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「柳津のあわまんじゅう」への愛を語らせてほしい

あわまんじゅうが大好物だ。福島県会津地方柳津(やないづ)町の名物である。幼少の頃に祖母の家で、確かお土産か何かで初めて口にしたのだと思う。やさしい黄色の柔らかなおまんじゅうが忘れられない味として記憶に色濃く残っていた。柳津町はそう簡単に行ける距離でもなく、当時はお取り寄せなどもなかった時代。誰か知り合いがその地に赴いてお土産でいただきでもしない限り口にすることは出来なかった。しかも日持ちがしないため人に頼んで買ってきてもらうのも極めて難しい代物だった。

希少性が伴うと人はそれを求めたくなる。対面系の販売職に就いていた頃、商品が残り少なくなると途端に売れ出すことを目の当たりにしていた。自分とて同じく期間限定や数量限定には購買欲を刺激されがちになる。当時なかなか手に入らなかったお菓子は、今のように通販や百貨店の催事で手に入るようになるまで、長いこと憧れでもあった。

「あわまんじゅう」とはどんなお菓子か

その「あわまんじゅう」とはどんなお菓子か。その由来が小池菓子舗さんの公式ウェブサイトおよび商品に封入されている小さなお品書きに記載されている。

柳津の名物として名高いこの饅頭は、今から200余年ほど昔、日本三大虚空蔵尊の随一、福満虚空蔵尊が大火にあった際に二度と災難にあわない様にとの願いを込めてあわともち米で造った饅頭を虚空蔵尊に奉納されたのが、あわまんじゅうの始まりと言われております。

福満虚空蔵尊(ふくまんこくぞうそん)の公式サイトはこちら。

私も今回初めて由来について少し調べてみたけれど、なるほど、災難に「あわ」ないようにと願いを込められた、ありがたいお饅頭ということか。祖母の家で初めて食べたあわまんじゅうは、お参りに行った方がお土産で持ってきてくれたものだったらしい。

その見た目と味だが、つやのある明るい黄色の粟餅のよう。包み紙ごと手に取るとふにゃっと柔らかい。細かな粟粒をもち米と一緒に蒸しあげた、もっちり、ぷちぷちとした食感。道明寺にも似ているけれど粒はもっと細かい。穀物を炊いたような素朴な香りがふわっと広がる。中には甘さ控えめの、僅かに塩気を感じるこしあん。舌の上ですっと溶けてしまうようなあっさりとしたあんこと、もちもちの生地が後を引く。甘ったるさは無いから、ついもう一つ手を伸ばしたくなる。

賞味期限は当日含め2日間

つきたてのお餅のようなもっちりと柔らかな食感が、あわまんじゅうの命ともいえる。そのため賞味期限は当日を含め2日間。時間が経つとすぐに固くなってしまう。お店のサイトでも「固くなったら蒸してお召し上がり下さい」とある。楽天でも購入出来るが、基本は冷凍便となる。我が家でも食べきれない分はすぐに冷凍することにしている。

冷凍したあわまんじゅうは自然解凍で食べられるけれど、私はこっそり独自の食べ方を楽しんでいる。凍ったままのあわまんじゅうを小鉢に入れて、500Wのレンジで1分半~2分(固くなった常温のものなら1分)。熱々の状態にしてスプーンで食べると、ミニ粟ぜんざいのようにして楽しめる。粟ぜんざいは好きで、浅草の梅園さんなどで食することもあったけれど、ランチの後の甘味というにはボリュームがあり過ぎて1人前を食べ切るとかなりお腹が重くなってつらい。されど食事として扱うのもちょっと違うから悩ましい。しかしあわまんじゅう1個をレンジで熱々に温めると、粟ぜんざいを「少しだけ食べたい」欲を丁度良く満たせるのだ。

とはいえ、出来たてに勝るものはない。丁度、家から行ける距離の百貨店で小池菓子舗さんの催事が出ていたので行ってみた。あわまんじゅうを作るところからの実演販売スタイルで、職人さんがおちょこのような器に生地とあんこを入れて手作業で素早く丸く仕上げていくところもしっかり見せてもらえる。その場で蒸しあげたあわまんじゅうを、おばちゃんがすぐにうちわで冷まし、粗熱が取れたらこれまた手早く包んで箱に詰め、そこでお渡しとなる。

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もちろんまだほんのり温かくて、本当ならすぐに外のベンチで開けて食べたいところを我慢して持ち帰った(バラで買えばよかった)。

「思い出補正」なんてものはここにはない

あわまんじゅうが好きだ。容易に手に入らなかった頃は、親に買ってきてとねだれる筈もなくずっと思い出の美味しいお菓子としてあり続けたけれど、有り難いことに今では何らかの形で手に入れることが出来る。大抵そのような思い入れのある食べ物には「思い出補正」が入りがちで、当時感じた味イコール思い出として年を追うごとに美化されていってしまう。だから今同じものを食べて「こんなものか」とがっかりすることは往々にしてある。

けれど「あわまんじゅう」は違う。もっとも、伝統を守り続ける造り手あってのことが大前提だが、幼少の頃に「美味しい、もっと食べたい」と思った感覚、手に入らない渇望にも似た憧憬をも超えてしまうのだ。今それを口にしても、やっぱり美味しい。なんならこれまで食べたあわまんじゅうの中で一番美味しいと思ったのは、昨日買って食べたものだ、と間違いなく言える。そして既に冷凍庫で眠る分を「ミニ粟ぜんざい」として味わうのも楽しみだ。願わくば今度は出来たてを現地で、と未来に思いを馳せることさえ出来る。

小池菓子舗さんは昨年コロナ禍で休業を余儀なくされながらも営業を再開されて、首都圏での出張販売も再び実施してくれるのが本当にありがたい。今月の23日まで、新宿高島屋、浦和伊勢丹、上尾丸広百貨店で催事が出ているので、もし気になった方はぜひ。

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