取材◆八尾④2024/07/18
今日は、「LINOAS」秋のビジュアルを描くための資料写真を撮りに行く日だ。秋の絵は、紅葉が綺麗な高安山と、そこへ向かうケーブルカーをモチーフにすることになった。
前回「LINOAS」夏のビジュアルを描いたことを箕面に住んでいる祖父母に教えたところ、約60年前に彼らが八尾市の恩智に住んでいたことが判明した。英語教師だった祖父が八尾の山本高校で教鞭をとり、副業(?)として信貴山にある成福院で住職をしていたらしい。八尾は全く馴染みのない場所だったが、思わぬところでゆかりがあると知りびっくりした。
高安山は八尾市だが、そこからバスで2駅行くと奈良の信貴山に着く。祖父母は年老いて外へ出かけられる状態ではないので、今回は八尾の高安山に加え信貴山へも寄ることにした。
近鉄河内山本駅で、近鉄信貴線に乗り換える。高安山がもう目の前だ。地元の人がちらほら乗っている。
信貴山口駅で降りて、山へ上る「近鉄西信貴ケーブル」に乗った。乗客はわたしひとりだ。
ケーブルカーにクーラーは無く、扇風機が頭上を勢いよく回っている。スマホが熱をもっていて怖い。急な坂をガシャンガシャンと上るうちに、もう一台とすれ違った。
今日は、暑さ対策のため下着レベルの露出度のタンクトップを着て、その上に虫除けのためシースルー素材の上着を羽織っている。
開いた窓から蚊が入ってきて、慌てて虫除けスプレーをする。汗を拭くためタオルを首に巻いた。祖父母は愛媛出身で山事情に詳しく、わたしが「高安山に行く」と言うと、「虫除けとタオルを数枚持って行きなさい」とアドバイスをもらったのが早速役に立った。
高安山の山上に到着し、改札を出て周辺を散策する。既に汗だくだが、気温は地上より低いかもしれない。スマホアプリのピクミンブルームをしようとしたが、電波が不安定だ。
周囲は「山の中」といった感じで、あまり建物も無さそうである。もう少し歩けば何か見つかるかもしれなかったが、信貴山への連絡バスを逃すと次の便が数十分後なので、そのままバスへ乗り換えることにした。
近鉄バスで信貴山へ。
これも乗客はわたしひとりだった。乗ってすぐ、2駅で信貴山へ到着。ここからは八尾ではなく、奈良である。
成福院までの距離を調べると、徒歩15分と出た。いつもなら夏は絶対歩かないが、普段外に出られない祖父母に信貴山の写真を見せてあげたい…と頑張ることに。
茹だるような暑さに姿勢を悪くして歩いていると、次々にホテルや温泉、土産物屋やごはん処などが現れて楽しくなってきた。辺りは観光地といった雰囲気で、沿道を眺めていたらすぐに成福院へ着けそうだ。
大量の涼やかな風鈴の音がして近づくと、「信貴山観光ホテル」があった。
そっとランチのメニューを窺うと、お子様ランチで2000円越えである。何個か違う店の看板を見たが、この辺りはどこも2000円台後半〜でないとごはんが食べられないようだ。一人で豪華な外食をすると寂しくなるタイプなので、650円の素うどんでもあればいいのに…としょんぼりしながら歩を進める。
扉に「火曜 定休日」と貼り紙をして、閉まっているお店があった。今日は火曜日だもんな、と納得したが本日は木曜日である。よくわからない。
歩くたびにかわいい虎のキャラクターが登場する。
ケーブルカーに虎がプリントされていたように、信貴山は虎が有名らしい。
赤い色が特徴的な「開運橋」を渡って、川を横断する。左側通行とあるが、私一人しかいないので蛇行しながら歩いた。
近くにダムがあるらしく、急に真下の景色がひらけて少し怖い。巨大で深そうな川が流れていて、スマホを落とさないように気をつけて撮影した。
飛行機が頭上を飛んでいる。八尾空港からの飛行機だろうか。
橋を渡り切ってすぐに「信貴山観光iセンター」があり、立ち寄ってみた。中はクーラーが効いていて快適だ。涼みがてらしばらくお土産を見る。売られているものに八尾の気配は無く、ほぼ奈良の物産だった。
祖父母へのお土産にと、虎が描かれたカップ酒とせんべいに目をつけて、帰りにまた寄ることにする。
すぐ横の木漏れ日溢るる灯籠を抜けて成福院へ。
途中で巨大な張子の虎があってかわいい。
思いの外敷地が広く、複数のお堂があった。まずは祖父母に見せるための写真を撮り、そこからぐるりと歩く。
遠くから太鼓の音と、怒鳴り声に近い迫力のお経が聞こえてくる。ちらほら参拝者がいた。
周辺はこれでもかと虎のモチーフが続いている。
たまに外国の観光客にも出会した。
虎ならなんでもいいのか、燈篭に阪神タイガースのステッカーまで貼られている。
今から信貴山観光センターに戻ってお土産のカップ酒を買うため、荷物を軽くしようと水筒の水を飲み干した。山は地上より少しだけ涼しく、夏が大嫌いな私でもいくらか正気を保てている。
会計をし、お釣りを受け取りがてらレジのおじさまに「祖父が60年前ここでお坊さんをしていたみたいで」と話してみる。「そうですか!まだご健在で…?」と恐る恐る聞かれて、笑いながら「大丈夫、生きてます」と返事をした。祖父母と一緒に食べますねとお礼を伝え、包んでもらったお酒とせんべいをエコバッグに入れる。
せんべいには信貴山の虎がプリントされていて、割らないように恐る恐る運びながら来た道を戻った。
沿道にあるランチの蕎麦にかなりそそられるが、今日の主旨は八尾の取材であり信貴山は奈良なので、ここで食事をすると何かに違反してしまう気がして高安山へ戻ることにした。高安山へ向かうバスが来るまで20分あったので、屋根のある待合所で座ってピクミンブルームをする。と、急に巨大な虫が入ってきて慌て散らかした。手持ち扇風機で身体を乾かすことに集中して気を紛らわす。
普段引き込もりなので体力が落ちており今日の暑さと運動に耐えられるか不安だったが、いくらか慣れた気がする。久しぶりの運動でお腹が空いていて、今一番食べたいいかなごの釘煮とお蕎麦を思い浮かべながらバスを待った。
やって来たバスは再び貸し切り状態だった。ケーブルカーの駅に着いたあと乗り継ぎまで少しあったため、高安山の自然歩道の階段を登って展望台へ行ってみる。
体感15段ほどの階段で頂上へ。
緑に囲まれた階段を抜けると、途端に絶景が広がった。椅子が、なんというかとても親しみ深いもので、圧倒的な景色とのギャップが面白い。東屋のような休憩所があり、掲示物の雰囲気から家族連れが休日におにぎりを食べに来るような場所なのかも、と思い巡らす。
しばらく景色を見たあとケーブルカーで下りた。
下りは、行きよりもさらに角度が急に感じられて少し怖い。窓が開いているが虫はおらず快適だった。乗客はまた、わたしひとり。
LINOASで夏ビジュアルの現場写真を撮っておこうと、近鉄八尾駅へ向かう。
途中で別件の見積もり依頼のメールが来たので、LINOASのベンチに座って返信した。
ショッピングがてら館内を歩き、自分の絵が印刷されているフラッグやポスターを撮る。以前も服を買った2Fの「Te chichi」に寄り、黒い薄手のズボンを買った。夏はいつもテロテロのズボンを履いている。他にも買いたい服がたくさんあったが、今日はひとまず節約だ。
空腹もピークを過ぎて落ち着いたので、このまま近鉄線に乗って帰ることにする。一日中汗をかいたため人の横へ座るのが躊躇われ、ドア横に立って撮影写真のデータ整理をした。
帰ったらシャワーを浴びて唐揚げを作り、ポッカレモンとウォッカを炭酸で割って飲もう。