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物語のタネ その六 『BEST天国 #37』

様々な地獄があるように、実は天国にも様々な種類がある。
現世での行いや悪行により問答無用に地獄行きかが決められてしまうのに対して、天国は自分で選べるのだ。
ここにまた、ある1人の男が死んでやって来た。
名前は、宅見卓朗。享年37歳。
前回は「日向ぼっこ天国」を訪れた宅見氏。
さて、今回はどんな天国に?

あらすじ

ミヒャエルのオフィス―――
珍しくヘッドフォンをしているミヒャエル。
そこからかすかに漏れてくる音を聴いて宅見氏。

「ん?ミヒャエルさん、BTS聴いてる?」

ノリノリで大音量で聴いているミヒャエルには、どうやら宅見氏の声が聞こえていないよう。
ポンポンとミヒャエルの肩を叩く宅見氏。

ミヒャエルはヘッドフォンを耳から外して、
「どうしました?宅見さん」
「お楽しみ中にすみません。ミヒャエルさん、BTS好きなんですか?」
「はい、実はK-POPが大好きなんですよ。チョー・ヨンピルからBTSまで」「チョー・ヨンピルってK-POPのカテゴリーに入るんでしたっけ?」
「何言ってるんですか?入るというか元祖ですよ。初めて紅白歌合戦に出場した韓国ミュージシャンなんですから」
「まあ、そう言われれば・・・。でも、韓国のエンタメは凄いですよね。私、音楽はさっぱりですが、実は韓国ドラマは好きなんです」
「そうなんですか⁈あ、だとするとあそこいいかも」
「どこですか?」
「ま、いいかいいから、行ってみましょう!」

いつもの如く真っ白な空間―――
何かニヤニヤしているミヒャエル。

「宅見さん、ここのマネージャーさんに会ったらびっくりするかも」

そんなミヒャエルの姿を見てハテナな表情の宅見氏。
すると、優しい笑みをたたえながらメガネをかけた男性が。

「ミヒャエルさん、ご無沙汰しております。今日は内見にお越し頂きありがとうございます」
「どうもご無沙汰しております。こちら、本日お世話になる宅見さんです」「はじめまして、宅見です」

挨拶した宅見氏にミヒャエルが小声で、

「似てるでしょ」
「え?」
「韓国ドラマ好きなら堪らないんじゃないですか?」
「え?何がですか」
「だって、そっくりでしょ。あの大スター・ヨン様に!」
「ヨン様・・・あ!いや、似てますけど、私の言う韓国ドラマってその時代じゃ・・」
「時代は関係無いですよ。ヨンピルと合わせてWヨン様は」
「いや、ま、そうですけど。ヨン様、ここはどんな天国なんですか?」
「すみません。ヨンではなくショー・ジュンサクです。そして、ここは“微笑み“天国です」
「やはり」
「はい」
「微笑み天国って言うくらいですから、やはり皆さん日々ニコニコしながら穏やかに暮らされているんですよね」
「普通そう思われますよね」
「あれ?違うんですか?」
「ニコニコしていますし、穏やかですが、すごく熱気があります」
「熱気ですか?」
「宅見さん、微笑みって言葉、人がニコッとする他にもう1つ意味があるの、ご存知ですか?」
「知らないです、なんなのです?」
「『花のつぼみが少し開く状態』です。それが意味するところ分かりますか?」
「いや・・・」
「『未来を感じること』です」
「未来を・・・?」
「そうです。子供を見て微笑みますよね。そこに未来を感じているのです」「なるほど・・・。でも、寂しげに微笑むとかも言いますよね」
「ええ。それも同じ。未来を受け止めると人は微笑むのです」
「そうだったんですか⁈」
「人は生まれたら前に進んで行くしかないんですけど、その為には、その先の未来を感じたり受け入れていくことが必要なんですね。微笑みとは、そういった生きていく無意識の覚悟なんです」
「まさかそうとは・・・。となると、ここの天国の皆さんは日々覚悟をし続けていると⁈」
「いえ、違います。覚悟のお手伝いです」
「覚悟のお手伝い?」
「実は、微笑みは自分で作る事は出来ないんです」
「自分で作れない・・・?そうなんですか?」
「そう。ここのメンバーが微笑みを生み出して、覚悟が必要な人を見つけて贈っているんです」
「そうなんですか⁈まさに天国からの贈り物、じゃないですか」
「仰る通り。そして、微笑んだ人が人生の次のステップに足を踏み出す姿を見た時に自分の中に込み上げる気持ち、それがこの天国にいる方の幸せなのです。微笑みを与えて微笑みを与えられる『微笑み返し』。幸せな気持ちのエコサイクルです。宅見さんもいかがですか?」

この上ない微笑みを宅見氏に投げかけるジュンサク氏。
目を閉じて考える宅見氏。
やがて・・・

「すみません!私には無理かと・・・」
「おや、そうですか?」
「無邪気な子供を見て未来を感じる微笑みなら、私でも贈れるかもしれませんが、悲しみを受け入れて前をという類の微笑みを与えられるほど、私、人間が出来る前に死んじゃったんで・・・。多分、耐えられないと思うのです。すみません」
「そうですか、分かりました。でも、宅見さんは自分に正直ですね、とても良いと思います。その正直さを持って自分に一番合う天国を探してください。応援していますよ」
「ありがとうございます!」

ショー・ジュンサク氏の微笑みに見守られて、微笑む宅見氏。
そのココロの中には天国探しの未来への覚悟が・・・?

さて、次回はどんな天国に?





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