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ブロック・プレーの過去・現在・未来【4/5】

ブロック・プレーの過去・現在・未来【3/5】からの続きです。

ブロック・プレーのシステム

さて、ここからはブロック・プレーを効率的・効果的に遂行するために必要なシステムについて考えていきたい。ブロック・システムについて考えるときには、3つの構成要素についての理解を深めておく必要がある。1つずつ見ていきたい。

1.ブロックすべき対象

ブロック・プレーを遂行しようとするときに、何を対象として行うかという点は重要な視点だ。その方法には下記の2つがある。

▶︎マン・ツー・マン(人)
その呼び名の通り、アタッカー1名をブロッカー1名が担当するもの。相手アタッカーの動き(アプローチ&ジャンプ)に連動して動くことになる。つまり、担当するアタッカーの動きに合わせて、ブロッカーの動きも決定されるということである。

誰が誰をマークするのかが明確になるというメリットがある一方、相手アタッカーが交錯してアプローチしてくるような場合(例:ミドル・ブロッカーのBクイックとアウト・サイド・ヒッターのセミ・クイックによる時間差攻撃)についてはブロッカー側の対処が困難になる。

現代バレーボールではバック・アタックを含め4名ないしは5名のアタッカーが攻撃に参加することが当たり前になっている。そのため、3名のブロッカーがマンツーマン・システムで対応しようとしても数的劣位に陥るため、マンツーマン・システムは主流ではないと言える。

また、そもそも論として攻撃参加してくる相手アタッカーが3名以下であったとしても、マンツーマン・システムでは、1人のアタッカーに対して複数人のブロッカーがブロックに跳べないことが常態化するという脆弱性も孕んでいる。

▶︎ゾーン(範囲)
ブロッカー3名が9m幅の内、それぞれ割り当てられたゾーン(範囲)を担当するもの。ミドル・ブロッカーの担当するゾーンが広くなるのが一般的である。ゾーンをディフェンスするという考え方であるため、ブロッカー同士が交錯することは有り得ない

また、現代バレーボールでは4枚ないし5名のアタッカーに対して3名のブロッカーがいかに効果的に対処できるかが重要である。ゾーン・システムのコンセプトは範囲(担当するコート幅)をディフェンスすることにあるので、攻撃参加人数がブロッカー3名の枚数を上回っていることは問題にならないと言うこともできなくはないだろう。それゆえ現代バレーボールにおいて、ゾーン・システムは主流となっている。

上記、いずれの方法においても相手コートにボールを落とす、ないしは自コートにボールを落とさないことを目的として、常に相手コートにあるボールに対応してプレーするという点については変わりない。

2. ブロック・シフト

組織的なブロック・プレーを遂行しようとするときに、どのようなシフトを組むのか、つまりブロッカー3人がどのようなイニシャル・ポジションをとるのかを考える必要がある。このポジショニングを決定づける変数は多く、相手アタッカーや自チームの状況などによって柔軟に変更する姿勢を持つことが大事だと言える。そして、この変数について考える際に重要な視点が「離れたスロットの攻撃に対してどれくらい対応できるか」という点である。イニシャル・ポジションからアタッカー(ボール・ヒッター)位置までの最適な移動方法と跳ぶ方法を選択し、そしてこれらの習熟度及びフィジカル・レベルに合ったブロック・シフトを選択することが重要である。

▶︎バンチ(束)

ブロッカー3人がコート中央部分に接近してポジショニングするシフト。コート中央部から繰り出されるファースト・テンポの攻撃(例:AクイックやBクイックおよびコート中央付近からのバックアタック)に、3人のブロッカーが優先的に対処し、その後に両サイドから繰り出される攻撃に対処しようという意図がある。コート中央付近からの攻撃の方がタイミング的に早く、両サイドからの攻撃が遂行されるまでは時間的猶予があり、移動して間に合う場合が多いためである。現代バレーボールにおける世界トップ・レベルのチームでは、このバンチ・シフトが標準的に採用されるケースが多い

▶︎スプレッド(分散)

ブロッカー3人が分散してポジショニングするシフト。サイド・ブロッカーはアンテナ付近まで広がり構える。3人のブロッカーが分散してポジショニングすることによって、コート幅を最大限に利用した両サイドからの攻撃にも最低1名のブロッカーが対処することが可能となる。その反面、コート中央部からのファースト・テンポの攻撃に対するサイド・ブロッカーの対応(サポート)ができなくなるというデメリットが出てくる。また、両サイドのアタッカーのヒット位置で待ってしまい、助走を活かして跳ぶことができず「その場跳び」になる傾向にもある。さらに、ヒット位置にブロッカーが最初から待機していることにより、両サイドのアタッカーにアプローチ段階から戦術的思考の猶予を与えることになってしまうというデメリットもある。

▶︎デディケート(専念)

バンチ・シフトから派生したもので、バンチ・シフトをそのままいずれかのサイド側に寄せるシフト。相手の攻撃できる前衛アタッカーが2名しかいないような場面で利用されるケースが多い。また、相手チーム内に特別秀でて攻撃力の高いアタッカーがいるようなケースでも使われることがある。

3. 判断のタイミングと基準

最後にブロック・プレーを実現する上で欠かせない、判断のタイミングと基準による3分類について説明する。

▶︎リード(読む)
セッターがセットしたボールを見て、どこでどんな攻撃がされるかを判断して動き、ジャンプする方法。シー・アンド・レスポンス(SEE&RESPONSE)やシー・アンド・リアクト(SEE&REACT)と呼ばれることもある。相手チームのことをよく見ること(SEE)が極めて重要になってくる。アイワークの基本として、下記のようにアルファベットの頭文字をとって、「BPPBP」と表現することがある。リード・ブロックは現代バレーにおいての標準的な戦術と言えるだろう。

▶︎コミット(委託)
セッターではなくアタッカーの動きに合わせて反応してジャンプする方法。
コミットは「委託」の意味がある。多くの場合、ミドルブロッカーのファースト・テンポによる攻撃への対処のために用いられる。リード・ブロックとは違い、セッターによってセットされたボールを見ることなく、アタッカーの動きに反応してブロックを形成するため、ボール・ヒッターが誰かという読みが外れてしまうと、ブロック・プレーの効果はほぼなくなるというリスクがある。

事前に、特定のローテーションにおいてどのアタッカーが攻撃する可能性が高いのかという統計データが揃っている場合であれば、チーム戦術として、変則的にコミットブロックを採用することも有効になることがあり得る。現代バレーのトップレベルでは、バックアタックを含む4〜5名のアタッカーが同時に攻撃参加することが標準的であるため、コミット・ブロックを標準的な戦術として採用しているチームはほぼ皆無と言ってもよいだろう。

▶︎ゲス(推測)
相手チームの状況からどのアタッカーにセット・アップされるかを推測して、セッターの
セット・アップ前に直感的に(勘で)移動してジャンプする方法。ゲスには「推測」の意味がある。基本的に、セット・アップ前に移動することからアタッカーの動きに反応して移動・ジャンプすることが多いため、コミット・ブロックと混同されることがしばしばある。しかし、統計データ等を活用し、相手セッターに振られることも想定した上で戦術的に用いるコミット・ブロックとは似て非なるものとなる。

ゲス(推測)が成功して、ゲス・ブロックが成功することもあるが、逆モーションのステップを踏んでしまったり、無駄な動作が加わることによって、相手アタッカーに対する反応が遅れてしまうケースも起こりがちだ。またゲス・ブロックの特徴は、同チームの他ブロッカーやディガーとの連携をしないことであり、つまりはチームとしてのトータル・ディフェンス体制構築を放棄することに他ならない。
ゲス・ブロックは、プレーヤー個人の勝手な判断で行うスタンド・プレーの一つと言えるのかもしれない。

4. 世界標準的システム

ここまで「ブロックすべき対象」「ブロックシフト」「判断のタイミングと基準」について解説してきたが、現時点における世界標準的と言えるだろうブロック・システムについて言及しておきたい。

まず、結論から言うと、それはゾーン・バンチ・リード・システムである。

なぜそのようになっているのかを理解するためには、現在の世界標準的なアタック・システムについて知る必要がある。先にも何度か述べたが、現在世界のトップレベルにおいて、セッターとリベロを除く、4名ないしは5名が前衛・後衛関係なく、ファースト・テンポで、それぞれのスロットから攻撃参加することがイン・システムにおいては標準的だと言える(同時多発位置差攻撃)。

こうした相手チームの攻撃力が最大化した状況に対して、最も効果の高いブロック・システムは何かということを突き詰めていくと、ある種の最適解が出てくるように思う。

ブロックシステムを考える際のポイントは「ブロックすべき対象」「ブロックシフト」「判断のタイミングと基準」の3つとなる。

まずは「ブロックすべき対象」だが、「マンツーマン」と「ゾーン」の二者拓一となる。相手チームの攻撃参加人数が4名ないしは5名になることを想定するならば、「マンツーマン」では対処しきれないことは明白だ。よって、ここでは9メートルの「ゾーン」を3名のブロッカーでディフェンスするということになる。

次に「ブロック・シフト」だが、「バンチ」「スプレッド」「デディケート」の3つの選択肢がある。相手セッターがボール・セットしてからアタッカーが最短時間でヒットする攻撃はセンター・ポジションからの速攻(AクイックやBクイック、さらには後衛からのビッグなど)となる。相手の最速と思われる攻撃から優先的に対処しようとすると「バンチ」シフトが最も合理的と言えるのだ。

最後に「判断のタイミングと基準」だが、「リード」「コミット」「ゲス」の3つの選択肢がある。ここでも相手チームの攻撃参加人数が4名ないしは5名になることを想定するならば、数的劣位(アタッカー4名or5名VSブロッカー3名)の状況下でできる限り、最終的にボール・ヒットするアタッカーに対し多くのブロッカーを割り当てることを目標とするのであれば「リード」ブロックが最も効果的だと言えるだろう。

上記、3要素を一つ一つ検討してみると、一般的な最適解が「ゾーン・バンチ・リード・システム」になることはご理解いただけるだろう。ただ、もちろんこれがいかなる場合も最適解になるということはあり得ず、ゲームの状況やプレーヤーの特性など様々な要因によって、ブロック・システムの最適解は変化するということは大前提として頭に入れておく必要がある。試合状況に応じた最適解を見出すためにも、ブロック・プレーのためのシステムをよく理解しておくことが重要なのである。

ブロック・プレーの過去・現在・未来【5/5】へ続きます。

※本記事は以下3名の共著となります。著者プロフィールは50音順。


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