物語のタネ その八『ツッパリハイスクールRR #20』

俺の名前は北田勝。62歳。職業俳優。
コワモテの演技派として主にヤクザ、クライムものの作品に出演している。
今、俺とその役者仲間たちは、一粒で8時間「高校時代の自分の姿」に戻れる薬を使って「現役のツッパリ高校生」になり、文化祭に向けて「お化け屋敷部」に入部。
文化祭、俺たちの「目隠しお化け屋敷」は大人気!
そして、無事文化祭は終わった。

「みんな、お疲れさん!」

俺は、滝内、松林、村井に声をかけた。
「おう!」
皆、声を揃えて返事をする。
今、俺たちがいるのは、学校から少し離れた角に停めたロケバスの中。
しかし、バスの中は異様な光景だ。
50、60歳のオッサンが4人ツッパリ学ランを着て、汗だくでゼエゼエ言いながら座っているのだから。
だが、その顔はどれも満足そうに輝いていた。

「ねえねえ、着替えてさ、後夜祭覗きに行かない?」
滝内がちょっとウキウキした声で言う。
「生徒の家族が見に来たって感じでさ」
「お、それいいですね!村井も内村くんと村内さんがどんな感じになっているか気になるだろ?」
いたずらをする子供のような顔になって松林が言う。
「え、いや、別に気になんないっすよ」
完全にスネ顔で村井が応える。
「はいはい。じゃあ、着替えよ着替えよ」

俺たちは私服に着替えて、ロケバスから降りる。
降りる瞬間、歩道を歩いていた主婦らしき女性が小さな声で“ヒッ“と言って、その歩みを早めて去って行った。
「なんか、家族は家族でも、すごいファミリー感ありますね」
ロケバスの車体に映る4人の姿を見て松林が言った。
「まとまって行くと通報されそうだから、バラバラで行って校庭の入り口の野球のバックネットのあたりで集合にしようか」
全員合意。

何故か、こういうのは若い順が良いだろうとということになり、村井、松林、滝内、俺の順番で行くことに。
緊張するな。
昔、父兄参観に行った時のなんとも言えない教室の雰囲気が脳裏に甦る。
別に、俺、本物じゃないんだけどな。
滝内が正門を入って1分ほどが経った。
よし、ぼちぼち行くか。
全身から“孫がいるものでー“感を懸命に出しながら、いそいそと正門をくぐる。
学ランを着ている時はなんら抵抗は無いが、大人になると学校ってのは逆に緊張するな。

校庭に向かって歩いていくと、いたいた。
バックネット裏に強面のおっさんが3人。
逆に怪しすぎる・・・。
「おい、大丈夫だったか?」
「ええ。生徒も先生も後夜祭に夢中って感じで、誰も俺たちのことなんか目もくれませんでしたよ」
松林が笑いながら応える。
校庭の中心では大きな火が燃えていた。
文化祭で使った資材をくべたキャンプファイヤーだ。
宴の後、皆の想いと思い出の詰まった炎。
綺麗だ。
甘く、そしてちょっと切ない。
その火を囲んで、生徒達が思い思いに語り合っている姿が見える。

「お!あそこにいるの、内村くんと村内さんじゃない?」

滝内が指を差した。
校庭と校舎の間にある水道場。
そこに二人の姿があった。
内村くんが何か一生懸命話している。
その話の内容はここまでは聞こえて来ないが、その話を聞いて笑っている村内さんの様子からすると、話は盛り上がっているようだ。
青春だなー。
振り返ると、村井がうるうるした目で二人を見ている。
そして、俺と目が合うと、プイッとキャンプファイヤーの炎の方へ視線を移した。
村井、お前も青春してるなー。

内村くんと村井さん、いい画だ。
つい見てしまう。
どうやらそれは皆同じようで、バックネット裏から俺たちはニコニコしながら二人の様子を見ていた。

校舎のスピーカーから音楽が流れて来た。
生徒達が炎に向かって集まっていく。
村内さんが内村くんに何か話しかける。
内村くんが、えー⁈という表情をして、右手を顔の前で無理無理無理、といった感じで振る。
その右手を笑いながら掴む村内さん。
その手を引っ張りながら炎に向かって行く。
笑いながら。
その姿を見送る俺たち。

「よし、そろそろ行くか」
全員無言で頷く。
にこやかな気持ちで。

4人で正門に向かって歩いていく。
途中、教頭先生とすれ違う。
4人揃ってお辞儀をすると、ギョッとした顔をされた。
ただでさえビビリだからな、あの教頭。
ちょっと悪いことしたな。

ブーブーブー

正門を出たところで俺のスマホが震えた。
非通知、誰だろう。

「もしもし」
「あ、勝ちゃん⁈俺俺、梶村」
「おー、梶くん!」
一緒にいた3人が一斉に俺の方を見る。
「勝ちゃん、どう?高校生活」
「おかげ様で楽しくやっているよ。そうそう、昨日今日と文化祭だったんだよ」
「文化祭!懐かしいね〜。と言っても、俺、あの頃単車乗り回していてやってないけど」
「そうだったね。そう言えば、うちの高校の文化祭に来てくれた時、校内が騒然としたよね」
「勝ちゃんのデビュー舞台の時でしょ?そりゃ行くよ、幼馴染なんだから」
「客席、梶くんの周り誰も座っていなかったよね、立見も出ているのに」
「おかげでゆっくり観させて貰えたよ、ハハハハ」

その時はとんでもない大事件だと思っても、青春の時間は過ぎ去ればどれも良き思い出だ。

「ところでさ、勝ちゃん、明日、こっちに来れない?」
「明日?文化祭の振替休日だから大丈夫だよ」
「よかった。では、10時に大臣室でお願い。じゃ」
「了解。じゃあ、明日」

俺はスマホを切った。
「勝さん、どうしたんですか?」
村井が俺の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
「明日、大臣室へ来てくれってさ」
「なんでしょうね?」
「どんな感じか、話聞きたいんじゃないの。さ、俺たちの後夜祭に行こうぜ!」

梶村の話は何だろう?
まあ、いい。
今日は文化祭の余韻に浸ろう。

さあ、飲むぞ。これぞ大人の特権だ!




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