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バレーボールにおけるLTAD#3

「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第3回です。

前章にて、バレーボールの導入(Engagement)時期と方法について考えてきましたが本章では、バレーボールへの特化(Specialization)時期について考えていきたいと思います。

特化(Specialization)時期 について

前章の冒頭部分で触れたようにバレーボールは遅い特化が推奨されるスポーツだと言えます。

LTADモデルにおいて、バレーボールは早期導入 (Early Engagement)、遅い特化(Late Specialization)が推奨されるスポーツだと言えます。

バレーボールにおけるLTAD#2

それでは、なぜ遅い特化が推奨されるスポーツだと言えるのでしょうか。考えていきたいと思います。

親切な学習環境と意地悪な学習環境

デイビット・エプスタイン氏は『RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる』の中で、あらゆるキャリア形成(仕事やスポーツなど)において早期に専門特化すべきである領域と早期に専門特化すべきではない領域が存在すると述べています。そして、その領域が親切な学習環境か、それとも意地悪な学習環境に属するのかによって専門特化すべき時期が決定されると主張しています。

まず親切な学習環境とは、ルールが明確かつ厳格で、同様のパターンが何度も繰り返され、成否のフィードバックが正確に即時的に提供されるような環境と言えます。この具体的な例としてスポーツであれば、ゴルフやビリヤードといったものが挙げられるでしょう。

これに対して、意地悪な学習環境とは、状況が刻一刻と変わり予測不能な出来事が常に起き、同じパターンを繰り返すことが少なく成否のフィードバックにも曖昧さが残ってしまうような環境と言えます。この具体例としてスポーツであれば、テニスやバスケットボール、そしてバレーボールといったものが挙げられるでしょう。

意地悪な環境で成功したロジャー・フェデラー

そして本書では、誰もが知るトップアスリートであるテニスプレーヤーのロジャー・フェデラーが、意地悪な環境(テニスというスポーツ)で成功していくまでのプロセスについて詳細に書かれているのですが、要旨をまとめると次のようになります。

『彼は幼少期からテニスだけではなく本当に様々なスポーツに興じており、幼少期からプロのテニスプレーヤーを目指していてわけでなかったようだ。そして、テニスに集中して取り組み始めたのも日本の学齢でいうと中学校に入ってからである。そんな一般的なトップアスリートのイメージとはかけ離れたキャリアを歩んできた彼は、トップアスリートが引退していく年齢の30代半ばで世界ランキング一位をとっている。』

意地悪な環境で成功するには様々な体験が必要

では、彼がトップアスリートとしての成功を掴んだ要因はどこにあったのでしょうか。それは、テニス以外の様々なスポーツを通じて得た多様な体験であると書かれています。意地悪な環境(テニスというスポーツ)の中で成功するために、様々なスポーツを通じて学習してきた解決方法や獲得したスキルを総動員したというわけです。もしも、テニスというスポーツだけに早い時期から専門特化していれば決して獲得のできなかったものを彼は、様々なスポーツを楽しんでプレーすることで知らず知らずのうちに獲得していていたのです。

一見非効率に見えるような学習プロセスにも感じますが、意地悪な環境においては、様々な体験や知識の「幅」を拡げることが長期的な視点に立ってみたときに成功には不可欠であり、合理的だと言えるのです。

様々な体験をすることによる大いなる副産物

また、早期に専門特化しないことによるメリット(副産物)は想像以上に大きいと言わざるを得ません。まず、怪我をしにくくなるという点が挙げられます。多様なスポーツに取り組むことで身体の特定部位に過剰な負荷がかかってしまうことも起こりにくくなるため、怪我のリスクは下げることができます。また、様々なスポーツに取り組むことによって、結果的に満遍なく身体を使うことで身体をバランスよく鍛えることができます。JVA(日本バレーボール協会)が発刊するコーチングバレーボール(基礎編)にも、次のように書かれています。

3-1『体力面から子どもを理解する』

身長急進期以前は、さまざまな動きを通じて身体をつくることが大切であり、身長急進期にさしかかる頃から呼吸循環器系の発達に合わせてスタミナ作りを始める。長軸方向への成長がとまり、筋肉の発達も終わった頃から、骨や筋肉に強い負荷のかかるパワー作りが始められるとしている。

コーチングバレーボール基礎編」(公財)日本バレーボール協会編(p.59).大修館書店

バレーボールはジャンプなど高いパワーが要求される競技なので、専門特化するのはパワー作りができてからにすべきと言うことができるでしょう。

また、多様なスポーツに取り組んでいく中で、自然と自分の特性や性質に合ったスポーツに出会う可能性も高くなり、自分自身がより高いパフォーマンスを出すことのできるスポーツを最終的に選択するということにも繋がります。

こうして考えてみると、子ども時代に多様なスポーツを経験することには多くのメリットがあることが分かります。

▶︎雑賀雄太のプロフィール

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。