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物語のタネ その八『ツッパリハイスクールRR #13』

俺の名前は北田勝。62歳。職業俳優。
コワモテの演技派として主にヤクザ、クライムものの作品に出演している。
今、俺とその役者仲間たちは、一粒で8時間「高校時代の自分の姿」に戻れる薬を使って「現役のツッパリ高校生」になり、文化祭に向けて「お化け屋敷部」に入部。
突如の活動予算大幅カットの大ピンチを村井のアイデアで切り抜けようということで・・・。

廊下の角を曲がったら、その突き当たりが図書室だ。

内村くんを挟んで俺と滝内。
その後ろに松林、先頭を村井が歩いて、まさにその角に差し掛かろうとしていた。
今から人生を賭けた大勝負?に臨もうとしている俺たちなのだが、傍目から見ると真面目な生徒をヤンキーたちがどこかへ連れ去ろうとしている図。
真ん中にいる内村くんが、まるで収監される檻に向かって歩いている囚人のようなオーラを出しているから尚更だ。
先頭を歩く村井が角でピタッと止まる。
そーっと角の陰から図書室の方を覗いて・・・。
バッ!とすぐに顔を隠して俺たちの方を振り返る。

「いた!」
さすが村内さん、時間に正確だ。
内村くんを見ると、、、唇が紫色に。
9月のプールの後だってそんなに紫にならないぞ。

「よ、よし、行くかー」と村井。
声が心持ち震えている。
「は、はは、はい」
壊れた腹話術人形の様にカクカクしながら応える内村くん。
「では、行ってくるぜ」
村井の言葉に“おう“と答える俺たち3人。

村井は内村くんの肩を抱くと角を曲がって行った。
すかさず俺たちはトーテムポールのように、角から顔を出してチェック体制へ。
村内さんに近づいていく2人。
村内さんが村井の姿に気づいた。
あれ?という表情。

「お待たせー。さすが副委員長、時間正確だねー」
「そういう村井くんこそピッタリじゃない」
言いながらチラチラと内村くんを見る村内さん。
「あ、村内さんも知っているよね、お化け屋敷部の部長の内村。俺、お化け屋敷部に入ったのよ」
「そうなの?」
「そう、文化祭あるからさ。で、村内さんも以前、お化け屋敷部にいたんだよね?」
「うん、ちょっとね」
「それでさ、ちょっと相談があるんだけ、ん?あー、あ、あああ」
「村井くん、どうしたの?」
「あー、あららら、朝から腹の調子が、、、あ、これ、やばいかも」
「やばいって?大丈夫?」
「あ、出ちゃうかも、、、」
「出ちゃいそうなの⁈」
「そう。マジで、、ごめん、内村部長、後は説明よろしく!ごめんごめん、村内さんごめんね」
そう言うと村井はこちらに向かって駆けてきた。
慌てて顔を引っ込める俺たち。
角を曲がる村井。
「村井、嘘っぽい演技。、璧だったな」
「でしょ?ここはさ、ウソだってことを匂わせることが大切だからね」
「わかるわかる」
こんな時も演技論。
本当に役者バカだな俺たち。

「おい、そんなことより内村くんはどうだ?」
再びそーっと角から顔を出し、聞き耳を立てる俺たち。

「あ、大丈夫かな、む、村井くん」
「心配だね」

沈黙。。。。。。。。。。。。。。。。。
「ひ、ひさひぶりだね、村内さん」
「そ、そうね」
再び、沈黙。。。。。。。。。。。

「おい、大丈夫か内村くん。早くしないと昼休み終わっちゃうよ」
俺たちのヤキモキメーター上昇中。

「戻って来ないね、村井くん」
「そ、そうだね」
「そう言えば、何か相談がって村井くんから言われていたんだけど」
「あ、そ、そのことなんだけど」
「うん」
お!いよいよだ、行け、内村!思わず身を乗り出してしまう俺たち。

「村内さんは、お岩さんと化け猫どっちがいい?」
おい!内村、それじゃ意味分からんだろ!
「そうねー」
村内さん、普通に受け止めるのね。
「化け猫かな。昼間の顔と夜の顔、二面性があるところがいいわね」
そして、真面目に答えるのね。
「あ、僕も。で、相談というのは、」
今のでアイスブレイク?出来たのね。

「今度の文化祭のお化け屋敷部、実はクラブ費が削減になっちゃって、、、で、苦肉の策というか火事場のばか力というかで考えたのが、目隠しお化け屋敷なんだ。窮鼠猫を噛むというか、瓢箪から駒というか、結果、すごくいい企画が出来たと思うんだ。あ、これ考えたの村井くんだけど。でも、僕もすごくいいアイデアだと思ったんだ。それで、大切なのが声というか喋りなんだ。なんと言っても、耳から怖がらせるお化け屋敷だから。で、で、で、その声を村内さんにやって欲しいんだ!」

もうちょっと喋ったら酸欠で死んじゃったんじゃないかと思うくらいに一気に喋った内村くん。
廊下の角から見てもゼエゼエ言っているのがわかる。
そんな内村くんをジッと見る村内さん。

「いいよ」

「!」
「声優の練習にもなりそうだし」
「!!」
「それに、面白そう!」
「!!!」

その場にふにゃふにゃと座り込む内村くん。
おー、やったな!
あれ?なんか濡れるな。
上を見ると村井が泣いていた。。。

キンコンカンコーン

昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
ふわふわっと立ち上がる内村くん。
「内村くん」
そんな内村くんに話しかける村内さん。
「人の意見も素直に受け入れられるようになって偉いぞ」
ハッという顔をした後、ハニカミながら下を向く内村くん。

「うん。あの時も」
「あ、授業始まっちゃうよ、急ご!」

村内さんがこっちにやって来る。
マズイ!俺たちは急いで教室に向かって駆け出した!

村井、教室に着く前には涙を拭けよ!



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