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千里の道を行かなくてもAmazonが届けてくれる

「千里の道も一歩から」ということわざがある。

意味を調べると「どんなに大きな事業でも、まず手近なところから着実に努力を重ねていけば成功するという教え」などと書いてあるが、こんなもの、DJ老子が聞いたら激怒モノであると思う。例えるならば、原曲が聞きたくてYoutubeに公式がアップしてるかなーと思って検索したら、どこの誰だか知らんやつのカラオケ動画が出てきた時の私と同じぐらい激怒するだろう。たまにすごい可愛い声の女の子が歌ってる動画が見つかって、他のも聞いちゃうのはここだけの話だ。

このことわざは、お馴染みのMC荘子&DJ老子のユニットのDJ老子の方のソロ楽曲であるわけだが、原曲の方を見ると、全然「小さなことからコツコツと」みたいなことは言っていない。むしろ逆で「千里も歩かなくていいように、問題には早め早めに対処して、成すべきことを見失わず、余計なことはすんなよメーン!」みたいな楽曲なのだ。楽曲ではないけど。

原文はこうだ。

その安きは持し易く、その未だ兆さざるは謀り易し。その脆きは泮かし易く、その微なるは散らし易し。これを未だ有らざるに為し、これを未だ乱れざるに治む。合抱の木も毫末より生じ、九層の台も累土より起こり、千里の行も足下より始まる。

多分意味はこんな感じ。

安定ってのは維持しやすい。トラブル起きなきゃ対処しやすい。柔らかいものは溶かしやすいし、小さいものは散らしやすい。だから、トラブルが起こる前に対処し、混乱する前に収めてしまえ。
大木も、最初は小さな芽だ。高層ビルも、基礎工事から築かれる。千里の遠い道のりも、最初はただの第一歩だ。

そう、この文脈で言うと、全然「コツコツと努力することが大事」なんて言ってないのである!もちろん「そういう意識を忘れるなよ」という意味は含んではいるが、真意はそこには無かったのだ。

どうやら、DJ老子のことを、私は誤解していたらしい。だぼだぼの服を着てなんか変なハンドサインしてるし、髭生やして厳つい顔したパリピだと思って嫌ってたけど、実はアニメとかめっちゃ見るタイプのオタクだったのかもしれない。

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正直、今回の文章を書くために改めて原文から調べて、驚きだった。本当なら「千里ってなんだよ!ざっくりしてんな!」「その千里先に何があるんだよ?コストコか?」みたいな屁理屈を捏ねくりまわそうと思っていたのに、なんか逆に老子にしてやられた感じすらある。

で、この後に続く内容の原文はこちら。

欲せざるを欲して、得難きの貨を貴ばず。学ばざるを学びて、衆人の過ぎたる所を復す。以って万物の自然を輔けて、而して敢えて為さず。

DJ老子風に言えば、

欲に負けるな。金品に目を奪われんな。余計な知恵はつけるな。そういうもんから焦りや油断が生まれんだ。ありのままの姿見せるのよ、余計な事はするんじゃねえ。朋友、俺からは以上だ。

正直、HipHopなんてほとんど聞いたこと無いから、馬鹿にしてるのかと怒られそうだけど、多分こういうことを言っているはずだ。

「余計なことはしない」というのは老子の考えの根幹でもある「無為自然」からくることなのかもしれないな、と感じた次第。

時代と共に本来の意味から履き違えられている言葉というのは、とても沢山あるし、良く聞くことではあるが、まさかこの言葉もそうだったとは思わなかった。

今後、誰かから「千里の道も一歩から、コツコツ行こう」みたいなことを言われたら、ドヤ顔で「いやいや、確かにそういう言葉はありますけど、千里の道を歩かないようにするってのが本来の意味ですから!今の時代、千里歩くとかマジ非効率では?徒歩で?千里って4000kmですよ。その先に何があるんですか?コストコですか?ってか歩くぐらいなら、Amazonで買って届けてもらえば良くないですか?往復だと二千里になっちゃうし!」と言ってやればいいのだ。

多分、ぶん殴られると思うから、私は絶対にそんな「余計なこと」はしないけれど。

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