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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#1』

1500年に渡りうまくやって来た人類と吸血鬼の存在を揺るがす一大事件が発生!
その事件を解決する為に、血液商社「ブラキュラ商事」の新入吸血鬼“勇利タケル“とバディのベテラン吸血鬼“尾上高志“は、かつて無い熾烈な戦いに挑む・・・!

僕の名前は、勇利タケル。
若手の吸血鬼である。
吸血鬼は死なないから年齢の概念も曖昧ではあるが。

今日は、血液商社「ブラキュラ商事」出勤初日である。

かの有名なドラキュラ伯爵のように、吸血鬼がそれぞれ個人で人の血を吸っていたのは遥か昔の話。
時代と共に科学と文明の進歩で夜が明るくなり、防犯体制も強化されてくるに従って、人を襲って血を吸うのが徐々に困難になって来た。
そんな吸血鬼界存亡の危機の一方で、人間界では血液の需要が急速に増していた。
輸血や実験などで色々と血が必要になって来ていたのだ。
その必要量は街角で展開されている献血カーでは賄えないほどに。

こうして、ここに人間と吸血鬼の血の重要と供給が合致。
吸血鬼が吸った血を人間に売り、その報酬を血で貰うという秘密のビジネスが成立。
そうして出来たのが、この血液商社「ブラキュラ商事」。
今や世界中のほとんどの吸血鬼がこの商社の社員である。
僕もちょっと前まではフリーの吸血鬼だったのだけど、世の中的にフリーでやっていくのは難しく、吸血鬼人生初のサラリーマン人生を歩むことにしたというわけ。

チーン

エレベーターが15階に到着。
降りたら右に曲がってフロアへ。
自動扉が開いて中に入ると、100人くらいの人が。
皆、吸血鬼。
「ブラキュラ商事」はグローバル企業なので、様々な人種の吸血鬼がいる。その光景に圧倒され立ち尽くしてしまう僕。

「勇利さん、ですね?」

振り向くと髪の長い1人の女性が立っていた。
多分この人も吸血鬼。
「人事部の片山です。こちらにどうぞ」
言われるがままに応接室に通された。
「まずは、入社おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「では、当社の就業規則など説明させて頂きますね」
「はい、よろしくお願いします」
やはり、大企業は違うな。
ずっとフリーでやって来た僕にはこんなやり取りも実に新鮮だ。

「当社の吸血営業は、バディ制です。必ず2人1組での行動をお願いします」
「わかりました。が、それは何でですか?」
「お互いが相手の吸った血の量を記録する為です」
要は、相手が吸った血をちょろまかさない様にする為ってことですね。
「あと、バディはお互いの血の好みが違うもの同士で組ませます。勇利さんの好きなのはB型で間違いないですか?」
「はい、間違いありません。これってもしかして」
「はい、お互いが喧嘩しないようにです」
やはりそうか。
「では、勇利さんのバディになる方を連れて来ますね。こちらで少々お待ちください」
人事の片山さんが出て行き、僕は長ソファの向かいの1人がけのソファに座る。

どんな人が僕のバディになるのだろうか?
カッコいい人がいいな。
男性か?女性か?
吸血鬼の世界では、ずっと男性吸血鬼は女性を。
女性吸血鬼は男性を襲うものとされて来たのだが、最近はLGBTのこともありその辺りは自由になったと言われている。
なんてことをボウっと考えていると、長ソファの向こうからヌッと人影が!

「おい、水を持って来い」

だ、誰なんだ?この人!

「尾神さん!ここにいたの!」
先ほど出て行った片山さんが、いつの間にか戻って来ていて仁王立ちだ。
「ごきげん麗しゅう片山エミリー嬢。ご機嫌ついでにお水を一杯下さいな」
「また、飲み過ぎですね」
「会社の近くに美味しいブラディメアリー出す店見つけたのよ。で、ついついね。それで気づいたら夜が明けそうになってて。こりゃやばいって会社に戻ってさ、安全なソファの下に避難してたわけ。ここなら遅刻しないしね」
「あの、この方はどなた?」
仁王立ちの片山さんを見上げて僕は言った。

「尾神高志さん。あなたのバディよ」

え〜⁈

「おう、よろしく。じゃあ、まずはお水持って来て」

これが、我がバディ尾神高志との出会いである。



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