見出し画像

物語のタネ その六 『BEST天国 #33』

様々な地獄があるように、実は天国にも様々な種類がある。
現世での行いや悪行により問答無用に地獄行きかが決められてしまうのに対して、天国は自分で選べるのだ。
ここにまた、ある1人の男が死んでやって来た。
名前は、宅見卓朗。享年37歳。
前回は「V8堪能天国」を訪れた宅見氏。
さて、今回はどんな天国に?

あらすじ

天国コンシェルジュ、ミヒャエルのオフィス―――
大きなテーブルに新聞を広げているミヒャエル。
そこに宅見氏がやって来る。

「おはようございます、ミヒャエルさん。あれ?新聞ですか」
「おはようございます。ええ、新聞です。宅見さん、新聞お読みになりませんか?」
「読みますけど、ネットでですね。生きている時は、通勤時間中にスマホで」
「今は、そういう方多いですよね。私はどうしても新聞は新聞紙で読みたいタイプなんですよ」
「そうなんですね」
「ええ。しかし、今の方はとにかくスマホ、あれが無いと生きていけないって状態じゃないですか?」
「はい、振り返るとその通りです。便利は便利ですけど、電話やメールやLINEやなんだかんだで、いつも誰かに拘束されているような気分でしたね」「なかなかなストレスでしたね、それは」
「ええ、私だけではなく、みんなそうだったんじゃないかな」
「あ、となると、あそこもしかした意外と面白いかも」
「ん⁈」
「よし、とにかく行ってみましょ!」

いつもの様に真っ白な空間―――
しばらくすると大きな黒いバッグを斜めがけにした男性がやって来た。

「どうも、ポスティーノさん、お久しぶりです」
「やあ、ミヒャエルさんもお元気そうで。今日は、内見?」
「はい。こちら、今私が担当させて貰っている宅見さんです」
「宅見です、本日はよろしくお願い致します。ところでポスティーノさん、こちらはどんな天国なんですか?」
「ここは、“わくわく連絡天国“です」
「わくわく連絡天国?」
「宅見さん、スマホ使っていましたか?」
「はい」
「ひっきりなしに連絡が来て結構ストレスじゃなかったですか?」
「ええ、ちょうどさっきミヒャエルさんとも話していたんですけど、いつも誰かに拘束されている感じがしてましたね。もう、連絡寄越すなよーって。特に部長からのは嫌だったなー」
「そうですよね。で、一方、好きな人からの連絡は?」
「もう、それは早く来いというかいっぱい来いって感じですね」
「ですよね」
「あ!わくわく連絡天国って、そんな待ち遠しい連絡しか来ない天国ですか?」
「ざっくり言うとそうです」
「それはいいなぁ」
「でも、そこへの道は意外と険しいのです」
「そうなんですか?なんで?」
「連絡は麻薬なんです」
「麻薬?」
「普段、もう次から次へとメールやLINEが来て面倒臭いなーと思っているのに、ふとした空き時間についつい着信チェックして何も来ていないとちょっとガッカリしたりしませんでしたか?」
「あー、それは確かに」
「現代人は連絡ジャンキーの方、多いのですよ。ですから、この天国では、その連絡ジャンキーから抜け出すリハビリから始めてもらうのです」
「リハビリ?」
「ええ。この連絡ジャンキーは曲者で、苦しまれる方も多いです。」

「どんなことするんですか?」
「メールやLINEや電話などすぐに連絡が取れるものは一切無しにします」「なるほど」
「ただ、一つだけ許された連絡方法があるんです」
「それは?」
「文通です」
「文通?」
「はい。宅見さん、文通やったことあります?」
「えーっと、小学生の頃、授業でアフリカの子供としたことあるくらいですね」
「文通をするとですね、連絡の本質的楽しみや醍醐味を感じることが出来るのです。相手からの返事が待ち遠しいという想い、そしてそれが届いた時の喜び。さらに、なんて返事を書こうかと相手のことを想いながらああだこうだと考える時の幸福感、文通にはそれらが詰まっているんです。ちなみに、ここでは直筆オンリーとなっています」
「なるほどー。そんなこと考えてみたこと無かったです」
「どうですか、宅見さん、ここでリハビリして、連絡の本来の楽しみを満喫してみては」

うーん、と考え込む宅見氏。
やがて、
「すみません!」
「おや」
「実は天国に来てから、色んな連絡が来ないことに既に慣れてしまっているんです」
「あら、それはそれは」
「なので、既にリハビリ必要無いかと。あと、私、確実に筆無精なんで、相手の方に悪いなと・・・」
「そうでしたか。それは素晴らしいです。そのモードで宅見さんにピッタリの天国を探してください」
「ありがとうございます」
「宅見さんがそうなれたのはきっと、ミヒャエルさんが常に寄り添ってくれているからですね。さすがですね、ミヒャエルさん」
「いやいや、宅見さんの性格ですよ」

ちょっと照れるミヒャエル。
そんなミヒャエルを見て嬉しそうな宅見氏。

さて、次回はどんな天国に?




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?