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【選挙放浪記】2023年 大阪府・堺市長選挙 感想

 5月21日告示、6月4日投開票で堺市長選挙が行われた。
 今回は再選を狙う維新現職の永藤ひでき氏と、連合が推薦し「非維新」諸政党の関係者が応援する、無所属の野村ともあき氏の2度目の戦いとなった。
 1ヶ月半前の統一地方選で維新が各地で躍進したとはいえ、維新が勝利したのは前回が初めてというこの選挙で、一騎打ちを制するのはどちらであるかが注目された。

 本稿では実際に各候補者の街頭演説等を聴きに行き、その時に抱いた感想等をまとめる。

●永藤ひでき氏(現・維新)

 永藤ひでき氏は維新公認の現職である。

 現職らしく、演説では「コロナ対策」「事業整理」「市の広報の改善」等の実績を主に訴えていた。
 また特徴的だったのは、演説の中で「挑戦」「改革」「未来」といったポジティブな印象を伴う単語を多用していた点である。この演説手法や本人から醸し出される柔らかい雰囲気も相まって、私には全体的に「明るさ」を感じることのできる候補に見えた。

※永藤氏の演説(選挙ウォッチャーちだい氏撮影)。私もこの場にいた。

 しかしその他の演説内容は、「過去の悪い市政」と「良い未来」との単純な二項対立や、大阪府・大阪市との連携を訴えるといった「いかにも維新」なものであり、現職にも関わらず単なる「量産型の維新候補」のそれにしか見えなかった。前述の実績の強調を除いて「永藤氏独自の主張」が乏しかった点は非常に残念である。

 また、フリーランスライターの畠山理仁氏が上記記事で「維新の候補やボランティアは「元気に走り回ってよく動く」」と評したことから、今回は選挙スタッフにも着目してみた。

 彼らは演説会場等でのビラ配りや旗持ち、通行人への挨拶等と役割分担が明確になされており、氏が指摘する通りエネルギーに満ち溢れてキビキビと働いていた
 確かに野村氏陣営のスタッフも精力的に動いていたのだが、エネルギッシュさという点では永藤氏陣営が彼らを大きく上回っていたように見えた
(彼らの平均年齢が永藤氏陣営のそれよりも明らかに高かったこともあるだろうが)。
 そして彼らの働きを目の当たりにして、私は「有権者の大半は、この明るく熱心なボランティア達が属する永藤陣営に好感を持つだろう」と感じることができた。やはり維新によるボランティアを用いた「地上戦」は、決して侮ってはならないのである。

●野村ともあき氏(新・無所属(連合推薦))

 野村ともあき氏は元自民党所属の堺市議である。

 彼の演説のメインテーマは「永藤市長による『維新市政』の批判」。ここでは永藤氏による「おでかけ応援バス」や「給食無償化」といった住民サービスの大幅削減、俗に言う「身を切る改革」を攻撃していた。
 そして訴えた政策は「行政サービスの復活及び拡充」。これについては

サービスを拡充して住みやすい市にする
→市への転入者が増える
→経済活動が活発になり税収が増える
→更なるサービス拡充が可能になる

と、「拡充すべき理由」を具体的なプランと共に合理的に説明していた点は評価できよう。

 だがここで考えていただきたい。これらの訴えを聴いた有権者はどう感じるだろうか?

 まず「維新批判」。確かに「非維新」の候補としてこれは必ず訴えなくてはならないし、実際野村氏は演説のかなりの時間を維新への攻撃に割いていた。
 だがあまりに長時間、執拗に攻撃をしていたことから、維新に批判的な私でさえ「『維新批判』の分量が多過ぎる」と辟易してしまった。
 ましてや普段政治に関心の無い有権者がこの演説を聴いた場合、「あの人、市長さんの悪口ばっかり言ってるよ」と、ネガティブな印象を持つのではないだろうか。演説での野村氏の主な主張が、寧ろ彼にとってマイナスに働いたのではないか、という可能性は指摘しておきたい。

 また「サービス拡充」については、これは「身を切る改革」に対する当然の代替案ではある。だが、これは悪い言い方をすればまごうことなき「バラマキ」である。
 維新には「バラマキ政治」を批判して「身を切る改革」を訴え、支持を獲得してきた歴史がある。にもかかわらずその「バラマキ」を公約とする野村氏の姿勢は、維新や有権者からの「『昔の悪い政治』に戻そうとしている」との批判を免れることは難しいのではないだろうか。

 無論どちらも維新への対抗馬なら当然訴えるべきものではある。だが本来野村氏に必要だったものはこれらに加えて「維新に代わる、新しく魅力的な政策ビジョン」である。
 彼はこれに乏しく、選挙戦では終始「他の候補への悪口」「『古い政治』への回帰」とでも形容可能な訴えしかできていなかった。これでは、彼が維新に無残に敗北するのは必然だったであろう。

※野村氏の演説(選挙ウォッチャーちだい氏撮影)。私もやはりこの場にいた。

 また野村氏の陣営の様子を見ると、自民党所属の堺市議らがしばしば応援演説に立っていた他、共産党員らしきグループが、維新を批判するプラカードを掲げてシュプレヒコールを上げる、いつも通りの選挙運動を展開していた。
 他にも、立憲民主党の森山浩行衆院議員や、連合の芳野友子会長らの為書きが事務所に貼られており、いかに「非維新」諸勢力が野村氏の下に結集していたかがありありと伝わってきた。

 しかしこれも見方を変えれば、まさに維新がかねてから批判してきた「野合」そのものである。もしも野村氏陣営がこの批判に対抗できるだけの組織力を発揮できないのならば、この「結集」はただ野村氏の弱みを増やしただけに終わることであろう。

中西勇太・吹田市議による、
野村氏のツイートのリツイート。
選挙戦で参政党関係者が野村氏を応援した
数少ない事例である。

 なお今回私が「参政党ウォッチャー」として最も確認したかったのは、「野村氏は参政党から何らかの支援を受けているのか」という点である。なぜなら彼は大阪府知事選において、参政党の吉野敏明候補の応援演説をしていたのである。
 だが野村氏の事務所には、参政党関係者からの為書きは確認できなかった。またSNSを見た限りでは党関係者が野村氏の応援に行った様子はなく、せいぜい党に所属する中西勇太・吹田市議が野村氏のツイートをリツイートした程度である。

 実際のところ、野村氏からは「参政党っぽさ」は全く感じられなかった。もしかすると、府知事選については単に同じ「非維新」だから応援しただけだったのかもしれない。
 しかしながら、よりによってあの参政党と共闘した点で、彼のセンスには疑問符が付いてしまったことは強調しておきたい。

選挙後、参政党のイベントに参加する野村氏。
出典

 因みに、本稿の執筆をサボっていたが滞っていた間に、野村氏は参政党のイベントに参加した模様である。参加した理由は不明だが、もしかすると野村氏は選挙結果にショックを受けた結果「おはよう」してしまったのかもしれない。もし本当にそうならば、私としては彼に大いに失望するところである。

●選挙結果と総括 ~「非維新」はいい加減戦術を変えよ~

 選挙結果は永藤氏が野村氏を所謂「ゼロ打ち」で破り勝利した
 また両者の得票数の差も前回と比べると14,091票から51,218票に広がった。前回は今回より投票率が高かったことや、第三の候補者が一応存在したことも考慮すると、この票差の拡大は「維新が『非維新』に圧勝した」と評価することを可能にするものであろう。

 野村氏の敗北の原因としては、「自民府連が党の直轄で立て直しに追われるなど足並みがそろわ (1) 」なかったことが指摘されており、陣営の問題も当然あっただろう。だが私としては野村氏の訴えに有権者への魅力が皆無であったからだと主張したい。

 前述の通り彼の訴えは「維新批判」と「サービス拡充(≒バラマキ)」に終始し、「維新スピリッツ」にとって代わる新しいビジョンを何ら示せなかったという、大阪府知事選の「非維新」陣営と全く同じパターンに陥っていた。
 そして今回の野村氏の惨敗を通して、今や「維新王国」となった大阪でこの戦術で維新に勝利することは不可能だということが改めて証明されたと言えよう。

 今後大阪府内では枚方市長選や東大阪市長選などが予定されており、いずれも「維新vs『非維新』」の構図になるのではないかと思われる。
 ならば、「非維新」諸勢力は早急に結集し、維新に代わる明確な政策ビジョンを作成しなくてはならない。現状の単なる「維新嫌いの既存勢力の野合」で今後も選挙戦を戦うのなら、彼らは近い将来、維新によって再建不可能なレベルまで壊滅させられることになるであろう。

※註

(1) 毎日新聞 2023/6/5 「維新、総力戦で堺堅持 永藤市長再選 非維新足並み乱れ」
https://mainichi.jp/articles/20230605/ddn/041/010/008000c 

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