『笑死小事典』という本
十数年前の大学時代、青森県弘前市に住んでいた私は、古本屋でとある本を購入した。その本の名前は『笑死小事典』という本だった。定価1400円の本が、200円で売られていた。
多分、全然売れてないと思う。立風書房という、今はもう無い出版社の本らしい。表紙もなんか骸骨が棺桶に腰かけてタバコを吸っているという風刺画のようなものだ。
中身はどんな本かというと、
・墓碑銘、作者不明の墓碑銘
・老年と死についての不滅の警句
・歴史的・ユーモア的逸話抄、へまな話
・死刑囚の最後の言葉
・その他いろいろ
といった、「死」に関する言葉がただひたすらに集められた本だ。しかし、これがまあ、なんとなく面白い。伊達に「笑死(わらいじに)」と題名につけるだけはある。
例えば墓碑銘。なんというか、アメリカンジョーク的というか、墓碑銘ってこんなに自由なものなんだ、という面白さが詰まっている。
墓碑銘というのは「墓碑に彫刻された死者の経歴・業績についての短い文章」のことだ。もちろん、死んだ人自身ではなく、死んだ人を見送った誰かが作ってそれを刻む。だからこそ、というのか、非常にやりたい放題感が溢れている。
ここに我が妻が眠る!ああ!いかに安らかに彼女のくつろぐことよ!われもまた安らかにくつろがん!(ジャック・デュ・ロラン作)
これだけで、だいぶ恐妻家だったんだろうな~とかそんなことが思い浮かんでくる。あと、例えそうだとしても書くなよ、と思っちゃう。
道ゆく人よ、俺の死を悲しむな、もし俺が生きていれば、君は殺されているだろう(マクシミリアン・ド・ロベスピエールのための作者不明の墓碑銘)
フランスで恐怖政治を行い、多くの人びとをギロチン台に送り込んだロベスピエールの墓碑銘としては、皮肉もあるがぴったりな墓碑銘だと感じる。
こんなのが、ずーっと書いてある。ただそれだけ。マジで、誰が買うんだってくらい、ターゲット層がわからない書籍だ。
ただそんな中にもちょっとゾっとしたり、なるほど、と思わせられるものもある。
ここに一人の乞食が眠っている。立ち止まってはいけない。いまでもまだ諸君に、手を差し出すことができるのだから(ある乞食の墓碑銘)
こんなん、いきなり夜のお墓で見たらゾっとする。
差出人に無料返送(ある郵便局員の墓碑銘)
宗教が根付いた国のジョーク的な墓碑銘だなーと感じる。短い一言でスパっと届けてくれる感じ。
道ゆく人よ、近いうちに!(1877年に禁止になった墓碑銘)
これは禁止になるだろう。怖い。
「To be or not to be」そんなことはもはや問題ではない(ある哲学教授の墓碑銘)
おっしゃるとおり、もう死んでんだもん。成すも成さぬも無い。哲学者が哲学から解放されている、というのがなんか良い。
墓碑銘という文化が日本には無いからなのかもしれないが、どれも非常に洒脱で含蓄があるように感じてしまう。ただのジョークなのかもしれないけれど、そういうものが溢れている本で、200円以上の価値はあったと思う。
なんとなく生きていると、あんまり普段は「死」について考えることが無い。そんなに「死」についてばかり考えていると病んでしまうし、我々も正直「死」のことなんか考えるほど暇ではない。日本であれば、例えば誰かの「葬式」に出席する時に少し考えたりするぐらいだろう。
そう考えると「葬式」というのは、亡くなった人が生きている人にできる最後のお節介というかそういう場なのかな、と。お前らは生きているんだからちゃんと「死」について考えろよ、と。そういう儀式なのかなとも思う。
特にオチは無いです。
個人的には凄く面白い本だなーと思ってるのですが、さっきAmazonで検索したら、なんと【93円】で売ってました!送料の方が高いです!
私が買ったときの半分の値段で楽しめるので、暇な方、是非読んでみてください!
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