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物語のタネ その六 『BEST天国 #36』

様々な地獄があるように、実は天国にも様々な種類がある。
現世での行いや悪行により問答無用に地獄行きかが決められてしまうのに対して、天国は自分で選べるのだ。
ここにまた、ある1人の男が死んでやって来た。
名前は、宅見卓朗。享年37歳。
前回は「恍惚追求天国」を訪れた宅見氏。
さて、今回はどんな天国に?

あらすじ

ミヒャエルのオフィス―――
いつものように彼の淹れたコーヒーを飲んでいる宅見氏。

「うーん、いつ飲んでも美味しいですね、ミヒャエルさんのコーヒーは」「ありがとうございます」
「やはり、この味を出すまでにはかなりの時間が?」
「そうですね、やはり試行錯誤がありましたね」

そんなミヒャエルの言葉を聞きながらマグの中のコーヒーに視線を落とす宅見氏。
おもむろに口を開く。

「最近ちょっと思うんですよ」
「ん、何をですか?」
「これまで色々な天国を見せて頂きましたが、そこに共通するものがあるなと」
「それは?」
「キーワードは“追求“なのかな、と。ほら、この前の恍惚。まさか、恍惚だ追求するものだなんて思ってもみなかったです、私」
「確かに、そうですね」
「なので、他にもまだまだあるのかなーって、え?そんなの追求するの⁈なところ」
「ありますね。宅見さん、ちょっと積極的になりましたね。その面白がる気持ち大切です。となると・・・あ、あそこいいかも」
「どこですか?」
「ままま、とにかく行ってみましょう」

いつものように真っ白な空間にいる2人。
しばらくすると・・・、

「あれ?ミヒャエルさん、なんかじんわりと暖かくなってきてませんか?
私、ちょっと眠くなって来ま・・・」
「はい。そろそろここの天国マネージャーさんがお着きになるのだと、あ、いらっしゃった。どうもエンガワさん、ご無沙汰しております!」
「どうもどうも、ミヒャエルさん。どう、今日の具合?ヤバいでしょ?」
「はい、ヤバいですね、このぽかぽか具合。気を抜くと眠くなっちゃいます」
「ミヒャエルさん働き過ぎなんだから、ここでは気を抜いてよ。で、今日は?」
「内覧で。こちら、私が担当させて頂いている宅見さん。宅見さん、こちらエンガワテツロウさん」
「・・・あわ、すみません、ついウトウトしちゃって。宅見です。エンガワさん、こちらは何の天国なんでふか、ふわあ〜、あ、すみません」
「ふふ、ここはね“日向ぼっこ“天国です」
「日向ぼっこ⁈」
「そう。ヤバいでしょ、このぽかぽか。しかもね、今日はまたいつにも増していい感じでヤバいのよ」
「日向ぼっこに差があるんですか?」
「日向ぼっこを舐めちゃいけないよ。気温、陽の強さ、風の具合、周りの音・・・。日向ぼっこを創り出す要素は色々あるのよ。その時の自分の体調とか気持ちとかね。もうその組み合わせは無限大よ」
「すると、ここの皆さんは・・・」
「お察しの通り。日々、究極の日向ぼっこを追求しているのよ」
「究極の日向ぼっこ、ですか」
「そう、時々バチーンと決まることがあるのよ。そうすると、もう、キモチイイ~ウトウトっ〜ってなるのよ。もう、ヤバいよ」
「・・・あ、すみません、聞いているうちにウトウトと。ホント、ヤバいですね。それを皆さん、それぞれ縁側に座って追求しているってことですか」「ダメ、それ」
「へ?ダメって?」
「日向ぼっこ=縁側、その固定概念はダメよ。日向ぼっこはもっとアクティブに追求して行かないと!色んな場所でトライよ」
「え?でも、エンガワさんのお名前も・・・」
「それは、戒めと安らぎよ。『安易に縁側に頼るな、でも、いざとなったら縁側があるよ』という。『釣りは鮒で始まり鮒で終わる』と同じ。そのくらい、日向ぼっこの追求は過酷で奥が深いのよ」
「そんなに大変だったんですね、日向ぼっこ!」
「そう、日向ぼっこはある意味、自分との闘いよ」
「え⁈」
「日向ぼっこに欠かせないのは何?」
「えっと、、、やっぱりお日様ですかね?」
「そう、お日様。それはね、究極の平等。誰にでも等しく、太陽の光は注がれてるでしょ」
「はい。確かに」
「その太陽の光をどう気持ち良さに繋げていくのか。それは自分次第。日向ぼっこは自分との闘い、とはそういう意味。頑張ったら頑張った分だけ気持ち良くウトウト出来ちゃうってこと。どう?宅見さん、究極の日向ぼっこ、目指さない?」

ぽかぽかの気持ち良い度が増す中、ウトウトと必死に戦いながら考える宅見氏。
やがて・・・。

「ふひゃっ、あ、すみません、ヨダレが。ヤバいですね、この気持ち良さ。それで、あの・・・やっぱりやめておきます」
「あら、残念」
「私、すぐ、うとうとしちゃうんです。生きている時も、昼飯食べた後とか、ヤバくて。会議中、必死にシャーペンを腿に突き刺していたほどで。なので、追求することが出来ないと思うんです・・・」
「ふふふ、それは日向ぼっこ要らずですね。わかりました。宅見さんにピッタリの天国は他にありそうですね。頑張って」
「ありがとうございます」

ふと、横を見ると、ミヒャエルが居眠りを・・・。
さて、次はどんな天国に?



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