権力)、Immersion(ファンタジーとストーリー)、Creativity(デザインと発見)で、それぞれとBigFiveなどの主要なパーソナリティ特性との相関関係が明らかにされています。

このプロジェクトは、元々Yeeらが2012年に発表したオンラインゲームのプレイヤーの動機付けを理解しようとする研究から端を発しています。プレイヤーの動機付けの程度から、プレイヤーを理解しようとする試みは、とても合理的かつ妥当性も高いのですが、最近の原著論文が見当たらず、どのような質問群(質問に関してはQuantic Foundryのページで実際に実施すればわかる)に対して因子分析がなされ、尺度化のプロセスが実施されているかが不明です。(オンラインゲームからスタンドアローンのゲームに対象を広げるプロセスなども不明?調査不足かもしれません)

Yee自らが説明している動画(2019年のGDCでの講演)がありますので、よかったらご覧ください。

個人的にはこちらの尺度化のプロセスが開示されれば、かなりゲームプレイヤーのパーソナリティ理解に関する研究が進むと思うのですが、そうはなっておらず残念です。


3、特性論によるゲームプレイヤーのパーソナリティの理解

やっと本題のところまでやってきました。これまで書いなかったのですが、そもそもどうしてゲームプレイヤーのパーソナリティを理解する必要があるのか、についてこの節の最初に書いておこうと思います。

それはゲームプレイヤーとゲームのミスマッチを減らすためであると個人的には思います。自分のような研究者は、ゲームをプレイする人がよりよくゲームでの学びを進めるためにゲームを選んでいますし、ゲームを作る人はプレイヤーにより楽しんでもらうために、想定するプレイヤーに合わせてゲームデザインを常に改善しています(ボードゲームに関しては自分もデザイナー側なので対象とするプレイヤーのことを頭に置いています)。ゲームを適切に選んだり、使ったり、作ったりするのにはプレイヤーのことを知らなければいけません。プレイヤーがどういう動機付けで、何を求めて、どんなプレイスタイルでゲームをプレイするのかということを知ることができれば、よりそのプレイヤーにフィットした選択をすることができるかもしれません。

そして、あくまで暫定的ではありますが、今のところのベターなレンズが冒頭の論文で紹介されているFive-Factor Player Traits Modelなのです。

冒頭の論文ってなんだっけ、という方のために再度ここで引用を。論文はこちらからPDFを入手できます。以下は、この論文の内容紹介を主に行っていきます。

“I don’t fit into a single type”: A Trait Model and Scale of Game Playing Preferences”(Gustavo F. Tondello, Karina Arrambide, Giovanni Ribeiro, Andrew Jian-lan Cen, and Lennart E. Nacke, 2019)

さて、バートルの4分類の批判的検討において、類型論ではなく特性論によるパーソナリティの理解が必要であることを言ってきました。Five-Factor Player Traits Modelはその名の通り、特性(Traits)論に基づくゲームプレイヤーのパーソナリティ理解の方法です。

先にBrainHexにおいて、提案された7つのプレイスタイルのうち、(1)行動志向、(2)美的志向、(3)目標志向の3つに加えて、2つの特性、すなわち「社会的志向」と「没入感志向」を考慮に入れ、これらをプレイヤーを表す特性として尺度を作成しました。

本論文では、Five-Factor Player Traits Modelを、ゲームデザインの構成要素と対応させることを通して実用に耐えるものであることを検証しています。

論文では、想定した5つの特性を捉えることが可能な項目を収集し、各特性ごとに10項目の文言からなる調査票を作成し、一般被験者を対象に質問紙調査が行われています。調査対象から得られたデータセットのうち約半数を用いて、確認的因子分析による統計解析を行った結果、特性の構造の妥当性(5因子構造が妥当であること)を確認しました。その後、残りのデータセットを用いて、1つの因子につき5項目、合計25項目の調査項目で構成される尺度の適合度(構造方程式モデルによる測定モデルの適合度の検定)と、テスト・再テスト法による信頼性の評価が行われています。この結果は良好な適合度を示し、テスト・再テスト法による信頼性も高かったことが報告されています。

ただし、5つの特性に含まれる項目の内容を考慮して、初めに想定していた5つの特性のうち2つの名称に修正が加えられました。「没入感志向」は、項目に含まれているのが全て「物語」や「ストーリー」に関する記述であったため「narrative(物語)志向」に、「行動志向」は、全て「挑戦」や「困難」に関連する項目からなっていたため「挑戦志向」という名称が新たに付けられました。

晴れて、5つの特性すなわち「美的志向」「物語志向」「目標志向」「挑戦志向」「社会的志向」にゲームプレイヤーの特性がまとめられ、これらの特性と主要なパーソナリティ特性理論であるBig-Fiveの各特性との相関が検討されています。詳細は省きますが、いくつかの特性間の微弱ながら相関が見られています。あくまで相関関係であるため、例えば「経験への開放性が高い人は物語志向が高い」ということは言えても、因果関係は言えないということには注意が必要です。それでも、「一般的なパーソナリティ特性とゲームプレイヤーの特性が同じものであるとは考えられない」と著者らは結論づけています。おそらく、パーソナリティ特性はプレイスタイルに影響を与えていますが、それだけがプレイヤーの特性に影響を与えているとは言い難いのではないでしょうか。

また、実際のゲーム行動(ゲームをプレイする際の好み)との相関も検討されています。それによれば、美的志向と物語志向が「ロールプレイングゲーム」や「シミュレーションゲーム」と正の相関があることや、逆に物語志向が「スポーツ」や「カード」との間に負の相関があること、目標志向が「パズル」と正の相関があること、などが示されています(他にもいくつかのプレイヤーの特性とゲームをプレイする際の好みに相関が見られています)。こちらに関しても特性を絞り込んで仮説を立て、特定のゲームジャンルやメカニクスとの関連を意図した研究が行われれば、ゲームデザインへの貢献が大きいのではないでしょうか。

本節の最後に各特性の簡単な説明とそれぞれの特性の高低による特徴を書いていこうと思います。「」で囲んでいるのはBig-Fiveのパーソナリティ特性です。

美的志向(Aesthetic orientation):この特性の高いプレイヤーは世界を探索したり、景色を楽しんだり、グラフィック、サウンド、アートなどの質を評価するなど、ゲームで美的体験を楽しみます。逆にこの特性が低いプレイヤーはゲームのアート的側面よりもゲーム性を重視している可能性があります。「経験の開放性」と正の相関が見られ、ロールプレイングゲームやシミュレーションゲームが好きで、1人で遊ぶのが好きな人が多いです。

物語志向(Narrative orientation):この特性の高いプレイヤーは、複雑な物語やゲーム内のストーリーを好むのに対し、低いプレイヤーは物語が少ないゲームを好み、ゲームの邪魔になると感じた場合には、物語を飛ばすこともあります。「経験の開放性」と正の相関、「外向性」と負の相関を持ち、ロールプレイングゲームやシミュレーションゲームが好きで、1人で遊ぶのが好きな人が多いです。

目標志向(Gaol orientation):この特性が高いプレイヤーは、ゲームの目標を達成することを楽しみにしており、ゲームを100%クリアしたり、ゲーム内の全ての付属要素を探索したり、全てのコレクションを完成したりすることを好みます。逆に低いプレイヤーは、そうした付属要素や達成条件をやり残してしまうことがあります。「勤勉性」や「神経不安定性」と正の相関があります。

社会的志向(Social orientation):この特性が高いプレイヤーは、一般に他の人と一緒にプレイすることを好みます。多人数のゲームや対戦型のゲームコミュニティを好むのに対し、スコアが低いプレイヤーは1人でプレイすることを好みます。「外向性」「協調性」と正の相関、「神経不安定性」と負の相関にある傾向があります。

挑戦志向(Challenge orientation):この特性が高いプレイヤーは、難しいゲームや困難な挑戦を好みます。逆に低いプレイヤーは簡単なゲームやカジュアルなゲームを好みます。「神経不安定性」と負の相関があります。一般にこの特性が高いプレイヤーはカジュアルゲームを除く全てのゲームを楽しむ傾向があります。

Five-Factor Player Traits Modelは、BrainHexに触発されて行われたため、社会的志向はSocialiserと、美的志向はSeekerと、挑戦志向はConquerorとdaredevilと、目標志向はMastermindとAchieverとSurvivorと対応していますが、物語志向は新しい特性として設定されています。一方、バートルの4分類について見てみると、社会志向が「ソーシャライザー」と、目標志向が「アチーバー」と、美的志向が「エクスプローラー」と対応していますが、「キラー」に対応するプレイヤー特性は見出されていません。この点について、本論文の著者らは、バートルの分類が実証的検討を行っておらず理論仮説であることを指摘しています。僕自身は、「キラー」はオンラインゲームの楽しみ方の1つとして見出されたものの1つであるので、少ないながらも確かに存在するものとして理解をした上で、その根底には社会的志向や挑戦志向とつながるものがあるのかもしれないとは思います。


4、ボードゲームプレイヤーの文脈で使えるか?

前章に書いたようにプレイヤーを理解する最大の目的は「ゲームプレイヤーとゲームのミスマッチを減らす」ことにあると思っています。

この点から、Five-Factor Player Traits Modelがボードゲームのプレイヤー理解に役立つかということを最後に書いていこうと思います。回答から言ってしまうと一部質問項目の解釈を拡大して理解する必要はあるものの、「使える!」のではないかという見解です。どんなふうに使えるか、具体的な場面をいくつか想定しながら説明をしていきます。

1つ目は、「ボードゲームを探す」場面です。ボードゲームには実にたくさんのゲームがあります。あまりにもたくさんあるので、どうやって自分にあったボードゲームを探せば良いか途方に暮れてしまう時があります。また、頑張って情報を集めて、「面白そう!」と思ったものをプレイしたとき、どうにも自分には合わなかった(Not For me!)こともあり得ます。

こんな時、自分のプレイヤーとしてのパーソナリティを理解していて、なおかつゲームの方に、どんなプレイヤーに対しておすすめであるかということが共通言語としてあれば良いと思いませんか?それがFive-Factor Player Traits Modelになると良いのではないかなと思います。

これまで、ボードゲームを探す・選ぶ際には、いわゆるフレーバー(の種類)やメカニクスといったものを参考にしていることが多いと思います。そこに、メカニクスをゲームプレイヤーのパーソナリティ特性と結びつけることで、個々人のプレイヤーの特性によりマッチしたゲームに出会える可能性を増やせるようになればいいです。

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とはいえ、これを実現するには問題は多くあります。まず、社会的志向について。1人用のボードゲームが増えてきたとはいえ、多くは多人数でプレイすることを前提にしたボードゲームが多いです。また、ボードゲームをプレイしようというプレイヤーの多くが社会的志向がそもそも高い可能性が大いにあります。社会的志向を測定する項目は「1人でプレイすることを好むか」「誰かとプレイすることを好むか」に焦点が当たっていて、「競争」か「協力」かといったプレイにおける相互交流の質は問題にしていません。したがって、この社会的志向という特性そのものがボードゲームに関しては有効性が低い可能性があります。バートルの「キラー」「ソーシャライザー」という別をあえて復活させて、「競争志向」や「協力志向」のような新たな特性を想定しても良いかもしれません。

次に、物語志向について。原文は「物語」に当たる英単語としてstoryではなく、narrativeという単語を用いています。narrativeという概念は、こちらの4Gamerの記事にあるように単純に「受動的に物語を体験する」以上の意味を包含した概念であると思います。(主体的行為者として、物語をつむぐ一員になっていく、みたいな概念かなと個人的には思います)

ところが、Five-Factor Player Traits Modelにおいてnarrative orientationを測定する項目の質問文はもっぱら「受動的に物語を体験する」ことに関して言及したものが多いです。narrative本来の意味を出すのであれば、もう少し質問項目の内容を工夫する必要があると思われます。さらに言えば、ボードゲームのプレイ体験には、narrativeの様相が多かれ少なかれ入っています(史実を元に作られているウォーゲームであっても、それは「わたしの物語」たりえます)。ノンテーマのアブストラクトゲームであっても、対戦相手との間で紡がれる「わたしの物語」ができるものであると考えれば、ここで代わりに測定すべきはそうしたnarrativeを排した「フレーバー志向」のようなものが妥当なのかもしれません。

以上、ボードゲームを探す場面において、Five-Factor Player Traits Modelを使える可能性を書いてきました。次は、「ボードゲームを作る」ことについて考えてみます。

「ゲームメカニクス大全」は、ボードゲームのメカニクスについて、できるだけ小さい単位で紹介された本です。ボードゲームのメカニクスがいくつかの切り口でまとめられていて、ボードゲーム名から、ゲームに使われているメカニクスを逆引きしたり、何かと便利で重宝しています。

これはメカニクス、それによって引き起こされる可能性があるダイナミクスを知ることはできるのですが、最終的にプレイヤーにどのような体験・感情が引き起こされるかといったことが書かれていません。(MDAフレームワークにおけるA:Aesthetics)プレイヤー体験からの視点として、プレイヤーのパーソナリティを把握した上で、Aestheticsをメカニクスやダイナミクス、ひいてはゲームのテーマなどと結びつけることができれば、より充実化したゲームデザインの教科書になり得るのではないかと思っています。そのためにはBGG(boardgamegeek.com)のような大規模なデータベースと、大規模なユーザー調査などが必要にはなりますが、自分も含めてボードゲームのデザインをしている人にとって大きな助けになるのではないかと思います。

もっと簡単な使い方としては、自分が作っているゲームのメインターゲットを考えるときに使えそうです。さっきの「ボードゲームを探す」という使い方と逆の使い方ですね。Five-Factor Player Traits Modelを使って、メインターゲットのペルソナを描いてみることで、自分が作りたいものがどういう特性の高低を持つプレイヤーに刺さるかを考えてみることができます。

最後に、「ボードゲームを使う」場面でFive-Factor Player Traits Modelを使うことを考えてみます。僕は普段、サイコロ塾というボードゲームを学びに使うことをしています。その目的は、知識やスキル、態度や行動の変容にあります(最近はもっぱら創造性の育成やルールに対する態度の育成に興味があります)。プレイヤー特性がある一定の期間、同一水準が保持されるものであるとするならば、子どもたちの志向を理解した上で、働きかけることには、ある程度の有効性があるかもしれません。

ちょっと具体的ではないのですが、例えば「挑戦志向」や「目標志向」の高低がバラバラな子どもたちを目の前にして、1つのボードゲームを使って全ての子どもにマッチさせることは難しいかもしれません。ですが、そのプレイ中に各自のプレイヤー特性に応じてファシリテーションやティーチング・コーチングの仕方を変えることで、先にあげた目標の達成に近づくことができるのではないかと思います。例えば、「目標志向」が高い子どもについては、ゲームプレイ中の目標設定を一段階高いものにしてあげたり、「挑戦志向」が低い子どもにはその子が持つスキルで達成できる課題を提示してあげたりということが考えられます。

自分で書いてみて、今はまだプレイヤーの特性を吹き飛ばして、「ボードゲーム」と「学習目標」という2項の結びつきだけからレッスンを組み立てていたことに気がつきました。Five-Factor Player Traits Modelなどを学習者=プレイヤーの理解の1つの視点として使うことで、より効果的な「ボードゲームを使う」ことができそうな気がしています。


終わりに

このnoteの締めとして、この部分だけを読む人のために要点を書きます。

バートルの4分類は、その簡便さから多くの用途・場面で使われてきたが、種々の問題点があるため、それに代わるプレイヤー理解の方法が必要
Five-Factor Player Traits Modelは特性論に根ざした新しいプレイヤー理解の方法で、プレイヤーを「挑戦志向」「美的志向」「物語志向」「社会的志向」「目標志向」の高低で理解する
Five-Factor Player Traits Modelは、「ボードゲームを選ぶ」「ボードゲームを作る」「ボードゲームを使う」ことに活かせる可能性がある

ゲームのプレイヤーを理解することには、ゲームデザイン、マーケティングなどさまざまな方面から利益があることです。もちろん自分のような研究者・実践者にとっても。その理解の仕方として、長らく使われてきた類型であるバートルの4分類に疑問を投げかけ、新しいプレイヤー理解の方法が提案されています。

ちなみにFive-Factor Player Traits Modelは各言語に翻訳して使用されていますが、今のところ日本語訳は存在していません。まずは日本語訳をして、さまざまな場面で使ってみて、さまざまな変数との関係性を探っていければと思います。

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