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参政党ウォッチャー、大阪を彷徨う 〜2023年 大阪府知事選 感想〜

 3月23日告示、4月9日投開票で大阪府知事選挙が行われた。
 今回は大阪において(なぜか)圧倒的な人気を誇る吉村知事が再選を目指して出馬したため、いわば彼の立候補表明の時点で結果が確定した選挙である。
 しかし前回と異なり「非維新系」の候補者が共産党系と非共産党系で分裂した上、政治家女子48党(旧N国党)や新党くにもり、そしてあの参政党をも候補者を擁立した結果、無意味に騒がしい選挙となった。

吉村 洋文     47 大阪維新の会
谷口 真由美    48 アップデートおおさか
たつみ コータロー 46 日本共産党(推薦)
吉野 敏明     55 参政党
さとう さやか   34 政治家女子48党

稲垣 ひでや    53 新党くにもり

 本稿では、実際に各候補者の街頭演説等を聴きに行き、その時に抱いた感想等をまとめる。
 なお選挙の取材は本業ではないため、無用のトラブルを避ける目的から選挙広報以外の写真等の掲載は控える。そのため相当に読みづらい感想文となってしまうがご了承いただきたい。
 また通常のネットでの活動と異なり参政党以外の記述が多い点にもご注意いただきたい。

1. 吉村洋文氏 ~圧巻の現職「吉村はん」~

ビジョンははっきりしている吉村氏

 大阪維新の会代表、日本維新の会共同代表にして、圧勝が確実視された現職。

 実際に見に行くと、演説は抜群に上手い。(内容はともかく)話しぶりは「新鮮さ」と「力強さ」に溢れながらも、関西弁を混ぜながら聴衆を笑わせ「親しみやすさ」もアピール。この高度な演説は他の候補者にはほぼ見られなかった。
 そして維新らしく、「既得権益」vs「改革の維新」という単純な二項対立も前面に押し出すが、その際も敵を「批判」するというより「揶揄」していた。後述する通り候補者には敵を「罵倒」する者もいたが、吉村氏のスタイルなら聴いていても不快感は少ないだろう。

 話の筋も分かりやすい。

「これまではひどい府政だった」
→「維新の改革によって、大阪は発展している」
→「ここから更に改革を進めたい」

と、基本的に過去・現在・未来のはっきりした構成であり、非常に話の流れをつかみやすいと感じた。
 また「経済成長により税収を増やし、それをもとに子どもへの投資を行い更なる成長に繋げる」という、極めて合理的な未来図も提示。彼の考える「こんな大阪にする」という考えが容易にイメージできる演説であった。

 なお、聴衆は他の候補と比べ明らかに多く、また若者の姿が目立った。特に「吉村さんだ!」と、途中から候補者の演説を聴きに来る人をこの選挙で始めて見ることができ、(実績や主張はともかく)「さすが大阪のスター『吉村はん』だ」と思えた。

2. 谷口真由美氏 ~「非維新」の象徴にはなりきれず~

具体的な政策が分かりづらい谷口氏

 非維新・非共産系の政治団体「アップデートおおさか」が擁立した法学者。本来「非維新」勢力を結集すべき候補者のはずだったのだが、実際はそのような候補者になるには難のある人物であった。

 確かに話慣れはしているが、基本的に柔らかく語り掛けるスタイルのためインパクトに乏しい(あればいいというものではないのだが)。そのため肝心の「維新政治の批判」を行っても迫力がない。終盤では鋭い批判もするようになったのだが、結局「非維新」の象徴になるには物足りない候補という印象がぬぐえなかった。

 主張についても、確かに言っていることは正しい。だが、彼女の「こんな大阪にしたい」というビジョンは「ごきげんさんでふくよかな大阪」のような抽象的なスローガンと、「情報公開」を筆頭とするスケールの小さい政策で構成されており、知事選の候補なら提示すべき「実現したい理想」が具体的には見えづらかった。      
 維新が圧倒的に強い大阪において非維新候補に求められるのは「維新に代わる政策ビジョン」である。このビジョンが終始不明瞭であった谷口氏が維新不支持の有権者の心をつかめなくとも納得できよう。

 また戦術として「ガラス張りの選挙事務所」「市民も加わってのラウンドテーブルの実施」等で「市民参加」を謳っていたことは特筆できよう。しかし私が見たところ、これが刺さるのはごく一部の政治意識の高い者だけである。残念ながらこの戦術も支持拡大には寄与しなかったと思われる。

3. たつみコータロー氏 ~候補者と陣営の残念なギャップ~

主張、政策、全てが明確なたつみ氏

 元参議院議員で事実上の共産党系候補。政治経験のない者が乱立した非維新系勢力の中で唯一、良い意味でも悪い意味でも「オーソドックスな候補者」であった

 職業政治家だからか演説は吉村氏に次いで上手い。後述するように明確な主張を持っているからか口ぶりには自信や力強さが感じられた。特に最終日のある演説では「熱気」や「迫力」がひしひしと伝わってきており、気が付けば話を聴きながら何度も訴えに頷いていた。

 主張は「IR撤回」「教育や医療・介護の環境改善」「省エネ・再エネ事業の推進による経済成長」等と具体的であり、演説では数字も用いながらこれらを訴えていた。政策の実現可能性はともかく、このように「維新政治と全く異なる政治」という理想をはっきりと語った点で、他の候補者とは一線を画す。
 他にも「演説のYouTubeでのライブ配信」「演説後に30分間の質問コーナー実施」等、「新しさ」を出そうとしている姿勢がよく分かった。正直なところ、本人だけを見れば吉村氏に対抗可能なただ一人の人物にさえ見えた。

 だが彼の場合は陣営が良くない。演説中も周囲を見れば、高齢のスタッフらが「カジノはキッパリ中止」だの「多様性を大切に」だのと書いたカラフルな看板を持って立っており、演説が終われば皆で集まり「カジノにはんたーい!」等のシュプレヒコール。
 本人達は真剣に活動しているつもりなのだろうが、私には彼らから「一般の有権者に訴える」という意思が感じられず、単に内輪で集まって騒いでいるようにしか思えなかった。この周囲からの異質さを際立たせるような自己満足の運動では、大多数の有権者は寧ろ彼らを敬遠するだけであろう。
 今後たつみ氏がどう活動するのかは不明だが、再び選挙に出る場合は彼の陣営を含め、一般の有権者に正しく接近し、彼らが受け入れることのできる選挙戦を展開すべきである。さもなくばたつみ氏らは永遠に社会から乖離した集団に成り下がるであろう。

4. 吉野敏明氏 ~「憎悪」と「講釈」に効果はあるのか~

演説とは違って🟠的な政策を訴える吉野氏

 歯科医師でありながら自称「総合クリニック院長」。そして我が観察対象「参政党」の外部アドバイザー。そもそも今回、府知事選を追おうと決意したのも彼の出馬が大きい。

 今回の選挙での彼の演説は大体2つの内容から構成された。
 1つは「維新批判」。これは他の非維新系候補も行っているのだが、吉野氏の場合は「批判」というより、「憎悪」を全面に出す攻撃的なスタイルであった。真偽不明の「真実」を根拠に維新を「大阪を破壊した絶対悪」に位置付け、彼らへの怒りをもって聴衆を熱狂させる戦術だったと思われるが、他の候補と比べても「憎しみ」といった負の感情がむき出しであり、支持者以外の聴衆が辟易するのではないか、と感じた。この点前述の通り「敵」を攻撃するスタイルは共通ながら、「罵倒」ではなく「揶揄」する吉村氏とは対照的である。

 そしてもう1つにして彼の演説で最も特異な点であるのが「信憑性の疑わしい講釈」である。
 内容は私が確認しただけでも「鮭の生態」「イヌイットの食文化」等。それぞれ「男女の伝統的役割分担への賛美」「西洋より優れた日本食」といった「日本文化スゴイ」の文脈での話ではあるのだが、不必要なまでに長く、場合によっては持ち時間の大半を費やしていた。特にマイク納めの際、直前まで神谷宗幣・党事務局長らが聴衆を煽りに煽っていたにも関わらず、「細菌と細胞」等の講釈を30分以上繰り広げた結果、折角神谷氏らが製造した熱狂が落ち着いてしまったように見えた。

 しかしながら、これは選挙での演説として機能したのか?
 吉野氏が出馬した理由は「大阪で真実を伝える」が建前である以上、確かにこれらの講釈は動機に沿っている。だが支持者はともかく一般の有権者でこのダラダラとした説教に対し、足を止めて聴こうとする者は少数ではないか?最近の参政党の活動に対し、「支持拡大を諦め、支持者の囲い込みがメインになっている」との意見を見ることもあるが、今回の選挙戦はまさにその意見を補強するものとなったように思える。

 もう一つ指摘しなくてはならないのは、「演説において具体的な政策が語られたことがあまりにも少ない」ということだ。政策については「維新政治の全面否定」以外にはほとんど語らず、大阪府知事になって一体何がしたいのか極めて曖昧であった(終盤で「ヨシノミクス」なる経済政策を掲げていたが)。
 だが、知事候補が本来示すべき「維新政治に代わる政治」を、「大和魂を取り戻す」等のスローガンをもって抽象的にしか示さず、ひたすら「言いたいこと」だけを絶叫しても、ほとんどの有権者には響かないであろう

 なお今回、吉野氏の演説は合計7回聴いたが、どの演説でも参政党の象徴とも言える「反マスク」「反ワクチン」にはほとんど触れなかった
 この戦術に関する考察は別稿に譲りたいが、この「党の看板たるトンデモ論」の集票力が参院選前後と比べ後退している、と陣営が判断した可能性がある点については、ここで指摘しておきたい。

5. さとうさやか氏 ~評価不能ながら最低評価~

党が用意したフォーマットを
そのまま使っているようにしか見えないさとう氏

 薬剤師、そして何故か台東区議選の候補者でもある。

 今回の府知事選で唯一会えなかったのがさとう氏である。なぜなら大阪に来たのが告示日のみだったからである。本人としてはこの選挙は台東区議選に向けての宣伝活動の一環に過ぎなかったのか、結局投開票日まで府外で活動していた模様である(なお区議選でも落選)。

 直接会えなかった以上彼女についての記述は控えたい(そもそも私が何かを書けるほどの訴えはなかったようだが)。だが彼女が当選する気がないことを隠そうともしなかった点、何よりも「候補者やその陣営の話を直接聴く」という有権者としての当然の権利に唾を吐きかけた、という点は強調しておきたい。

6. 稲垣ひでや氏 ~泡沫の悲哀~

結局、ここに書かれたこと以外の話を
全くしなかった稲垣氏

 極右系政治団体「新党くにもり」関西代表。論外のさとう氏を除けば府知事選唯一のいわゆる「泡沫候補」であり、その実態をまざまざと見せつけられた。

 彼の主張は結局のところ「我々は中国が憎い。だから中国の手先である維新を打倒し、自主核武装によって中国に対抗しよう」というものしかない。彼個人の演説はだいたい20分ほど行われるのだが、20分間この内容を繰り返すのみ
 2~3名の弁士による応援演説も行われるが誰も彼もほぼ同じ内容しか話さない。稲垣氏の陣営は他の候補者と異なり1時間以上も同じ場所で演説をすることもあったが、30分も聴けば欠伸が出てきた

 たまに「(チャンネル桜以外の)メディアはゴミクズ」「我々は初の国産政党」等、これ以外のことも主張していたが、私にとっては聞き覚えのあるフレーズばかり。「参政党から『国の守り』だけ取り出して反中思想を強め、核武装で味付けをした」というのが、私の印象である。

 肝心の聴衆は、たとえJR西日本で最多の乗降客数を誇る大阪駅であろうが10名もいない。スタッフもビラ配りすら満足にできない者が混じっており、「これが泡沫候補か」と、その悲哀を感じることができた。

 なお、大阪府知事選において自主核武装を訴えることの意味不明さについては、もはや言うまでもないだろう。

総括1 ~「非維新」はビジョンを提示せよ~

吉村氏の予想以上の圧勝に終わった
大阪府知事選(出典

 今回の結果は予想通り吉村氏が20時ちょうどに当選確実になった上に、過去最多の得票を得て圧勝した。谷口氏は吉村氏の5分の1の票しか得られず惨敗し、たつみ氏に至っては得票率が10%を下回る有様であった(吉野氏については後述)。

 非維新系勢力の惨敗した理由について、私としては「維新政治に代わる」「現実的な」ビジョンを打ち出せなかったことにあると考える。実際谷口氏は曖昧なものしか示せず、吉野氏は抽象的なスローガン、稲垣氏は荒唐無稽な政策しか提示しなかった(何一つ打ち出さなかったさとう氏は論外)。なお唯一具体的なビジョンを持っていたたつみ氏は、政策よりも「実質的な共産党候補」という立場が嫌われたと思われる。

 大阪府民の大多数が「維新政治」に信任を与えている今、非維新系勢力が本気で維新に対抗するには、維新に代わる選択肢を明確に打ち出さなくてはならない。ただ維新を否定するだけでなく、党派を超えて「維新に代わってどんな大阪を創るのか」を真剣に考え提示し、そのビジョンを実行できる強力な候補者を育てなくてはならない。この退屈かつ困難な作業にしか、今の維新に対抗する術はないと、私は考える。

総括2 ~限界を示した参政党?~

「吉村から吉野へ」と言いながら全体の3.5%、
吉村氏の4%の票しか得られなかった
吉野氏(出典

 今回の選挙での吉野氏の得票数は114,764票と10%の得票率にすら届かなかった。私としては「谷口氏を嫌う『保守系・非維新票』の投票先になり得る」「TVの討論会に出演したことで『普通の候補者』のように認識されうる」という点から10%はギリギリ上回ると思っており、これほどの惨敗になるとは予想外であった。
 他方前回の参院選の比例区において、参政党の大阪での得票は116,189票であり、今回はそこから寧ろ減少している。前述の「保守系・非維新票」も獲得してこの結果なのだから、早くも参政党の党勢拡大に限界が見えたように思える

 また今回の出馬は特に大阪府での参政党の知名度を上げ、統一地方選での得票を増やす狙いがあった。しかし実際は大阪府内の各市議選に16名を擁立したにもかかわらず5名しか当選せず(しかもうち1名は現職)、また推薦を出した大阪府議選八尾市選挙区八尾市長選の候補者も惨敗した。この点で吉野氏の府知事選出馬の効果は限定的であったと結論付けられよう。

 無論今回は圧倒的な人気を誇る吉村氏への対抗馬としての出馬であり、通常なら参政党が獲得できる票が吉村氏に流れた可能性は十分ある。そのため今回の結果をもって「参政党の終わりの始まり」等と喧伝するのは時期尚早である。

 しかしながら私が見た通り、吉野氏の選挙戦術は既存の支持者を喜ばせるだけに留まる、いわば「独りよがり」なものである。そしてこれは党の選挙戦術に共通する性質である。
 もしも参政党が本気で党勢拡大を目指すのであれば、この戦術を見直して一般の社会に受け入れられる選挙運動を展開するべきである(もっとも、それが果たして参政党と呼べるのか、という問題はあるが)。
 今後行われる選挙でも今回のように「一般の社会から隔絶した運動」しかできないのなら、遅かれ早かれ参政党は求心力をなくし、やがて新興の政治勢力に淘汰されることになるであろう

後書き

 今回の大阪府知事選では史上初めて本気で選挙を追いかけたが、実に充実した17日間であった。特に「谷口氏の候補者としての資質」「たつみ氏の迫力」を実際に感じることができたのは私にとって大きな収穫であった。また何よりも参政党員と実際にやり取りができた点も良かった。
 一方で「選挙事務所を訪問する」という手段を知ったのが統一地方選後半になってからであったため、谷口氏の事務所開き以外どこの事務所も見学できなかったのは残念である。また肝心の吉野氏には質問はおろか握手すらお願いできなかった点も悔やまれる。

 今後は衆院選も含め様々な選挙が行われる。当面は飽きるまで参政党を中心にこれらを可能な限り追い、現場でしかできないことを体験していきたい。

 最後に、今回の選挙を追いかけるきっかけを与えてくれた参政党に心からの感謝を申し上げるとともに、党の1日でも早い政界からの消滅を深く願う次第である。

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