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物語のタネ その八『ツッパリハイスクールRR #21』

俺の名前は北田勝。62歳。職業俳優。
コワモテの演技派として主にヤクザ、クライムものの作品に出演している。
俺とその役者仲間たちは、一粒で8時間高校時代の自分の姿に戻れる薬を使って「現役のツッパリ高校生」に。
そして迎えた文化祭も無事終了。

大臣室の扉の前。
この扉の向こうに自分の幼馴染がいるというのは不思議な気分だ。
しかも俺の住んでいた地域史上1番の不良と呼ばれた元暴走族リーダー。
文部科学大臣・梶村邦夫、62歳。

「大臣、お客様がお見えになりました」
秘書の男が恭しく扉を開ける。
「どうぞ」
中から懐かしい声が聞こえる。
部屋に入ると奥の大きなデスクに座っている男がひょいと顔を上げた。
「よっ、勝ちゃん」
「おう、梶くん」
「さささっ、座って座って」
梶村は立ち上がるとデスクの前にある応接セットのソファにやって来た。
俺もソファに座る。

「良かったら食べてよ」
梶村がテーブルの上のガラス細工の器の蓋を開けると、そこにはかりんとうが。
「梶くん、相変わらずかりんとう好きなんだね〜」
「そう、こればっかりはやめらんないね」
そう言うと、俺よりも先にひょいとひとつ摘んで食べた。
「うん、美味い。ところで、どう?学園生活は」
「正直、楽しいよ。ボリボリボリ」
俺もかりんとうをひとつ頂いた。
「そう、そりゃ良かった」
「最初は、ある意味、役者としてのチャレンジだな、と思ってさ。ツッパリ高校生をやるという。しかも外見まで本物の高校生になって。これって、役者にとっては夢の時間だよなって思ったよ」
「うん、うん」
「でも、本物の高校生たちと筋書きの無い、一瞬先に何が起こるか分からないリアルな時間を過ごしていると、そんなこといちいち意識しなくなったね」
「ふん、ふん」
「梶くん、最初言ってたじゃない、“ツッパリ魂で今の若者を元気にしてくれ“的なこと。覚えてる?」
「もちろん」
「俺も仲間も、そう思って気合い入れて臨んだんだよ。もう60超えてるしさ、ここで少しでも若い人の役に立てればいいなって思いもあったし」
「はい、はい」

「でも・・・」
「?」

「逆だな」
「逆?」
「そう。俺たちの方が勉強になったよ」
「・・・」
「昨日の文化祭まで振り返ると、ただ無我夢中に高校生活をしてきただけなんだよ。内村くんに村井さん。あ、この二人は現役の高校生ね、お化け屋敷部の」
「お化け屋敷部⁈」
「びっくりするだろ、そんな部があったんだよ。その部に入って文化祭に出たの、この前の土日」
「楽しそうだね〜」
「楽しかったよ〜。途中、部費削られちゃって大ピンチで。皆でどうしたいいんだ⁈って悩んで知恵出し合って。これだ!ってアイデア出た時は興奮したな〜」

文化祭が、高校生活がいかに楽しかったのか。
こうやって話すとそれが改めて鮮明に思い浮かび、そして心に沁みてくる。
そんな俺の興奮した喋りを梶村は笑みを浮かべ、ふんふんと頷きながら真剣に聞いてくれている。
時々かりんとうをつまみながら。

一通り学園生活の報告が終わり、俺としては本日、どうしても梶村に聞きたかったことを聞くことにした。
「ところで、梶くん」
「ん⁈」
「俺たちにこんなことさせた本当の理由は何なの?」
「・・・」
「今回、俺心の底から感じたんだよ。若い奴は若い奴で一生懸命楽しく生きているんだなって」
「うん」
「勿論、年長者として多少の役には立てたとは思うけど。どっちかというと、迷惑かけちゃいけないよなって思いの方が強くなったよ」

「それ」
「それ?」
「ジジイの自立」
「ジジイの自立?」
「日本は人類史上誰も経験したことのない高齢化社会に突入してるじゃない」
「うん」
「人口比で言ったら若者の倍ジジイがいるわけよ」
「うん」
「そこで、秘密の国家プロジェクトが立ち上がったんだ。『年齢人口シフト作戦・別名ジジイ若返り作戦』。ジジイを若返らせて日本の若者人口を増やそうってわけ。あ、ババアも対象ね」
「若返りって、俺たちが飲んでいる薬がもしかして」
「そう。今は8時間しか効かないけど、もう少し開発が進めば24時間、つまりはずっと若返り状態を保つことが出来るようになる」
「すごいじゃん」
「ただ、ひとつ課題があって」
「?」

「身体は若返らせることは出来るけど、気持ち、ココロはそのままなんだよ」
「うん」
「気持ちが老けたままだと、身体が元気な分、逆に社会的に老害度が増しちゃうからさ」
「確かにそうだよね」
「そこで」
梶村は急に居住まいを正した。

「ジジイが青春出来るかの実験を勝ちゃん達でしたんだ。ごめん!」

梶村が頭を下げる。
その頭を見つめる。
あれ?梶くん、てっぺん結構薄くなってる。
完全に禿げ上がった俺が言うのも何だけど。
誰もが恐れた男も歳をとったんだな。
だけど、熱さは変わってないな。

「梶くん、そんな頭なんて下げないでよ」
梶村が顔だけ上げる。
「怒ってない?」
「怒ってないよ。それで、その実験はどうだったと思うの?」
「大成功だよ。勝ちゃんの話す姿を見てそう思った」
「良かった。・・・俺の方こそお礼を言わなきゃ、ありがとう」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
俺たちはお互いを見つめて頷き合う。

「でも、残念だよ。結構楽しかったからな高校生活」
目を瞑るとここ数ヶ月の学園生活の様々なシーンが浮かんでくる。
内村くんと村井さん元気かな〜?
って、昨日会ったけど。

目を開けると、梶村がジッと俺の方を見ていた。
そしてテーブルの下からおもむろにアタッシュケースを取り出し、開けた。
「勝ちゃん、これね」
手にしたプラスチックケースに何やら白い錠剤が。

「今度は12時間保つから」
「⁈」
「次の高校はここね!」

マジかよ⁈

(ツッパリハイスクールRR 第一章 完)

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