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物語のタネ その八『ツッパリハイスクールRR #8』

俺の名前は北田勝。62歳。職業俳優。
コワモテの演技派として主にヤクザ、クライムものの作品に出演。
業界ではそれなり。
その手の方々にもそれなりに人気。
この世界ではそれなりのポジションにはいる。

俺の幼馴染にして、元関東最大の暴走族のリーダーにして
文部科学大臣の梶村に頼まれ、俺とその役者仲間たちは
一粒で8時間高校時代の自分の姿に戻れる薬を使って
「現役のツッパリ高校生」なることに。。。

その高校、都立魁高校では文化祭に向けて何かしらのサークルに入らねばならず、俺たちが目をつけたのは「お化け屋敷部」。
部長の名前は内村玲。
ちなみに、部員は彼1人。。。

「内村部長、今年はどんなお化け屋敷をやるのか決まってるの?」
「いや、まだそれが固まっていないんだ」
「じゃあさ、みんなで考えようよ」
「おー、そうしようそうしよう」

俺たちは椅子を出して内村君の周りに集まった。
全ての基本は企画だ。
ここをしっかりと作らないと面白いものは出来ない。
役者は、基本与えられた役をきっちりと演じるのが仕事だが、その役がどういう人物でどう演じたらいいのか?
それには明確な物語の世界観、ストーリーコンセプトが重要なのだ。

「ところでさ、最近のお化け屋敷事情ってどうなの?」
カバンの中から歌舞伎揚を出しながら滝内が聞く。
時間を見たら15時過ぎ。
滝内恒例のおやつタイムだ。
この男にとって3時のおやつは歯を磨くのと同じくらい当たり前なのだ。
「そう言えば、最近、お化け屋敷なんて行ってないすもんね」
出された歌舞伎揚に早速手を出しながら松林。

「お化け屋敷は日々進化しているんですよ」

内村君が再びメガネをキラリンとさせて話し出す。
「中でも積極的なのが東京ドームシティアトラクションズだね。お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんとチームラボが組んでたりして」
「お化け屋敷にもプロデューサーがいるの?」
と村井。
「勿論」
分かってないな〜感バリバリで村井を見る内村君。
その視線を受けて、むっと歌舞伎揚を噛む村井。

「映画やテレビと同様、お化け屋敷はエンターテイメントだからね、プロデュースが命なんだよ」
何か得意げな内村君。
「他に面白いのだと、バス自体がお化け屋敷になっているという移動式お化け屋敷ってのもあるよ」
「お岩さんやろくろっ首とかが次々と出てくるってやつしか知らなかったよ」
本日4枚目の歌舞伎揚を食いながら滝内。
「浅草花やしきにあるようなね」
と、松林。
「でも、あそこは木製のジェットコースターの方がある意味怖かったな。乗っている途中に壊れるんじゃないかと思って」
「浅草花やしき!」
と内村君。
「ああ言ったオーソドックススタイルも勿論素晴らしい。一方、お化け屋敷の進化は目覚ましいんだよ。だから僕たちお化け屋敷部は、そういったレジェンドスタイルに敬意を表しながらも常に先を見据えたお化け屋敷を作っていかねばならないだ!」
内村君のボルテージ、更に上がったようだ。

確かに内村君の言うことは、俺たちコワモテ映画、コワモテ役者にも当てはまるな。
そう思っているのはどうやら俺だけではないらしい。
他のみんなも真剣な顔をして頷いている。

「怖がせたいね〜」

ニヤリとしながら村井が言う。
「どういう内容がいいかね〜?」
うーん、そこが問題だな。
「そうだ。ネタ出しを兼ねてさ、1人ずつ自分が知っている怖い話、話すってのは?」
「お!それいいね」
村井と松林が盛り上がる。

怖い話か。
実は俺たちの仕事場である撮影所やスタジオには怖い話が多い。
ある人によると、霊は寂しがり屋なんで人が集まる場所に寄って来るんだそうだ。
四六時中人がいるからな、ああいう所は。

「じゃあ、俺から言います!」
村井が手を挙げる。
そして、声のトーンを落として話し始める。


これは、ある映画撮影スタジオでのことなんだけど。
ある俳優が夜、時間は深夜1時過ぎくらい、撮影所の廊下を歩いていると、廊下の曲がり角のところで小さな子供が鞠をついていたんだって。
しかも着物を着てね。
ただ、撮影所じゃない。
子役の子が遊んでいるのかなって思ったんだけど。
その子の横を通り過ぎて角を曲がる時になんか少し焦げ臭い匂いがしたそうで。
気になってふと振り返ったんだけど、もうその子はいなかったんだって。
翌日、なんか気になるなって、撮影所に昔からいる管理のおじさんにその話をしたら、おじさんが“ああ、出ましたか“って。
実は、その撮影所がある場所って昔、大金持ちのお屋敷があったんだけど、その子を見た時刻に火事があって一家全員焼け死んでしまったんだって。


うーむ。
とてもオーソドックスな話だが、ありそうなだけに怖い。
事実、この手の話は色々なスタジオで聞く。
その後もそれぞれが怖い話をしていく。
どれも撮影所絡みなのは仕方ないが。
そして、俺の番。

「あれ、勝、顔色悪くないか?」
滝内が俺の顔を覗き込んで言う。
「いや、あの・・・」
「本当だ、大丈夫?」
内村君も俺の顔を覗き込む。

仕方ない、白状するか・・・

「実は・・・、俺、怖い話、苦手なんだよ」

一同、えっ⁈っという反応。
そりゃそうだよな、この顔つきだからね。

「怖い話、聞くのも話すのも大丈夫なんだよ。ただ、あとで急にフラッシュバックしちゃうというか、戻りゲロしちゃうというか。とにかく、ヤバイのは風呂入って髪洗っている時で。ハッ!誰かいる⁈って背後に感じちゃうんだよ、霊気を。もうそうなると落ち落ち髪洗っていられなくなっちゃうんだよ。今はね、この瞬間はね、正直楽しいんだよ。でもね、今夜のことを思うとなんとも気が重くって・・・」

「あ!それだ!」
と、その時、急に内村君が声をあげた。

「ど、どうしたの⁈」

「それだよ!後ろから来る恐怖だよ!」

内村君の目が爛々と輝いている、ちょっとホラーだ。

「見えた!うん、それで考えよう!」

とにかく、どうやら未来の天才?お化け屋敷プロデューサーには何かが見えたらしい。
そのヒントに俺がなったらしい。
よく分からないが、良かったよかった。

横を見ると、村井も満足そうにニコニコしている。
ん?
俺は何か村井の顔に違和感を感じた。
なんだ?
あ、リーゼントの鋭角度が増している!
後退してアイスラッガー化に向かっているような・・・

俺は、壁の時計を見た。
時刻は15時43分。
俺達が高校生の姿になれる薬を飲んだ時間は8時。
そして、薬の効き目は8時間!

「やばい!」

俺の叫び声に皆、俺の方を見る。
その顔にはどれもオッサン化の兆しが!
「おい、帰るぞ!今すぐに!」
「えっ?どうして⁈部長が今閃いてこれからじゃないですか」
アイスラッガー化に気づいていない村井がのんびりした声で不満を言う。
「8時間経つんだよ!お前、アイスラッガー、アイスラッガー!」
俺の言葉に、村井の目が2倍になった。

「部長!また、明日!」

訳がわからず小さく手を振る内村君を置いて、俺たちは部室を飛び出し、校門目指して猛ダッシュした!

やばいーーーーー!



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