【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 19/30
あおいさんとねんごろになったあと、どちらかの気が向かない時は、いっしょに寝るだけだった。こちらの気がむかないときも、じつはあったけれども、そこはほんのすこしだけの、雀の涙ほどの、男気を発揮することにした。
やはり、どこかでじぶんだけのものにならないかという想像はしてみるものの、実行することはなかった。
赤文字系雑誌に触発されてあおいさんに告白して以降、ぼくたちの関係性について、彼女がコメントすることはなかった。
もし真剣に「ぼくのものになってくれますか?」なんて言ったら「ぼくのもの、っていう発想が図々しいわ。わたしはわたしで、あなたはあなた。だれのものではないのよ」と怒られそうな気がした。
それにぼくには、ちょうど仲良くしている女性がもう一人いた。だから、付き合おうとすると、話がややこしくなるので、あおいさんと形式的な関係をもちこむことには、さらに消極的になった。
でも、あおいさんの方はどうだったんだろう。もし仮にぼくが熱心にアプローチしていたらどうなっていたんだろう。付き合ってやってもいいんじゃないか、くらいには彼女は考えていたのだろうか。
でもたとえ仮に、付き合えたとしても、彼女は彼女なり人生のセオリーをもっていたから、長続きはしなかっただろう。
露骨ないいまわしをすれば、やれればいい、という部分はある。お互いにそういう気持ちはあっただろう。
でも、そのやりたい気持ちにもお互いへの尊重があった。それに加えて人間としても好きなのだから、ぼくの人生のなかでも、とても貴重で、とてもふしぎな人間関係だったとおもう。
ぼくらは、一般的な交際のような、お互いの時間と気持ちを独占した関係ではなかった。ぼくが自由な人間関係を享受しているのと同様に、あおいさんにも、ぼく以外のパートナー、たとえば亮介さん、そしてまだ知らぬ第三者の存在があったかもしれないのだから。
嫉妬に似た感情はそこに生じるけれど、その感情をうったえる権利はない。だから仕方ないと割り切っていたし、お互い様だとおもっていた。だけど、一度、あおいさんに第三者の存在について聞いてみた。
「いい質問ですねえ」といって、あしらわれた。
以上のような、いろんな、複雑な、事情があって、ドバイ滞在中は、なんとも言えない気持ちになった。
ーーー次のお話ーーー
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